
本来ならば通して上演すると1日かかる「仮名手本忠臣蔵」。
この状況下、今の興行形態(三部制)でもできる忠臣蔵を、と企画された演目です。
描かれるのは12月11日・12日・13日 そして討ち入り当日12月14日の4日間。
「仮名手本忠臣蔵」では語られない外伝を集めた「もう一つの忠臣蔵」。
演じるのは、松本幸四郎、市川猿之助 両兄さん率いる若手花形役者の皆さん。
吉例顔見世大歌舞伎 第三部
「花競忠臣顔見勢」(はなくらべぎしのかおみせ)
序幕 第一場 鶴ヶ岡八幡社頭の場
第二場 桃井館奥書院の場
第三場 稲瀬川々端の場
第四場 芸州侯下屋敷の場
第五場 同 門外の場
大詰 第一場 槌谷邸奥座敷の場
第二場 高家奥庭泉水の場
第三場 元の槌谷邸の場
第四場 花水橋引揚げの場
作: 河竹黙阿弥 渡辺霞亭
補綴: 戸部和久
構成・演出: 石川耕士 演出: 市川猿之助
出演: 尾上右近 中村歌之助 市川笑也 市川猿之助 市川猿弥
中村歌昇 松本錦吾 松本幸四郎 坂東新悟 澤村宗之助 中村鷹之資
中村隼人 大谷廣太郎 中村福之助 中村米吉 ほか
2021年11月26日(金) 6:00pm 歌舞伎座 1階7列センター
(上演時間: 2時間22分/幕間 20分)

櫓と千穐楽の幕がともにあがる歌舞伎座は1年の中で11月のこの日だけですね
緞帳が上がると定式幕の前には白いマスクと黒いマスクをつけた二体の口上人形。
声は幸四郎さんと猿之助さん。
「四十七士登場すると密になるので人数は数えないように」といったユーモラスな解説も交えながら公演の概要と、4日間の物語であることが語られます。
録音かな?とも思ったのですが黒マスクの猿之助さん人形が「今日はめでたき千穐楽」とちゃんとアップデートされていました。
そして定式幕がゆっくり、本当にゆっくり徐々にひかれると、そこは足利直義を中心に高師直、塩冶判官、桃井若狭之助ら居並ぶ鶴ヶ岡八幡社頭の場。
物語の発端のここだけが4日間とは別の場です。
義太夫の声に合わせて、一人、またひとりと命が吹き込まれたように目を開いていく様を見ていて、「あ~『仮名手本忠臣蔵』の通しが観たいっ!」と思いました。
兜改めを終えた顔世御前に横恋慕する高師直から庇った桃井若狭之助が師直から散々に侮辱されて耐え切れずついに斬りかかり・・・というところで「桃井館奥書院の場」へ。
師直に刃傷に及んだのは若狭之助の夢だったという設定で、「もし一つ間違えば今の塩冶殿の運命はわがこと」と塩冶判官とその家中の者たちに思いを寄せます。
ここから1日1つの物語がスピーディに展開します。
”外伝を集めた物語”ということで、オムニバス形式で一場ずつが繋がっている訳ではありません。
しかしながら「忠臣蔵」という一つの物語の中の話。よく知っている登場人物の知っているエピソードばかりなので混乱することはありませんでした。
が、これは「忠臣蔵」の物語や登場人物、外伝についても”知っている前提”の演目だなとは思いました。
描かれた物語は
・桃井若狭之助(幸四郎)が家老 加古川本蔵の娘小浪(米吉)と大星力弥との縁組みに心を砕く「桃井館奥書院」
・赤垣源蔵(福之助)の「徳利の別れ」を題材にした「稲瀬川々端の場」
・大星由良之助(歌昇)が亡き主君の妻 葉泉院(右近)に別れを告げに来る「南部坂雪の別れ」を描いた「芸州侯下屋敷」
・「松浦の太鼓」でおなじみ 討ち入り当日の吉良邸隣家の槌谷主税(隼人)を描く「槌谷邸奥座敷」
・そしてクライマックスの討ち入り「高家奥庭泉水」と「花水橋引揚げ」
どの場も楽しく拝見しましたが、特に見応えがあったのは、「芸州侯下屋敷の場」と「槌谷邸奥座敷の場」、そして「高家奥庭泉水の場」です。
暇乞いに葉泉院のもとを訪れる大星由良之助。
間者がいるのを察知して本心を偽る由良之助に、落胆と怒りのあまり亡き塩冶判官の位牌で打ち据える葉泉院。
由良之助はじっと耐え、吾妻日記と巻物を一巻、戸田の局(猿之助)に預け邸を後にしますが、その一巻こそ四十七士の連判状でした。
歌舞伎だけでなくドラマなどでも名場面の一つですが、由良之助を演じる中村歌昇さんがすばらしかったです。
葉泉院の右近くん、戸田の局の猿之助さんとともに濃密な空間をつくり上げていました。
間者を察知した時、一瞬見せた鋭い目つきとそれを押し隠して葉泉院に対するところ、懐が深く思慮深い人物であることが見て取れます。
目一杯の熱演で、由良之助の大きさはまだこれからというところではありますが、吉右衛門さん味を感じるところが端々にあって、側でよく観て勉強しているんだろうなと思いました。
それにしても台詞の声、本当にいいよね。
「槌谷邸奥座敷の場」はまんま「松浦の太鼓」ですが、お殿様がよく似合う隼人くんが丁寧に演じていて、飄々とした猿弥さんの其角、たおやかで健気な新悟くんのお園(新悟くんは大序の足利直義も品よくゆったりしていてよかった)、最後にキリッと登場する右近くんの大鷲文吾とともに物語世界をつくり上げていて、まるで一幕観たような気分になりました。
「高家奥庭泉水」は何と言っても幸四郎さん清水大学 vs 鷹之資くん大星力弥の殺陣にテンション


22歳で踊り巧者で腰も据わってる鷹之資くん相手にあれできる幸四郎さん48歳すごくない?
よく通る声もよい鷹之資くんは、切れ味鋭く、面差しはますます富十郎さんに似てきて頼もしい限りです。
ラストは義士たちが勢揃いした花水橋に幸四郎さん桃井若狭之助が馬に乗ってやってきて力弥と小浪が結ばれる中、戯作者の河雲松柳亭こと猿之助さんも登場して、お兄さんたち二人がいいとこ持っていくという大団円でした。
とはいうものの、主要な役はすべて若い役者さんに委ねた舞台。
開幕前のインタービューで
幸四郎さん:「これからの歌舞伎に希望を持てる、そういう舞台にしたいと思いもあり、若手の方々みんなに活躍してもらいます」
猿之助さん:「それぞれの場面の主役には、将来この役を勤めてもらいたい、当たり役になってほしいという思いをもって、彼らがこれをしっかり勤められるようになるということを見越したうえで配役をしております」
とおっしゃっていた期待に、花形の皆さんが熱演で応えた形。
このメンバーで「仮名手本忠臣蔵」通し上演できる明日を願ってやみません。
とはいえ、おばちゃんも残された時間そうたくさんないから花形の皆さんは急ピッチで仕上げていただきたい・・・できれば染五郎くんも團子くんも入れてほしい のごくらく地獄度



