2021年10月20日
“真実”の不確かさ 「外の道」
先日観た「Le Fils 息子」に浜田信也さんが出演されているのを観て思い出しました。
まだこの作品の感想を書いていなかったことを。
イキウメ 「外の道」
作・演出: 前川知大
ドラマターグ・舞台監督: 谷澤拓巳
美術: 土岐研一 照明: 佐藤 啓
音楽: かみむら周平 衣裳: 今村あずさ
出演: 安井順平 池谷のぶえ 浜田信也 豊田エリー
盛 隆二 薬丸 翔 清水 緑 大窪人衛 森下 創
2021年6月27日(日) 1:00pm サンケイホールブリーゼ 1階E列センター
(上演時間: 1時間55分)
物語: 同級生の寺泊満(安井順平)と山鳥芽衣(池谷のぶえ)は偶然同じ町に住んでいることを知り、二十数年ぶりの再会を果たします。二人は語り合ううちに、お互いに奇妙な問題を抱えていることがわかってきます。
満はある手品師(森下創)との出会いによって世界の見え方が変わり、妻(豊田エリー)の浮気を疑い、几帳面だった宅配便運転手の仕事でも誤配を繰り返すようになります。
品名に「無」と記された宅配便を受け取った芽衣は次第に暗闇に侵食され、さらに息子と名乗る謎の少年三太(大窪人衛)が現れ、家族の過去も改変されていきます。日常生活が困難になっていく満と芽衣は、お互いが理解者であることを知り・・・。
1年前に上演が予定されていたものの緊急事態宣言により全公演中止となり、「来年同じメンバーでやります」とおっしゃっていたとおり、無事上演の運びとなりました。この時期、感染状況はほぼ変わっていない・・・というか感染者数むしろ増えている状況が何ともやり切れませんが。
すりガラスの窓が広がる木造の部屋。
机と椅子が並ぶ、廃校を利用してつくられたカフェのような一室に、一人、またひとりとキャストが現れ、向かい合って椅子に座ったり一人佇んだり。
台詞のないこの時間もまるで短いドラマのようです。
その中の一人が声をかけて二人はかつての同級生とわかり、近況を語り合う中、次第に自分が経験した不思議な出来事の話題となります。
この二人(寺泊満と山鳥芽衣)が真ん中あたりの机に向かい合って座るのですが、他の役者さんたちもずっと舞台上にいて、満と芽衣の語りの中の登場人物になったり、二人のモノローグの語り手になったり、はたまた傍観者となったり。
その存在が揺らぐ状況を増幅させるよう。
宅配便はいつも正しい住所に届けられるのか
住民票に記載されていることは絶対真実なのか
写真に写ったものは本当の過去なのか
毎日見ている妻の顔は本当にそんな顔だったのか
物質は固いのか・・・
当たり前だと思っていたもの、信じていたもの、守ってきた秩序、目に映るすべてが絶対ではない、本当は流動的なものだとしたら?
突きつけられる”真実”(と私たちが考えているもの)の不確かさに背中がぞわぞわ。
次々と信じていたものが揺らぎ、不安の海に溺れそうになった時に襲ってくる、客席までを包み込む闇。
怖くて、怖くて、不思議な世界。
それでも、その闇の向こうにある何か、を感じさせるラストに少し救われた思い。
演劇でしか、劇場という空間でしか、ナマの舞台でしか体験することのできない世界がそこにありました。
三太くんにまつわるあれこれは「そんなことってある?(いや、ない)」みたいな、とても追体験できない事象でしたが、満が妻とスポーツクラブに勤める芽衣の弟との浮気を疑うくだりは、ちょっとした行き違いでいかにもよくあることで、そのあたりの綯い交ぜぶりが何とも絶妙でした。
ほぼ安井順平さんと池谷のぶえさんの語りで構成されている舞台で、だからこそこのお二人の力量のハンパなさが際立ちます。
人生に少し疲れて、生活感を目一杯漂わせながら、どこか飄々として笑いも振りまいてくれます。
暗闇の中で、私たち観客を惹きつけ続けるあの声の力、その凄み。
超常現象を扱っているとはいえ、いつものイキウメとは少しニュアンスの違った作品で、サイコスリラー的でもあり、観念的な作品という印象です。
この1年の間に戯曲は改稿を重ねたということで、コロナ禍の現状を反映したものになったのかもしれません。
だとしたら、オリジナルの方も観てみたかったなと少し思いました。
にしても細かいところを大半忘れてしまっている私の海馬よ(やっぱり感想はすぐ書かないと、だわね) の地獄度 (total 2317 vs 2318 )
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