
劇団☆新感線 今年は春に「月影花之丞大逆転」がありましたが、あの作品は「密にならない短い上演時間で観たお客様が元気になる作品を」という着想の「Yellow/新感線」というイレギュラーな形でしたので、本興行としては2020年春の「偽義経冥界歌」東京公演以来、1年半ぶりのフルスペック新感線。
安倍晴明没後千年にあたる2005年の少し前から「安倍晴明の物語をやりたい」と考えていた中島かずきさんが、今回「倫也で晴明やりたいんだよね」といのうえひでのりさんに話して実現したという中村倫也晴明 満を持しての誕生です。
2021年劇団☆新感線41周年興行秋公演
いのうえ歌舞伎 「狐晴明九尾狩」
作: 中島かずき
演出: いのうえひでのり
美術: 二村周作 照明: 原田 保 衣裳: 堂本教子
音楽: 岡崎 司 作詞: 森雪之丞 振付: 川崎悦子
殺陣指導: 田尻茂一 川原正嗣 アクション監督: 川原正嗣
映像:上田大樹
出演: 中村倫也 吉岡里帆 浅利陽介 竜星涼 早乙女友貴
千葉哲也 高田聖子 粟根まこと 向井理 右近健一 河野まさと
逆木圭一郎 村木よし子 インディ高橋 山本カナコ 磯野慎吾
吉田メタル 中谷さとみ 保坂エマ 村木仁 川原正嗣 武田浩ニ ほか
2021年11月4日(木) 1:00pm オリックス劇場 1階3列センター/
11月11日(木) 1:00pm 1階19列上手
(上演時間:3時間/休憩 20分)
物語:平安時代、宮廷陰陽師として仕える安倍晴明(中村倫也)はある夜、九つの尾を持つ凶星が流れるのを見て急を告げに参内しますが、晴明の親友で陰陽師宗家の跡取りでもある賀茂利風(向井理)が留学先の大陸から帰国しており、半分獣の血が流れていると帝の母である元方院 (高田聖子)に疎まれている晴明は退けられます。利風の身体が「九尾の妖狐」に乗っ取られていることに気づいた晴明は、九尾の妖狐を追って大陸からやって来た桃狐霊 (吉岡里帆)に事情を聞き、力を蓄え日本の国までもわがものにしようとする九尾の妖狐を倒すために立ち上がります・・・。
”フルスペック”ではあるけれど、ストーリーはとてもシンプルで、安倍晴明 vs 九尾の狐 という構図に晴明と利風の切ない友情を織り交ぜて描かれています。
いのうえ歌舞伎特有の因果な人間関係とか人の業といったものは影を潜め、いつも主筋にプラスされる笑いやギャグなどもほとんどなくてスッキリとした仕上がり。休憩含めて3時間の上演時間も新感線にしては短めです。このあたり、コロナ前の新感線とはやはり違っているなという印象でした。
ギャグについては「あれが好き」「あれがあってこそ新感線」というファンが多いことは重々承知していますが、私は苦手。いつも「あれいらんし~」と思って観ていましたのでこの改編はとても好感。
あやかしたちがそれの一端を担ってはいるけれど、いつもに比べたら断然あっさり目で、可愛いかったです。
物語が展開していく中で、何の説明台詞もなく利風が大陸へ行く前という過去の場面が挿入されますが、混乱することはなく、ここで利風が口にした「しるしを遺す」という言葉がラストにバチッと効いてくる展開に、かずきさんさすがだなーと感心することしきり。
晴明が「これは僕と利風の知恵比べ」と九尾の狐に言い放つ場面、晴明にとって利風が、そして利風にとっての晴明も、友情というだけではなく、陰陽師としてのあり方や切磋琢磨するという上でどれほど大切な存在だったかいう思いに胸がいっぱいになりました。
九尾の狐に刀を突き立てた末期の末期、「これでいいか、利風」と晴明が言い、「ああ、これでいい」と利風の声が聞こえるところ、あれは晴明の心が利風の姿を見てその声を聴いたのか、それとも身体を乗っ取られた利風の魂がその一瞬だけ本当に現れたのか、思うだに泣けてきます。
だから、最後に感情を抜き取られてしまって、流れる星を見て、「あ、今泣いたのか」とつぶやく晴明が切なくてまたナミダ。
とてもおもしろく拝見しましたが、中島かずきさんがプログラムに書いていらっしゃった「以前考えていた晴明の物語はかなり重い展開」というバージョンも観てみたかった気がします。

安倍晴明の中村倫也さんすばらしい。
声よし姿よし芝居よし殺陣よし。
あの紫の狩衣が本当によく似合って、指を立てて呪術を唱える姿は晴明のイメージそのもの。
どことなく人間離れ、浮世離れしていて、ふわりと捉えどころのない感じを終始保って晴明としてあり続けるのもすごいなと思いました。
