2021年10月23日
小さな奇跡の物語 「東京ゴッドファーザーズ」
もう1本 6月に観た舞台でまだ感想が書けていなかったこちら。
2003年に公開されたアニメーション映画の初舞台化です。
観たことがないばかりか、そんな映画があったことさえ知りませんでした。
「東京ゴッドファーザーズ」
原作: 今 敏
上演台本: 土屋理敬
演出: 藤田俊太郎
美術: 乘峯雅寛 照明:日下靖順
衣装: 前田文子 映像: 横山 翼 振付: 新海絵理子
出演: 松岡昌宏 マキタスポーツ 夏子 春海四方 大石継太 新川將人
池田有希子 杉村誠子 周本絵梨香 阿岐之将一 玲央バルトナー
2021年6月12日(土) 12:30pm 兵庫県立芸術文化センター
阪急中ホール 1階E列(3列目)センター
(上演時間: 1時間55分)
物語: クリスマスの夜、ホームレスのハナちゃん(松岡昌宏)とギンちゃん(マキタスポーツ)、家出少女のミユキ(夏子)は、新宿のゴミ溜でひとりの赤ん坊を拾います。生みの親の顔も知らないハナちゃんはその赤ん坊を清子と名付け、自分の手で育てたがりますが、何せホームレスの身。清子の幸せを思い、一緒に捨てられていたコインロッカーの鍵を手がかりに捨てた親を探すために奔走します。その中で様々な事件に遭遇、そしてそれぞれ大切な人との奇跡の再会を果たして・・・。
清子の親を探して、新宿から東京タワー、港区の結婚式場や品川の病院と、あたかもロードムービーのように歩き続ける3人。
舞台化にあたって、時代設定を2003年から2020年へと更新され、コロナ禍を思わせる状況や渋谷のホームレス撲殺事件など、”今”のリアルな現実を盛り込みつつ、路上生活者の救いのない現実とその再生を描いています。
にもかかわらず、どこか寓話的でファンタジー味も感じるのは、この舞台の始まりがクリスマスの聖誕劇で、ハナちゃん・ギンちゃん・ミユキの3人は”東方の三賢者”、そして清子(きよこ)という名前にキリスト・・・というか神様のくだされもののような印象を受けたからかもしれません。
ラストのハナちゃんはマリア様の概念のようにも思えて、キリスト教色の強い物語だなぁと感じました。
原作映画を知りませんので、時代設定以外にどこまで潤色されているのかわからないのですが、観劇後に原作ファンの方のレポをいくつか読んだところでは、原作への敬愛や再現度について、とても満足されている印象を受けました。
特に松岡昌宏さんのハナちゃんについては、「メインキャラクター3人はビジュアルを含めて抜群の完成度。とくに主演の松岡昌宏演じる元ドラァグクイーンのハナちゃんは、セリフの抑揚から身のこなしまで、アニメから飛び出たよう」(産経新聞「鑑賞眼」)という評もあって、逆にアニメ版が観たくなったくらい。
ハナちゃんはいわゆる”オネエキャラ”なのですが、それが本当に自然で、あのいつものアニキ!といった風情の松岡くんはどこへ?という感じです。
これまで何本か出演作を観てきて、口跡がよいのは周知のことですが、台詞の声のよさはもちろん、指先、足の置き方まで神経の行き届いた役づくり。そして、どことなく孤独を感じる眼差し。
加えて、ドラァグクイーンとしてショーで「ろくでなし」を歌う場面の華。
歌はもちろん上手いのですが、松岡昌宏の、ではなく、ちゃんとハナちゃんの「ろくでなし」なのがすばらしい。
ハナちゃん・ギンちゃん・ミユキ以外は8人の役者さんたちが複数の役を演じてアンサンブルも担当。
春海四方さんや大石継太さん、蜷川さんの作品でお馴染みの新川將人さんなどが、あ、この役?といった驚きやお楽しみがありました。
大セリを使って二階建てになった骨組みだけのようなシンプルな舞台セットに、街のざわめきやサイレンや車の音などを使って場面を描出。
天井から吊り下げられたたくさんのゴミ袋が降ってくるシーンなど、舞台美術も意外性があって綺麗で楽しかったです。
この舞台が上演されていたころ、大阪府は土日の有観客イベント自粛要請が出されていて・・・たとえば同時期の「終わりよければすべてよし」(シアター・ドラマシティで上演)は、私はたまたま平日ソワレを取っていたので観ることができましたが、これを観た日と同じ6月12日土曜日のチケットを取っていた友人は公演中止で観られないことに・・・この公演は兵庫県の劇場だったので観ることができた訳で、緊急事態宣言下の厳しい状況下で上演がかなったこと、そしてこうして観劇できたこと自体、物語と同じように小さな奇跡を感じました。
にしてもこの時期に観てまだ感想書いていない舞台何本もあるワタシ、6月7月何してたの? の地獄度 (total 2318 vs 2320 )
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