2021年10月15日

いやでござる 星組「柳生忍法帖」


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山田風太郎氏の「柳生忍法帖」を星組で上演することが発表されて原作を読んだのが今年の4月。
おもしろかったけれど、血がドバドバ流れるし、女たちはすぐ全裸にさせられるし、ラブムード皆無だし、敵役は残虐非道だし、芦名銅伯 108歳だし・・・あまりのエログロに、「柳生十兵衛やるにしてもどうしてこの作品を選んだのか」「これをどうやってすみれコードに抵触せずにタカラヅカの舞台に乗せるのか」と思ったものでした。
大野先生ガンバレー!


宝塚歌劇 星組公演
宝塚剣豪秘録 「柳生忍法帖」
原作: 山田風太郎 「柳生忍法帖」
脚本・演出: 大野拓史   
作曲・編曲: 太田健  高橋恵  多田里紗   音楽指揮: 西野淳
振付: 若央りさ  山村友五郎  平澤智   殺陣: 清家三彦
装置: 新宮有紀   衣装: 河底美由紀
出演: 礼 真琴  舞空 瞳  愛月ひかる  美稀千種  白妙なつ  
天寿光希  音波みのり  大輝真琴  輝咲玲央  漣 レイラ  ひろ香 祐  
瀬央ゆりあ  朝水りょう  綺城ひか理  有沙 瞳  天華えま  小桜ほのか  
極美 慎  碧海さりお  天飛華音  都 優奈  水乃ゆり  瑠璃花夏 ほか

2021年9月18日(土) 1:00pm 宝塚大劇場 1階18列上手
9月19日(日) 3:30pm 1階5列センター
9月28日(火) 3:30pm 1階14列センター
10月3日(日) 3:30pm 1階5列上手
10月7日(木) 3:30pm 1階18列上手
(上演時間: 1時間35分)



江戸時代 三代将軍・徳川家光の寛永年間の物語。
会津藩主・加藤明成(輝咲玲央)のあまりの暴政に家老・堀主水(美稀千種)は一族を率いて藩を退転します。明成は漆戸虹七郎(瀬央ゆりあ)以下の会津七本槍を差し向け、堀主水一族を断罪し、幕府公認の縁切寺・東慶寺に匿われた堀一族の女たちをも武力をもって攫おうします。しかしそれは、男の都合に振り回された生涯を送り、女の最後の避難場所として東慶寺を庇護してきた天樹院(豊臣秀頼の妻・千姫/白妙なつ)には許しがたい事でした。女の手で誅を下さねばならぬと心定めた天樹院は、沢庵和尚(天寿光希)に敵討ちを誓う女たちの指南役を連れてくるよう依頼します。その人こそ、として、将軍家剣術指南役 柳生宗矩(朝水りょう)の嫡男ながら城勤めを嫌い、剣術修行に明け暮れる隻眼の天才剣士 柳生十兵衛(礼真琴)でした。十兵衛と堀の女たちが、七本槍と死闘を繰り広げながら向かった会津に待ち受けるのは、藩を牛耳る謎の男・芦名銅伯(愛月ひかる)と銅伯の娘で明成の側室ゆら(舞空瞳)でした・・・。


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「これ、原作読んでいない人、大丈夫なの?」
初日(9/18)観終わった最初の感想がこれでした。

配役が発表された時、原作のサイドストーリーの役まで役名があって、「そんなにたくさん登場人物出して、1時間半に納め切れるのかいな」と危惧したことが現実になった感じ。
さらには、原作では”犬”の天丸・風丸・地丸を人間にして、その姉との悲話など原作にはないエピソードも加えられたものだから(瑠璃花夏ちゃん天丸には毎回泣かされるけれど)、肝心の主筋の展開がとても速く説明不足は否めません。

堀主水が出奔する冒頭から東慶寺、そこから十兵衛が登場して殺陣をしながら主題歌を歌うプロローグまでの流れはとてもよくて期待が高まったのですが、その後失速しちゃったかなぁ。