両手に刀を持っての殺陣は、長い袖がひらりと揺れて、その袖が上に真っ直ぐ伸びてまるで舞のように美しい。
あんなふうに綺麗な形を見せながら激しい殺陣をするのは実はすごく大変なことだということは察しがつきますが、難なくやっている印象なのも晴明っぽい。
声がいいのはもちろんなのですが、どんなに声を張っても言葉がきちんと届くのもすばらしいです。
いのうえさんと中島さんがお二人とも倫也くんを発見したのは「真心一座身も心も 流れ姉妹 かつことたつこ~獣たちの夜~」(2009年)だと揃っておっしゃっていて、「そうそう、あの倫也くんよかったよね~」と自分の感想読み直したら(こちら)「今回のワタシ的イチ押し」と書いていました(^^ゞ その前年の「悪夢のエレベーター」(こちら)で発見したとも書いていて、いのうえさんたちより早く見つけた~とちょっぴり自慢です(←)。
その前に「恋の骨折り損」でも「さらばわが愛 覇王別姫」でも観ていたのに気づいていなかったけれども💦
倫也くん、映像の世界でもすっかり売れっ子ですが、時にはこうして、「舞台でしか観られない倫也」を見せていただきたいです。
賀茂利風/九尾の狐は向井理さん。
「だいじょうぶかな?」と心配してごめんない。とてもよかったです。
正直のところ、舞台に登場してしばらくは「え~、棒読み変わってないじゃん」(「髑髏城の七人」のトラウマ)と思っていたのですが、九尾の狐と身バレしてからは声色までガラリと変わったので、あれは憑りつかれている演技だったのね。
利風の時の爽やかでやさしい笑顔が本来の持ち味かと思いますが、見事な化けっぷりでした。
あと、やっぱり顔が小さい。12頭身なの?!
桃狐霊・藍狐霊 姉弟の吉岡里帆さん、早乙女友貴くんは衣装もアニメチックでかわいい。
吉岡里帆さんは声もよく通り、チャーミングでガッツもあるタオフーリン。これまで観た舞台の彼女の役の中で一番好きです。
友貴くんのランフーリンが直情的で騙されやすいけれど健気でもあり。そしてやはり殺陣のスピードが人間離れしています。
殺陣といえば、浅利陽介さんが川原正嗣さんと殺陣で対峙するのを観る日が来るなんて。
実直で一本気で検非違使としての矜持を失わない尖渦雅(とがりのうずまさ)ステキでした。
蘆屋道満 の千葉哲也さんがいかにも食えないオヤジなのに色気も愛嬌もあって秀逸。ふにゃふにゃしてるけど実は腕も立ちそう。大好き。
道満とともにいるあやかしの藻葛前 村木よし子さんもカッコよかったです。薄衣ふわりと翻すの。
いつも晴明に寄り添うあやかし白金 山本カナコさんのさり気ない温かさも好きでした。
ぼぞりとつぶやくように「じぇじぇじぇだよ」とおっしゃっていて、「今じぇじぇじぇって言った?」と驚いていたら、「びっくりしたなぁもうだよ」「アッと驚く為五郎だよ」の三段活用でした(笑)。11/11は二番目が「びくびくびっくりびっくりだよ」みたいな言い方だったから日ネタなのかな。
幼い天皇の母親で実権を握る元方院が高田聖子さん、実直で晴明のよき理解者と見えて実は・・・な左大臣 粟根まことさん、日和見でバカっぽいけど苦労していい人にキャラ変する右大臣 右近健一さん、要領がよくて薄っぺらな検非違使 又蔵将監が河野まさとさん・・・などナド、全く予想を裏切らないいかにもなキャスティングですが、竜星涼さん演じる野武士集団頭領の虹川悪兵太のキャラクターが、「髑髏城の七人」の兵庫とその登場の仕方までも丸カブリしていて、ここはかずきさんどうしたの?!と思ってしまいました。
装置は比較的シンプルで衝立風の壁や拝啓を横移動させて舞台転換。
巨大化する九尾の狐や呪術は映像や照明のエフェクトで表現されていましたが、映像多用という印象はありませんでした。
照明は相変わらずとても綺麗でした。原田保さんの照明はいつも大好きですが、新感線の舞台でことさら映える印象です。
そうそう、劇中歌は島袋寛子さんだったのね。何気に友貴くんとご夫婦共演だったり。
1回目観た時、「え?どこで替え玉と入れ替わったの?」という場面が3ヵ所(晴明・桃狐霊・利風)あったのですが、さすがに2回観るとすべて回収できました。
11月11日は大千穐楽で、エアおせんべい撒きとキャストのご挨拶(中村倫也さん・吉岡里帆さん・向井理さん・逆木圭一郎さん)がありました。吉岡さんと向井さんはご家族が客席に観にいらしていたのだとか。

勢いで買ってしまったグッズのもふもふキーホルダー。
狐柄の my フェイラーにぴったり(?)
次の公演の頃にはリアルおせんべい撒きできますように のごくらく地獄度



