
月組 月城かなとさん・海乃美月さん トッププレお披露目公演。
1990年に剣幸さん、こだま愛さんのさよなら公演として上演された日本物と、2021年 珠城りょうさん、美薗さくらさんさよなら公演のショーという二本立て。
どちらもさよなら公演のリバイスなのねーとは思いましたが、さすが芝居の月組、特に「川霧の橋」は、すぐそばを川が流れる博多座にも、木を多く使われた劇場の雰囲気にも、そして日本物お得意の月城かなとさんの持ち味にもよく合って、すばらしかったです。
宝塚歌劇 月組公演
江戸切絵 「川霧の橋」-山本周五郎作「柳橋物語」「ひとでなし」より
原作: 山本周五郎
脚本: 柴田侑宏
演出: 小柳奈穂子
作曲・編曲: 寺田瀧雄 音楽監督・編曲: 𠮷田優子
振付: 尾上菊之丞 若央りさ
装置: 大橋泰弘 衣装: 加藤真美
出演: 月城かなと 海乃美月 光月るう 夏月 都 鳳月 杏
晴音アキ 春海ゆう 夢奈瑠音 蓮つかさ 暁 千星 麗 泉里
英 かおと 天紫珠李 結愛かれん 蘭世惠翔 柊木絢斗 瑠皇りあ
/京 三紗 梨花ますみ ほか
2021年10月24日(日) 11:00am 博多座 1階F列(5列目)上手/
4:00p 1階B列(最前列)下手
(上演時間: 1時間35分)
物語: 江戸隅田川 茅町の大工 杉田屋は棟梁の巳之吉(夢奈瑠音)、お蝶(夏月都)夫婦に子供がなく、幸次郎(月城かなと)を跡継ぎの若棟梁と定めます。同じく腕のいい半次(鳳月杏)と清吉(暁千星)を後見役としますが、我慢ならない清吉は杉田屋を出て上方に行くことを決め、研ぎ職人源六(光月るう)の孫娘お光(海乃美月)に3年待っていてほしいと言い残して旅立ちます。実は幸次郎もお光のことを思っており、杉田屋夫妻から正式に縁談話を持ち込みますが、源六に断られてしまいます。一方、半次は油問屋 相模屋の箱入り娘 お組に身分違いの叶わぬ思いを抱いていました。そんなある日、江戸の下町を焼き尽くす大火事が起こり・・・。
31年ぶりの再演で「柴田先生の作品の中でも非常に評価の高い作品ながら、そのこだわり故にご存命中は再演のかなわなかった作品」とプログラムの小柳奈穂子先生のご挨拶に書かれていて、柴田先生亡くなったからってすぐ再演するってどーなん?と思いましたが、この仕上がりなら柴田先生もきっと「よし!」とおっしゃってくださるのではないかしら。
江戸情緒たっぷりの中、江戸の市井の人々が舞台に息づき、歯切れよく美しい江戸言葉に彩られて、まるで上質の織物のように丁寧に紡がれた物語。
原作を読んだことがなくて、もちろん初演も観ておらず、全くの初見でしたが、とても楽しく拝見しました。
冒頭、月城かなとさん筆頭に、鳳月杏さん、暁千星さん、蓮つかささん、英かおとさんのいなせな太鼓にまずびっくり。
タカラヅカであんな和太鼓演奏聴けるなんて。
タイトルにもなっている柳橋の橋が何度も出てくる舞台装置も素敵でした。
幸次郎が主役ではありますが、お光、半次、清吉、それぞれに物語があって、その物語の絡み具合が絶妙。さらには周りの人々も江戸情緒たっぷり。さすが柴田先生の筆致と感心することしきり。そして、それを体現する月組の皆さんすばらしい。
生きていくことは時に辛く切ない。
そんな人生を、幸次郎もお光もただ真っ直ぐに生きていて、それを見守る半次や周りの人たちが温かく、幾多の辛苦を乗り越えて、二人が手のひらの中の蛍の灯りのような本当にささやかな、でも温かい幸せを手にするラストは多幸感に満ちています。
そこに幸次郎の「もうどこへも行くな」ですよ。そりゃ胸に刺さるっていうものでしょう。
この場面、「遠回りしたようだけどこれで良かったんだ。前よりもお前が可愛くて愛しい」という幸次郎の台詞があって、これ、月城さん、海乃さんがトップコンビとなるまでの道のりそのままじゃない、と思いました。