芦名銅伯と天海大僧正が双子で、天海が死ななければ銅伯は死なず、銅伯が苦しめば天海も苦しむ、しかも天海大僧正は将軍家にとって大切な天台相承(てんだいそうじょう)を控えていて、今この世を去らせることは絶対できない、と沢庵が切羽詰まるというところは、原作でも少しわかり難いロジックで展開するのですが、舞台でもやっぱりわかりにくかったです(笑)。
銅伯の部屋の鏡に天海大僧正が映し出されるところは映像を使っているのですが、あまり効果なかったような・・・というか作品全体を通して映像はわりとショボめ←

十兵衛やゆら、銅伯の衣装はいい感じです。
傾奇者という雰囲気の七本槍の衣装は好みが分かれるかもしれませんが、私は好きでした。
愛月さん筆頭に、いわゆる”路線”といわれる男役がすべて(天飛華音さん以外)主役の礼さんの敵となっているのもあまりないおもしろい構図です。
その代わり娘役たちはみんな十兵衛さまの味方だけれども(^^ゞ


原作は、東慶寺門前での会津七本槍の残虐非道な殺戮から始まるのですが、このあたりがカットされていることや、七本槍がかなり人間的に描かれていることなどから、七本槍の人の心を持たないような凄絶なまでの強さ怖ろしさ、オドロオドロした感じが薄れたのは残念・・・というか七本槍、弱すぎ。
時間の都合で2人ずつバタバタとヤラレるのも何だかなぁ・・・。
大道寺鉄斎(碧海さりお)が向かってくる堀の女たちに催眠術かけようとして「わし眼を見ろ!」と言って、女たちに「うるさいっ!」と一喝されるところ、いつも笑ってしまいます。
中盤の芦名銅伯ソロの場面で、それまでに死んでしまった4人の七本槍が片目や顔の一部に青隈取をして現れるのですが、人間味がないという点で、最初からあんな感じにしてもよかったかなと思いました。

などナド、ツッコミどころは多々ありますが、娯楽時代劇としてフツーにおもしろいし、初日と2日目で格段に違ったように、日々進化し深まっていくので、毎回楽しく拝見しています。つまり私はこの作品好きということです(結局そこかい!)

とにかく礼真琴さん演じる柳生十兵衛がひたすらカッコいい!これに尽きます。
カッコいいだけではなくて、佇まいも立ち居振る舞いも話し方も、もちろん殺陣も、十兵衛そのもののイメージ。
オーケストラピットから登場してまだ暗い銀橋に座るシルエットから素敵

私が原作で一番好きな場面・・・好き過ぎて、原作の感想に抜粋して書いた(こちら)のですが、ここに再掲。

芦名銅伯に追い詰められて進退窮まった沢庵禅師が、鶴ヶ城に一人乗り込んで来た十兵衛に、天海僧正を守るため、十兵衛も堀の女たちも死んでくれと言う場面。

「いやでござる」と静かに言い放つ十兵衛。
「拙者はともかく、左様なわけであの女どもを死なせるのはいやでござる。あの女たちを見殺しにして、なんの士道、なんの仏法。仏法なくしてなんのための天海僧正、士道なくしてなんのための徳川家でござる。もし、あの可憐な女たちを殺さずんば、僧正も死なれる、徳川家も滅びると仰せあるなら、よろしい、僧正も死なれて結構、徳川家も滅んで結構」

くぅ~っ カッコいい(再び)。
この台詞がまんま使われているのを初日に聴いた時、「大野くん、でかした!」と思ったものです。
あの台詞を礼真琴さんの声で聴くことができるなんて!

