2021年12月14日
まるでクリスマスプレゼントのよう 「パ・ラパパンパン」
Come they told me,
pa rum pum pum pum
A new born King to see,
pa rum pum pum pum
Our finest gifts we bring,
pa rum pum pum pum
To lay before the King,
pa rum pum pum pum,
rum pum pum pum,
rum pum pum pum,
不覚にもこの作品のタイトルが ”The Little Drummer Boy” の歌詞の一節であること、劇中でこの曲が流れるまで気づいていませんでした。
でも、こんな幸せな気持ちで♪pa rum pum pum pum, rum pum pum pum を聴いたの、初めてだったな。
COCOON PRODUCTION 2021+大人計画
「パ・ラパパンパン」
作: 藤本有紀
演出: 松尾スズキ
音楽: 渡邊崇 美術: 池田ともゆき 照明: 大島祐夫
衣裳: 安野ともこ 映像: O-beron inc. 振付:振付稼業air:man
出演: 松たか子 神木隆之介 大東駿介 皆川猿時 早見あかり
小松和重 菅原永二 村杉蝉之介 宍戸美和公 少路勇介 川嶋由莉
片岡正二郎 オクイシュージ 筒井真理子 坂井真紀 小日向文世
2021年12月9日(木) 1:00pm 森ノ宮ピロティホール F列上手
(上演時間: 2時間50分/休憩 20分)
物語: デビュー作が少し売れて以来、鳴かず飛ばずのティーン向け小説家・来栖てまり(松たか子)は、再起を図るため「本格ミステリーを書く」と宣言したものの全く構想が思い浮かばないでいます。 編集長(オクイシュージ)から引導を渡すよう指示された担当編集者の浅見鏡太郎(神木隆之介)は、逆にてまりに協力して手伝うことに。世間はクリスマスシーズンという思いつきからディケンズの小説「クリスマス・キャロル」の世界を舞台に、極悪非道の守銭奴のスクルージ(小日向文世)が殺されるというミステリーを考えますが、展開も時代考証もでたらめなまま勢いで書き進めるうちに、現実と作中とが曖昧になっていき・・・。
現在オンエア中のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の作者(2007年の「ちりとてちん」の作者でもある)藤本有紀さんの書き下ろし作をシアターコクーンの芸術監督でもある松尾スズキさんが演出した作品。
笑いが散りばめられる中に控えめながら毒もちらつくところが松尾さんらしさでしょうか。
全く予備知識なしで観ましたので、冒頭、「クリスマス・キャロル」の物語世界から飛び出してきたような作り込んだ拵えのスクルージはじめ登場人物が次々現れ、顔と役名が映像で映し出される中、全員が石造りの橋梁の上に勢ぞろいした時には、「え?クリスマス・キャロルなの?!」と驚きました。
すると一転して現代のマンションの一室らしき部屋となり、てまりと浅見くんのテンポよい会話から物語は始まります。
てまりのミステリー小説の筋立てという設定で、ディケンズの「クリスマス・キャロル」の世界が劇中劇として展開。
「クリスマス・キャロル」はずいぶん昔に読んだことがあるものの、「守銭奴のスクルージ」という名前以外はほぼ忘れていたのですが、登場人物観ているうちに少し思い出してきました。
そうそう、フレッド(大東駿介)がスクルージの甥で、モンナ(早見あかり)はその妻なのね とか
ボブ・クラチット(村杉蝉之介)はスクルージに低賃金で雇われている書記で、妻はベス(坂井真紀)、そして彼らの子供が足が悪く病弱なティム(川嶋由莉)・・・ティムはいつもドラムを叩いていて、"The Little Drummer Boy"を象徴する存在のようでした。このティムがねー、なかなか無邪気な毒を吐くのよ。
