
宙組 芹香斗亜さん 「群盗」(2019年)以来、2年8ヵ月ぶりの主演舞台はブロードウェイ・ミュージカル。
ビリー・ワイルダー監督の映画「アパートの鍵貸します」(1960年)をベースにニール・サイモンが戯曲化して1968年にブロードウェイで初演された作品。音楽はあのバート・バカラック♪
宝塚歌劇 宙組公演
ブロードウェイ・ミュージカル 「プロミセス、プロミセス」
PROMISES, PROMISES
Book by Neil Simon
Based on the Screenplay THE APARTMENT by Billy Wilder and I.A.L. Diamond
Music by Burt Bacharach Lyrics by Hal David
翻訳・演出: 原田 諒
オリジナル翻訳: 伊藤美代子 音楽監督・編曲: 玉麻尚一
振付: 麻咲梨乃 装置: 松井るみ 衣装: 有村淳
出演: 芹香斗亜 天彩峰里 松風 輝 和希そら 瀬戸花まり 紫藤りゅう
秋奈るい 留依蒔世 若翔りつ 真名瀬みら 風色日向/輝月ゆうま ほか
2021年11月17日(水) 11:30 シアター・ドラマシティ 9列下手
(上演時間: 2時間40分/休憩 25分)
物語:ニューヨークの保険会社に勤める経理担当のチャック(芹香斗亜)は食堂係のフラン(天彩峰里)に心惹かれていますが、相手にされません。ある日、チャックは会社の重役から妻には言えない秘密の逢引きのためにアパートを貸してほしいと頼まます。困惑しつつもその依頼を受け入れ、アパートの鍵を貸すお人好しのチャック。そんな彼の噂が重役たちの間で広まり、ついには人事部長のシェルドレイク(和希そら)からも依頼が舞い込み、チャックは出世のチャンスとばかりにシェルドレイクにアパートの部屋を貸しますが、ひょんなことから、彼の不貞の相手がフランであることを知ってしまいます・・・。
「アパートの鍵貸します」という映画のタイトルは知っていましたが観たことはなく、ストーリーも知りませんでした。
公演ポスターが公開された時、「わー、楽しそう!」と思ったものですが、期待通り、いや、期待以上にとても楽しかったです。
舞台の上に3階建てに組まれた装置。
2階3階部分がチャックのアパートの部屋で、上の部屋のベッドから起き出して、歯を磨き、顔を洗って鏡を見ながら髪を整え・・・という朝のグルーミンングの様子がバート・バカラックの音楽に乗って展開されて、まるで映画のワンシーンのようでした。
スーツに着替えたチャックがトーストをほおばりながらアパートに鍵をかけて出勤。満員電車に揺られている間に装置がぐるりと回転するとオフィスになるという展開。オフィスでは可動式のデスクにみんな座って軽快なダンスで忙しく働く様子を表現。テンポよくてワクワクするすべり出しです。
暗転はなくて装置が回転してチャックの部屋だったりシェルドレイクの執務室になったり、階下はオフィスやバーやレストランになったりと、シンプルながらエッジの利いた舞台装置で、誰だろ?とプログラム確認したら松井るみさんでした。さすがです。
チャックにアパートの鍵を借りる会社の重役たちはみんな浮気相手との逢瀬のために使う訳で、言うなれば不倫オンパレードのけしからん話で、しかもシェルドレイクとフランはかなりドロドロ不倫(フランの一方的な思いにせよ)なのですが、そこはタカラヅカ。下品にならず、軽く明るく楽しく。都会的で明るい芹香さんの持ち味ともマッチして、極上のロマンチック・コメディに仕上がっていました。
フランにも名前を覚えてもらえないような「誰からも気づかれない地味な」チャックの独白をはじめ、気が利いたセリフが散りばめられていて、大げさなギャグなどではなく、台詞の妙味で笑わせたりほろりとさせたり、という脚本が絶妙で、さすがはニール・サイモンだわと感心。
もちろんそのエッセンスはそのままにタカラヅカ流に仕上げた原田先生の手腕にも脱帽です。
楽曲も、難しそうなナンバーもあるにもかかわらず、メインキャストが歌える人ばかりなので、ストレスフリーで歌詞もどんどん入ってきます。
中華レストラン ラム・ディンでフランが着ていたサーモンピンクのコートをはじめ、少しクラシカルな衣装もみんなかわいい。
芹香斗亜さんのチャックはビジュアルがカッコよすぎて、”地味でモテない僕”には全然見えませんが、かわいらしさ炸裂。
生真面目でお人好しで少し気弱で頼りないけれど、譲れないところは譲らないチャックがとても愛おしい。
これまでの公演でも折り紙付きのコメディセンスも如何なく発揮。
可愛さもピュアさも無邪気さもセクシーさもカッコよさも色気も・・・芹香さん持ちすぎではない?
