2021年11月15日

オール・フィメールのシェイクスピア 「ジュリアス・シーザー」


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16世紀 エリザベス朝の時代には女性の役も男性が演じていたシェイクスピア劇を、オール・メールならぬオール・フィメールで演じる作品。
かねてからシェイクスピア作品は虚構性が立った方がおもしろいと思っていた森新太郎さんが、シェイクスピア作品の中でもとりわけ登場人物が男ばかりという政治劇「ジュリアス・シーザー」は女性だけで演じることが一番の強い虚構性になるんじゃないかなと考えたのがこの企画を提案した最初の理由だそうです。


パルコ・プロデュース2021 「ジュリアス・シーザー」
作 :  ウィリアム・シェイクスピア
訳 :  福田恆存
演出: 森 新太郎
美術: 伊藤雅子   照明: 佐藤 啓   衣装: 西原梨恵
出 演: 吉田 羊  松井玲奈  松本紀保  シルビア・グラブ/
久保田磨希  智順  中別府 葵  小山萌子  安澤千草  
水野あや  鈴木崇乃  西岡未央  清瀬ひかり  岡崎さつき  
原口侑季  高丸えみり  藤野涼子/三田和代

2021年11月3日(水) 5:00pm 森ノ宮ピロティホール D列下手
(上演時間: 2時間15分)



物語の舞台は共和制末期 紀元前44年のローマ。
宿敵ポンペイを打ち破ったシーザー(シルビア・グラブ)が凱旋する中、盲目の占い師(高丸えみり)が「気をつけるがよい、3月15日に」と予言しますが、民衆を完全に味方にし、対抗勢力もなく、栄華を極めるシーザーは聞く耳を持ちませんでした。
独裁政治へと向かう危機を予感したキャシアス(松本紀保)は、シーザーの片腕であり国を憂うブルータス (吉田羊)を説得し仲間に引き入れ、シーザーを暗殺します。英雄の暗殺に混乱する民衆を前にブルータスがその理由を述べる演説をすると彼らは納得しますが、その直後、ブルータスの許可を得たと断ってアントニー(松井玲奈)がシーザー追悼の演説をすると・・・。


「ジュリアス・シーザー」はこれまで何作か観ていて(最も印象に残っているのは阿部寛さんがブルータスを演じた蜷川シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」(2014年)。藤原竜也くんのアントニーがとにかく圧巻でした)、だから、物語の流れも結末も知った上での観劇です。


舞台上の鏡が張り巡らされた天井まである高い壁が客席を映し出しているのを見て「まるで蜷川さんの舞台じゃん」とまず思いました。
壁はスライドしたりドアになって開いたり。シーザーの追悼演説の場面で鉄骨で組んだような階段が出てくる以外はすっとこのシンプルなセットで物語は展開します。


物語はかなり短縮版になっており、特に後半の戦闘場面はほぼカットされ、キャシアスが死ぬ場面もありませんでした。
ブルータスが自害する時、何人かの家臣に拒まれた挙句、小姓のルーシアス(高丸えみり)に無理やり手伝わせていましたが、あれは本来別の人物だったのではなかったかしら。嫌がる子供に手伝わせるって、何となく「公明正大で高潔なブルータス」のイメージに合わないなと思いました。

男性を演じる人も女性を演じる人も、衣装は皆さん赤の濃淡を基調にしたロングドレス(シーザーの衣装だけとりわけゴージャス)で、メイクも特に男性、女性と変化はないようでした。

そんな”フィメール”な衣装を着た人たちが声も特に男声という訳でもなく「俺」「お前」という言葉を口にします。
ストーリーを知っていることもあって混乱することはありませんでしたが、こういう演出の下であれば、男性役より女性役の方が難しいと感じました。
男性ばかりの場面では特に「女性が演じている」ということを意識することはなかったのですが、たとえば、ブルータスと妻ポーシャ(藤野涼子)の場面。
ポーシャは髪を少し結ってはいますが、見た目は特にブルータスと変わりなく、声も高くしたりしないので二人の違いがあまり感じられず、夫婦の会話に見えなかったし聞こえなかったのが残念。互いを思いやる夫婦の情念のようなものが感じられないのは、見た目からくるものばかりではないのかもしれませんが、芝居にとっては大切な要素なんだなと改めて感じた次第。

この戯曲の白眉でもあるあの追悼演説の場面をはじめ、膨大な台詞をこなす役者さんたちの演技は圧巻でした。
ブルータスの演説に熱狂した人々が、アントニーの巧みな弁舌によってみるみるうちに扇動されてゆく様は、SNSによって大きな声の流れがつくられていくような現代の状況とも重なって見え、いつの時代も変わらぬ大衆の姿(もちろん自分自身も含めて)に、背筋が寒くなる思いでした。


ブルータスの吉田羊さん。
凛として品があり、口跡よくてどんなに激情あふれても早口になってもきちんと伝わる台詞がすばらしい。

人間味あふれるキャシアスの松本紀保さん、存在感際立つシーザーのシルビア・グラブさん、矍鑠とした雰囲気も感じるトレボーニアスの三田和代さん、ポーシャとオクテイヴィアスを演じ分けた藤野涼子さんなど、役者さんは皆すばらしかったですが、とりわけ驚いたのはアントニーの松井玲奈さん。

松井玲奈さんといえばSKE48出身のアイドルで、最近では朝ドラ「エール」で音ちゃんのお姉さん吟さんの役が印象的な女優さん。
どちらかといえば声もそんなに張らないイメージだったのですが、台詞も堂々としていて、若くて真っすぐで野心家で頭も切れるアントニー、すばらしかったです。声が「本当に玲奈ちゃんなの?」と思うくらい違って聞こえたのですが、どうやら東京公演で喉を傷めたらしい情報も目にして、無事最後まで駆け抜けられるようお祈りしています。




昨年4月から休館していた森ノ宮ピロティホール。今回が改装後初めてでした。天井改修工事と客席の修繕を行ったということですが、お手洗いが明るく綺麗になったことと、ロビーの椅子が新調された以外はあまり変化わからず💦 の地獄度(←作品とは関係ない) (total 2325 vs 2326 )



posted by スキップ at 23:23| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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