2021年09月11日

砂に埋もれた尊厳 「砂の女」


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ケラリーノ・サンドロヴィッチさんと緒川たまきさんの演劇ユニット ケムリ研究室。
2020年の始動第1作「ベイジルタウンの女神」(大好き!)に続いての第2弾。


ケムリ研究室no.2 「砂の女」
原作: 安部公房
上演台本・演出: ケラリーノ・サンドロヴィッチ
音楽・演奏:上野洋子   振付: 小野寺修二
美術: 加藤ちか   照明: 関口裕二   
映像: 上田大樹  大鹿奈穂   衣装: 伊藤佐智子
出演: 緒川たまき  仲村トオル  
オクイシュージ  武谷公雄  吉増裕士  廣川三憲
(声とシルエット:  町田マリー)

2021年9月9日(木) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 
阪急中ホール 1階E列(3列目)センター
(上演時間: 2時間50分/休憩 15分)



物語:3日間の休暇を取って昆虫採集に出かけた数学教師の男(仲村トオル)が、村人の勧めで女(緒川たまき)が一人暮らす砂穴の家に一晩の宿を借ります。 翌朝、崖からその家に下りるための縄梯子が取り払われ、男は電気も水道もない「砂の女」の家に軟禁されることになります。砂を掻き出す人手が必要な村人たちの企みでした。男は何度も脱出を図りますが失敗と絶望の日々が続き、ある日千載一遇の機会がやってきますが・・・。

原作は安部公房氏が1962年に発表した長編小説で代表作と言われる作品ですが、未読です(・・・というか安部公房苦手でほとんど読んだことがない)。
原作を読んでいませんので、どこまで原作に忠実なのか、どのあたりが潤色されているのかわからないのですが、後で調べたところストーリーはほぼ原作通りのようです。

ミステリーかつホラーの様相も持つ非現実的で不条理な物語の中に、電信柱の交番や、男の同僚教師たちの会話など、ナンセンスな笑いを挟み込むのがケラさん流かな。
ただ、彼らの無責任な野次馬根性や悪意のない残酷さには、ケラさん独特のシニカルな目線も感じられます。

そうそう、二幕冒頭の「雨だー!」「雨なんか降ってませんよ」のシーンが巻き戻しみたいに何度も繰り返されるのも笑っちゃったな。


この作品を今上演することをケラさんが意識してのことか、ただ砂搔きを続けるだけの出口の見えない閉塞感が、今の世界の、私たちの先が見えない状況と重なります。
その閉塞感の中で、少しずつ人間の尊厳を失っていく男の姿が痛々しい。
この場所から脱出すること、完全に自由になることを求めていたはずなのに、水、食糧、生きていくために不可欠なものと引き換えにその心を失っていく男。苛立ち、暴力性をあらわにするほど、人間としての男の弱さが浮き彫りになってきます。

「少しだけでいいから海が見たい」と懇願する男に、男女の営みを自分たちの前で見せたら許してやると高い場所から言い放つ村人たち。
自分のささやかな望みを叶えるため、人間の尊厳を踏みにじるような非常識を安易に受け容れようとする男に、巌として抵抗する女・・・諦念してただ受動的に、奴隷のようにこの生活を受け入れているように見える女が、人間の尊厳を失っていないことにハッとさせられた場面です。

女が子宮外妊娠で病院に運ばれ、後に一人残された男と縄梯子。
それでも男は「また機会はあるさ」と家に留まることを選ぶ男。少し笑顔さえ見せて。
その後ろに文字で流れる「仁木順平」の失踪宣告による死亡認定。
これ、現実の世界でも結構あると思うのですが、極限状況の中でそれに慣れて、気持ちも含めて色々なものを忘れて、「変化」しない方を選ぶ人間の哀しさが胸に迫るラストでした。


回転して表裏を見せる家と周りを取り囲む高い砂の壁が閉塞感を強調するセット。
うごめく黒布、とどめなく流れ積もる砂の質感を感じるプロジェクションマッピング。
色味の少ない中で表情豊かな舞台美術。
舞台下手上のブースから、楽器とヴォーカルで、まるで天上からの声のように物語の世界観を奏でる上野洋子さんの演奏。
時には装置を動かし、渡り台詞も言う4人の黒子ならぬ砂子。
ケラさんの演出が冴え渡ります。


ちょっとイライラさせるようなふてぶてしさもありつつ官能的でミステリアスな女。諦念と孤独感を感じさせながら実は生きることへの強い執着を持つ女の緒川たまきさんがこれまで見たことがないようなたまきさんで新鮮で魅力的。
ごく普通の男が日常の裂け目に落ち、うろたえ、抗い、やがて無意識のうちに順応していく姿を感情の起伏とともに鮮やかに見せた仲村トオルさん。
砂子をはじめ、村人や巡査やいろんな役を担ってこの作品の世界観を描き出した4人(オクイシュージ、武谷公雄、吉増裕士、廣川三憲)もすばらしく、たった6人の出演者とは思えない濃密さでした。


観終わった後、首筋に砂がまとわりついているような、靴の中にザラッと砂が紛れ込んでいるような、そんな感覚に見舞われた舞台だったな。




このご時世に関西公演ありがたいけれど平日2 daysはちょっとキツイ のごくらく地獄度 (total 2301 vs 2300 )



posted by スキップ at 18:36| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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