2021年10月18日
家族であることの幸せと痛み 「Le Fils 息子」
フランスの劇作家 フロリアン・ゼレールの「家族三部作」第二弾。
2018年にパリで初演され、世界13ヵ国で上演された作品。
岡本健一・圭人の親子共演も話題の舞台です。
「Le Fils 息子」
作: フロリアン・ゼレール
翻訳: 齋藤敦子
演出: ラディスラス・ショラー
美術: エドゥアール・ローグ 照明: 北澤真 衣装: 十川ヒロコ
出演: 岡本圭人 若村麻由美 伊勢佳世 浜田信也 木山廉彬 岡本健一
2021年10月14日(木)6:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
1階D列(2列目)下手 (上演時間: 2時間10分)
第一弾「Le Pe`re 父」の感想はこちら
物語: 17歳のニコラ(岡本圭人)は両親の離婚で心を病み、不登校となって自傷行為を繰り返しています。一緒に住む母 アンヌ(若村麻由美)から窮状を訴えられた父のピエール(岡本健一)は、再婚相手ソフィア(伊勢佳世)と生まれたばかりの息子とともに暮らす家に二コラを引き取り、彼を立ち直らせようとしますが・・・。
何とも心が痛く、苦く切ない物語でした。
両親の離婚に傷つき、居場所も生きる意欲も失ったニコラ。
自分でもよくわからない苦しみを抱え、それを持て余し、苛立ち、いまにも崩れそうな脆さを見せています。
その苦しみの本質が何かを見抜けないまま手をつくし、空回りする周りの大人たち。
二コラの変化に戸惑い、父と暮らしたいという希望を受け容れて、孤独を押し殺して二コラをピエールに託すアンヌ。
新しい妻と暮らす家に彼の部屋を整え、転校させ、服を買ってやり、友達と会ったり外出することを勧めるピエール。
危うさと狂暴性を垣間見せる二コラに内心怯えながらも努めて普通に接しようとするソフィア。
誰もが二コラにとってよかれと思うことを精一杯やっているのに、二コラの心に入りこむことも、救うこともできないもどかしさ切実さを目の当たりにして、その現実の厳しさに言葉をなくす思いです。
「きっと何もかもうまくいくさ」
自分の人生観をかざして楽観するピエールとは裏腹に、それらの”思いやり”にますます追い詰められ、時に反発し、自傷行為を再発させる二コラ。
母と暮らす家、父とソフィアの家、精神病棟と場所を変えて身を置きながらも、自分の居場所を見つけることができなった二コラ。
多分それは自分自身の中にさえも。
そしてやってくる崩壊の時。
1週間の入院の後、精神病棟に入れられることになって、医師と看護師に連れて行かれながら「家に帰る!」と泣き叫ぶ二コラと、胸をかきむしられる思いで泣きながらそれを見つめるピエール、アンヌの場面は涙が出ました。
私がもし彼らの立場だとしても、あんな姿を見てあんな声を聞いたら、同意書にサインしてでも連れて帰るんじゃないかな。
何よりも「二コラは精神疾患などではない」と思いたいに違いないし。
家に帰った二コラは落ち着いていて、やさしい笑顔を浮かべていました。
父と母のために紅茶を入れて、3人で過ごすつかの間の幸せな家族団らん。その大好きな時間を自分の中で永遠にすることを、きっと最初から決めていたのでしょう。
最後に加えられた、ピエールが幻想する二コラの失われた未来が本当に切ない。
白い色調で統一されたスタイリッシュで無機質なセット。
十字架のようにも見える窓の格子、月のように浮かぶライトが印象的でした。
仕切り壁を左右にスライドさせることで場面転換し、時空も移動するというシャープな演出が光ります。
二コラの岡本圭人さん。
ガラス細工のような繊細さと、時折顔を出す人が変わったような激しさのアンバランスがいかにも思春期の少年。
自分で自分を持て余しているような、脆さと危うさを感じさせる二コラを等身大に描出。
ニューヨークで2年間演技の勉強をして、この作品がストレートプレイ初挑戦なのだとか。
お父様の後を追うように演技の道を歩み始めた圭人くん。台詞の口跡もよく、今後の活躍が楽しみです。
岡本健一さん演じるピエールは有能な弁護士で、父親としても自信に満ちていて、時に苛立ちながらも二コラと懸命に向き合い、アンヌやソフィアに対しても誠実という、本当に善き市民。
そんなピエールが自分の人生観を息子にスライドさせて内面の真実に迫れず、崩れてしまう姿が切ない。
ラストの自分を責める慟哭は痛ましいほどでした。
二コラの変化に疲れ果てながらも息子を深く愛するアンナの若村麻由美さん、自分たちの生活を守りたいと強く思いながら、年齢の近いフランクさで二コラに接しようと努めるソフィアの伊勢佳世さん、親子の情愛には目もくれずどこまでも冷静かつ合理的に患者と向き合う医師 浜田信也さん、少し怪しげだけれども二コラの気持ちに寄り添う助手の木山廉彬さん。
家族であることの幸せと痛み。
舞台を覆う喪失感。
決して後味のよい物語ではないけれど、とても見応え、聴き応えのある緻密な会話劇でした。
平日ソワレのせいか兵庫公演初日だったのに空席が目立っていてもったいないことです のごくらく地獄度 (total 2317 vs 2317 )
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