2021年10月06日

九月大歌舞伎 第三部 「東海道四谷怪談」


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九月大歌舞伎 第三部は片岡仁左衛門さん、坂東玉三郎さん 38年ぶりの「東海道四谷怪談」。
4月と6月の「桜姫東文章」に続いて、「多分一世一代」「もう二度と観られない」とい座組と演目で、チケットは即完売という人気ぶり。
歌舞伎の四谷怪談はこれまで何度も観ていますが、仁左衛門さん玉三郎さんで拝見するのはもちろん初めてです。


九月大歌舞伎 第三部 「東海道四谷怪談」
四谷町伊右衛門浪宅の場/伊藤喜兵衛内の場/元の浪宅の場/本所砂村隠亡堀の場
作: 四世鶴屋南北
出演: 坂東玉三郎  尾上松緑  中村橋之助  片岡千之助  片岡松之助  中村歌女之丞  片岡亀蔵  市村萬次郎  片岡仁左衛門 ほか

2021年9月22日(水) 6:00pm 歌舞伎座 1階11列センター
(上演時間: 2時間10分/幕間 20分)



上演時間の制約もあってか、伊右衛門浪宅から始まって隠亡堀まで。
伊右衛門が舅であるお岩の父・四谷左門を殺す場面はないし、お袖ちゃんも出てきません。
直助権兵衛と佐藤与茂七はラストの隠亡堀にチラリと登場しますが、ほぼ主筋に関係ない役割。
「四谷怪談」の物語はご存知でしょ?な見取り上演です。


まずは、何といっても仁左衛門さんの色悪の魅力炸裂。
幕開きの浪宅で唐傘張りをしている姿がわびしくやつれているのに色っぽい。
赤ちゃん(わが子なのに)の泣き声が聞こえると舌打ちせんばかりに渋面をつくる悪いオトコの香りプンプン。
とんでもないDV男で、お岩を足蹴にする、お金のために赤子の産衣や蚊帳を奪い取る(それを必死で止めようとするお岩の爪がはがれる)、宅悦を脅してお岩に不義を仕掛けさせる、宅悦が逃げると小仏小平とお岩の不義を言い立て小平を惨殺し戸板に打ち付けて川へ流す、といった数々の血も涙もない非道の数々を時にはせせら笑いながらやってのける悪の魅力。
お岩の霊にたたられているとはいえ、新妻のお梅や伊藤喜兵衛を斬ってしまう狂気の凄み。
姿形の美しさはもとより、何とも抗えないような魅力に満ちていて、まさしく悪の華。


そんな伊右衛門に、仇討ちをしてもらいたい一心ですがりつくお岩の哀れさが際立ちます。
伊右衛門が去った後の場面は歌舞伎ではなくまるでストレートプレイを観ているような、玉三郎さんの細やかでリアルなお芝居に見入りました。
伊藤家の乳母おまきが持ってきた薬を毒薬とも知らず、手を合わせ感謝しながら、最後の一粒まで大事そうに白湯に溶かして飲むお岩の哀しさ。
変わり果てた自分の顔を鏡で見て、「これが私の顔かいな」と絶望するお岩の痛切。
この有名な「これが私の顔かいな」の台詞、玉三郎さんはあまり大仰に叫ばないのですが、私がこれまで観た「四谷怪談」のどのお岩よりも哀れで悲壮な響きでした。
伊藤家へ出向こうと紅をひき髪を梳き、鉄漿をうつけるお岩の凄み。
宅悦ともみ合ううち、柱に刺さった脇差にぶつかるという無残な死に様を遂げるお岩の無念さ、恨みを身をもって感じられるよう、まるで一幕のドラマのような場面でした。

幕間をはさんで大詰めは「本所砂村隠亡堀の場」。
伊右衛門と母、直助権兵衛、伊藤家のお弓、おまさのお芝居があり、お岩、小仏小平の戸板返しがあって、ラストは伊右衛門(仁左衛門)、直助(松緑)、佐藤与茂七(橋之助)、小平女房 お花(玉三郎)4のだんまりで幕。
与茂七もお花もここで初めて出てきて台詞も一切ありませんので、知らなかったら「誰?!」となりますよね。

松緑さんの直助権兵衛が短い出ながらいかにも小悪党といった風情で、所作もキレよく歌舞伎味があってよかったです。
橋之助さんの小仏小平も存外に(失礼)よくて、千之助さんのお梅は可憐で愛らしい。
宅悦の松之助さん、お弓、おまさの萬次郎さん、歌女之丞さんはさすがの安定ぶりです。
浪宅で伊右衛門のワル仲間の一人が松十郎さんで、いかにも悪そうな顔されていましたが、「あ、オトコマエ出てるデ」とうれしくなりました。



せっかくのこのお二人の顔合わせなのだから、できれば通し狂言で観たかったなぁ のごくらく地獄度 (total 2310 vs 2312 )


posted by スキップ at 22:18| Comment(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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