直近の2作(「アナスタシア」・「シャーロック・ホームズ」)で演じたような芹香さんの悪役が大好物なのですが、それとは対極にいるようなこのチャックがまたハマリ役で、ほんと、芹香斗亜無双。
そして、チャックのこのかわいらしさに気づかないフランってどーよ?とも思います。
が、フランは賢くて自分の意思もしっかり持った女性なのに、そしてシェルドレイクはハタから見ていても胡散臭い感じなのに、ミス・オルスンに言われるまでそのことに気づかず(あえてそこから目を背けていたのかもしれませんが)、真実を知って深く傷ついて自殺まで図るというあたり、やはり恋って盲目だなと思いますし、それほど真剣にシェルドレイクを愛していたのだろうことは理解できます。
そのフランは天彩峰里さん。
ただ不倫に溺れるのではなく、しっかりしたした意思と強さも弱さも併せ持っていて、だからこそシャルドレイクとの関係に悩むというフランを等身大で表現。さすがにお芝居上手くて、現実のフランとチャックの妄想の中のフランの演じ分けも鮮やか。
歌にも定評のある天彩さん、オフィスに届けられた花束を手に歌う "I Say A Little Prayer" とてもよかったです。
シェルドレイクの和希そらさん。
社内の女性に次々手を出して、家庭を壊すすもりはサラサラないのに「妻とは離婚する」といとも簡単に口にするゲス男なのですが、そらくんがやるとあら不思議、とても魅力的なエグゼクティブに。
いかにも仕事ができるキレ者で、傲慢なほど自信満々。ピシリとスーツを着こなし、ちょっとカフスを触る仕草の色っぽさ。いや~、フランでなくても惚れてまうやろ~(←)
ただし、元愛人の秘書のお取り扱いだけは詰が甘かったですね。
この作品が専科異動後初出演となる輝月ゆうまさんは、チャックの隣人のドクター・ドレファス。
最初に出てきた時、誰かわからなかったくらいつくり込んだ拵えで気骨ある中年の医師を体現。
睡眠薬を過剰摂取したフランを助けて、チャックと一緒にフランを励まして歌う曲(多分 "A Young Pretty Girl Like You" )が、「晴れた日もあれば雨の日もある」「手をあげよう!無料でできる」「太陽もスマイル」「ハッピー」「OK!」みたいな歌詞で、聴いていて私もとても励まされました。
傷ついたフランを通してではあるけれど、きっとそんな”人生の応援歌”的な面がこの作品にはあるから、広く愛され続けているのでしょう。
いかにもアメリカ映画に出てくるやり手の秘書という趣の瀬戸花まりさんのミス・オルスン、イケオジぶりに見惚れた紫藤りゅうさんのヴァンダーホフ、あのイケメンバーテンダー誰?ー風色日向くんかぁナルホド・・・などナド、多士済々の出演者の中で、忘れちゃならない留依蒔世さん。
初日の1週間前に愛海ひかるさんが体調不良のため休演、愛海さんが演じる予定だったマージ役を「代役:留依蒔世」と発表された時、「え?どゆこと?あられちゃん(娘役)の代役ルイマキセ(男役の中でも男っぽいタイプ)って??」とみんな驚きましたよね。
蓋を開けてみると、これ最初から留依蒔世にキャスティングされていたんじゃない?と思うくらいハマっていて、本来の持ち役と二役の急な代役でご本人はさぞ大変だったかと思いますが、そんなことおくびにも出さないパワフルな好演でした。
留依蒔世さんがお芝居で女役するのを観るのは多分初めてだと思いますが、マージがパワフルな女性であることも幸いして、豪快に明るくコミカルに演じていて、ほんと留依蒔世ってばさすが地力あるなと再認識しました。迫力あるヴォーカルもよかったし、何気にスラリとした美脚も披露していました。
もちろん本役のカール(フランのちょっとコワいお兄さん)もオールバックのリーゼントで眉間にシワ寄せてコワモテぶりを発揮。
カールが登場するところが二役のせいで日ネタみたいになっていて、この日は
チャック: フクロウのコートとか持ってません?(マージがフクロウのコート着ていた)
カール: ああ?💢(自分のジャケットさわって)革だよっ!💢
チャック: フクロウの革とか?
でした(笑)。
そのカールさん、フィナーレでは革ジャンではなくフクロウのコート着て出てきて爆笑したのですが、あれは通常運転なのかな。
上質な脚本と音楽、クリスマスパーティの夜がメインで今の季節にぴったり。
明るいハッピーエンドで多幸感にあふれた舞台。いいものを見せていただきました。
コロナ禍でいろいろとスケジュール調整が厳しい中、大阪は6日間だけの公演で聞きしに勝るチケ難でした。
しかも著作権上の理由で、ライブ配信、BD発売、スカイステージでのオンエアもないのだとか。
こんなにすばらしい作品なのに、本当に残念。
公演ライブCDが発売されるのがせめてもの救いかな のごくらく地獄度