資産家のウィルキンス夫妻(皆川猿時・筒井真理子)をはじめ他にも登場人物はたくさん出てきましたが、原作を忘れていることもあって、小説に出てきた人物なのかてまりがつくり出した人物なのか判別つかず💦
クリスマスの朝、スクルージが自宅で死体となって発見され、犯人捜しが始まります。
最初に疑われたのはフレッドで、彼の母(スクルージの妹)が描いた絵が欲しかったという動機から。
フレッドも「自分がやった」と自供しますが、これは妻のモンナが真犯人だと思って庇うためだったことがわかります。
この告白の場面で、急に芝居のトーンが変わるフレッド。
「フレッド、そんな蜷川幸雄の秘蔵っ子みたいな話し方やめて」というモンナの言葉にこの日イチ笑いました。
大東駿介くん渾身の藤原竜也憑依。
元々台本にあったのか、松尾さんの演出なのかわかりませんが、松尾さんってよく蜷川さんネタにしますよね(笑)。
クリスマス・イブの夜に彼の家を訪ねた3人の女性がいたというのは、「クリスマス・キャロル」の3人の幽霊からとったものかな。
一番目は夫のフレッドを思ってやって来たモンナ
二番目はティムの薬をもらいに来たベス
最後はウィルキンスの妻イザベル
スクルージのことを「エベネーザ」とファーストネームで呼ぶイザベル
はじめの2人は戸口で拒絶したのにイザベルだけは少し待たせてから部屋に入れるスクルージ
2人は恋人同士だったことが感じられます。
スクルージが持っている、彼の妹(フレッドの母)が描いた絵を見せてほしいと懇願するイザベル
「今はもうない」と答えるスクルージ
雪の夜、スクルージの家のドアの前に立つイザベルがとても寒そうだったから、少しでも温めてやろうと暖炉に火を灯すために、そして燃やすものがなくてその絵を燃やしてしまったのでした。
このあたり、ちょっとオー・ヘンリーの「賢者の贈り物」っぽい展開。
これだけでも切ないのに、そのこと・・・つまり絵に含まれていた顔料がスクルージの死の原因になったのはなおさら切ない。
そんな切なさとともに、いかに悪徳非情で守銭奴のスクルージにも人を愛する心はあったし、愛する人のためにできることをしようとする彼の気持ちに心温まるような余韻がありました。
ここにはさらに仕掛けがあって、てまりが書いていくストーリーの中で「後で困った時のために生かしておこう」と言っていた通り、スクルージは生きていて、てまりの大ピンチを救って「困ったことが起きた時のために生かしておいてくれたんだろう?」とあまり笑いもしないで言うなんてシビれる展開が待っていました。
いっぱい笑ってちょっとしんみりして、本当にクリスマスプレゼントみたいな舞台だったなとしみじみ。
芝居に歌にダンスに、コメディエンヌとしても超一流の松たか子さん無双。
美人なのに表情豊かで観ているだけで楽しいし、軽いタッチの会話も気合入れた台詞もきちんと届く口跡のよさ。
歌声は本当にのびやかで、聴いていてとても心地いい。
フィナーレで逆三角形の頂点でのダンスもひたすらカッコよかったです。
対する神木隆之介くんも台詞のテンポよくて、松たか子さんとの掛け合いがとても自然。
それほど声を張っている印象ではないのにこちらも台詞はちゃんと届いて感心。
あまり熱くならず、醒めた感じでてまりを俯瞰する編集者がお似合いでした。
笑わず常に陰鬱な表情、いかにもスクルージの雰囲気の中、全く表情変えずボケも入れてくる小日向文世さんさすがですし、ベクトル別方向ながらどちらもテンション全開、いつも清々しいほど全力投球の皆川猿時さん、小松和重さんすばらしいし、大東駿介くんが達者なのはもちろん、体当たりでコケティッシュなモンナを演じた早見あかりさんも印象的でした。
帰り道はずっと ♪パ~ラパパパンパーン ラパパパンパン と歌いながら帰りました のごくらく地獄度 (total 2241 vs 2242 )
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