礼真琴さんはその公演で演じる役によって開演アナウンスの声を変えてくるのですが、今回も「皆さま ようこそ宝塚大劇場へお越しくださいました」の第一声から十兵衛。
声量豊かな歌唱力をいかんなく発揮して、殺陣をしながら歌うという新たな挑戦。
ご本人は「礼真琴史上、一番キツい」とおっしゃっていますが、あれほど刀を振り回しても全くブレない歌声、高い身体能力を活かした殺陣はキレッキレ。
殺陣の構えの美しさと力強さは全登場人物の中で一人際立っていますが、右手に持った三池典太を天に伸ばし、これでもかというくらい重心低く腰を落として左手は地面スレスレ、というあのキメポーズがこれほど美しく絵になる人、礼真琴か早乙女太一ぐらいじゃない?
精悍さや強さ、男気はもちろん、やさしさも色気もあって、原作の十兵衛にもあるちゃめっ気ややんちゃ坊主な雰囲気も備えて、ゆらや堀の女たちでなくても惚れてまうやろ~・・・いや、もちろん惚れてますけど

舞空瞳さんは、あの可憐なジュリエットと同じ人とは思えない妖艶さ。勝気なところは共通か(笑)。
小顔で京人形のように美しいビジュアル。冒頭のわらべ歌の歌唱も綺麗。
ゆらが「十兵衛様に恋をしました」と言うところがあまりに唐突で、初日には客席から笑いも起きていましたが、原作でもあんな感じの展開です。
十兵衛が鶴ヶ城に一人乗り込んで来た時、ゆらは一目惚れしたのだと思います(江戸で医師の玄達に化けた十兵衛には会っているけれど、これは原作にはない場面)。だからここで十兵衛の何かと理由をつけて十兵衛の命を助けるし、そのことわかるけどなー。
最期は、香炉銀四郎に間違って斬られてしまう設定でしたが、ここは原作通り、わが身を呈して父・銅伯と相打ちする方がよかったのではないかしら。
あまり表情を変えないゆらが、最期に十兵衛に向ける、いかにも女性らしいやわらかな顔が切ない。

愛月ひかるさんの芦名銅伯が登場しただけで場の空気が変わるのが凄い。
特に、沢庵禅師がいつもの飄々とした感じで鶴ヶ城に乗り込んで、城主の加藤明成をちょっとからかい気味だったのに、銅伯が現れた途端、顔色が変わるところ、銅伯が天海大僧正とうり二つというだけでなく、タダモノではないオーラを盛大に放っているのがよくわかります。
妖しく美しく、そしてとんでもなく手に負えない・・・何というか、”人智を超えた存在”感の凄まじさ。
愛月さんの当たり役といえば、話題になったロミジュリの「死」や、「神々の土地」のラスプーチンといった、人外のものの印象が強いですが、ラストにその集大成を見せてくれた思い。
銅伯がまだ人の心を持っていた黒髪の若かりし頃、「痛かったであろう、苦しかったであろう」と芦名の兵士たちを悼んで苦悩する姿も、同じ顔なのに銅伯と打って変わってやわらかで気品ある大きな人物になっている天海大僧正も、とてもよかったです。

七本槍では、瀬央ゆりあさんの漆戸虹七郎と極美慎さんの香炉銀四郎が目立った存在。
原作でもこの2人が最後まで生き残って十兵衛と対峙しま宏司宏司
天飛華音さんが沢庵門下の多聞坊で十兵衛に心酔するという原作にはない設定でもうけ役でした。
沢庵門下のお坊さんたちといえば、会津の村で娘たちを尼に・・・と七本槍に告げるのは紘希柚葉さん(十乗坊)かな?ほんの一言ふた言の台詞なのですが、原作のお坊さんたちの飄々とした雰囲気がよく出ていて感心しました。

白妙なつさんの千姫、天寿光希さんの沢庵がすばらしいのはもちろん、朝水りょうさんの柳生宗矩も美しさ鋭さ、武芸者感が際立っているのと、最後にちらっと出てくる柳生十哲・木村助九郎の遥斗勇帆さんの「若、お達者か」の台詞がいかにもらしくて好きでした。


原作読んでいたらより楽しく深く、読んでいなくてもそれはそれで楽しいエンターテインメント時代劇。
時節がらとはいえ、平日は空席目立つのが寂しい限りですが、せひたくさんの方に楽しんでいただきたいです。


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公演期間の終わりごろにあと2回ぐらい観ます(まだ観るんかい!というツッコミは却下) のごくらく地獄度 (total 2314 vs 2315 )


posted by スキップ at 23:13| Comment(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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