まるでこの二人のトップまで、作品が再演を待ってくれていたかのよう。そういう意味でもこの再演は神様の采配のようにも感じます。
ここに至る前に、お組が亡くなる場面があって、「おみっちゃんはお組さんの分まで幸せにならなきゃ」と半次がお光の背中を押すのですが、この場面がまた本当によくて。
「半次さん、やさしい人だったわ」と言いながら、そばに半次がいることにさえ気づかないお組。
それを枕元の近づくでもなく、心で泣いて、ただ静かに見守る半次。
からの、お光を送り出し、「清吉、お前の思うようにはさせねぇ」の静かな凄み。
あの後の半次と清吉を想像させる余韻と対比して、幸次郎、お光の多幸感が際立ちました。
月城かなとさんの幸次郎。
日本物の雪組育ちでご本人も日本物好きとおっしゃっている通り、所作や裾捌きの安定感が群を抜いています。
元より台詞も歌もお芝居も穴がなく。
幸さんは、若棟梁に選ばれるくらい仕事ができて人望も厚いいい人なのだけれど、好きなお光にはひと言も気持ちを伝えられず(お土産渡したりはしてたけど)、イライラ落ち込んでいる時には出会った権二郎を殴っちゃったりもする人間的なところもイキイキ描出。
それにしても美しい幸次郎さんでした。
海乃美月さんのお光。
お披露目とはいえヒロイン経験数知れずという海乃さんですのでこちらも安定感抜群。
おみっちゃんは、最初に清吉に告白された時「自分の気持ちがわかってなかった」と後で言っていましたが、若い時は自分を好きだと言ってくれた相手に舞い上がってしまうこと、確かにあるよね。
その若いころと、火事を経て清吉が上方から帰ってきて夫婦として暮らした2年後とは声まで変化させて演じ分けていたのはさすがでした。
歌もお上手で月城さんとの並びも(既視感アリアリではあるが)バランスよくて、コンビとしての今後も楽しみです。
鳳月杏さんの半次。
惚れる、惚れてまうやろー

大工道具を担ぐ半さんの脚の長さに目を奪われ、その道具を重さを感じさせながら大切そうに地面に置く細やかな演技に感心。
自分の気持ちを押し隠して、やさしい笑顔でお組を見る眼差しも、時折ふっと見せる寂しげな表情も。
屋台でお酒のむ後ろ姿も、「清吉、お前の思うようにはさせねぇ」と短刀握りしめて駆け出す足の色っぽさも。
いつも穏やかな半さんのどこにあの凄みが、と思わせるラスト。
歌もまたうまくなったんじゃない?
暁千星さんの清吉。
クズ男なのだけれど、孤独を湛えたような暗い目が、悪役フェチとしてはとても愛おしい。
幸次郎の若棟梁発表の時、一人昏い目をしてそっぽ向いている清吉。
幸次郎への妬ましさや悔しさが怒りになっていた頃の清吉はまだ人間的で、上方から戻って、どんどん闇へと転がっていく清吉が哀しくさえあります。
「誇り?誇りが銭になるか?!」「金がねぇってのは首がねぇのと同じだ!」と言い放つ清吉の飢餓感。
そこに至るまで、そうなるまでのドラマを感じさせます。
そうして最後、「清吉、断ってたら俺も殺したな?」と半次に言われて、「ハハハッ!兄貴ぃ」の言い方と表情が何とも言えなくて、清吉が破滅型の人間で、完全に人の道を踏み外して取り返しがつかないところまで来てしまっていることがあの「兄貴ぃ」だけで伝わる凄まじさ。
光月るうさん源六のいかにも昔気質の老骨ぶり、晴音アキさん小りんの仇な江戸前芸妓さん、蓮つかささん杉太郎の気風のいい江戸っ子弁、麗泉里さんお甲の肝の据わった姐さん、英かおとさん達吉のイケメン小頭・・・上級生から道を歩く下級生に至るまで、江戸の市井の人々を細やかに活写していて、舞台全体から江戸の下町が香り立つようでした。

→ ショー 「Dream Chaser」につづく