
歌舞伎座の「八月花形歌舞伎」
演目と出演者が発表された時には「三部とも通すわよ!」と鼻息荒くチケット取っていたのですが、結局観ることができたのは三部のみ。
「義賢最期」は、昨年、四国こんぴら歌舞伎の高麗屋襲名披露興行で幸四郎さんが初役で勤めるはずだったお役。
元々好きな演目でもあり、「これだけは何としても」と強い心で観に行ってまいりました。
八月花形歌舞伎 第三部
2021年8月20日(金) 6:00pm
歌舞伎座 1階3列下手
一、源平布引滝 義賢最期
出演: 松本幸四郎 中村梅枝 中村隼人 中村米吉
小川大晴(奇数日)/小川綜真(偶数日) 大谷廣太郎
松本錦吾 片岡亀蔵 市川高麗蔵 ほか
(上演時間: 1時間25分)
平家全盛の時代。源氏再興を密かに願う木曽義賢(幸四郎)は、病で館に引きこもっています。その館に、百姓の九郎助(錦吾)が娘の小万(梅枝)、太郎吉(小川大晴/小川綜真)親子を連れ、小万の出奔した夫の奴・折平(隼人)を訪ねてきます。一方、折平が平家方から追われている源氏の武将・多田蔵人であることを見抜いた義賢は、平家打倒を志す本心を打ち明け、折平に思いを託します。そこへ平清盛の使者が来訪し、義賢の平家方への忠誠心を試そうとしますが・・・。
幸四郎さん筆頭に、梅枝さん、隼人さん、米吉さんと見目麗しい花も実もある役者さんが並び、まさに“花形歌舞伎”。
それぞれが奮迅の活躍で熱気あふれる舞台はとても見応えありました。
仁左衛門さん直伝の義賢を演じた幸四郎さん。
紫の病鉢巻姿も、後半の顔面を血で染めた姿も、勇壮で美しく悲壮感もたっぷり。
義太夫に乗せた台詞も緩急があって、しかも言葉に気持ちもきちんと乗せられているのでとても心に響きます。
折平こと多田蔵人と娘の待宵姫を逃がし、身重の葵御前を九郎助親子に託して、義に殉じ死を覚悟してひとり平家と闘う義賢。
武家礼装である素襖大紋を身に着け、歌舞伎の様式美に則った美しくも迫力ある大立廻りは悲壮感にあふれ、義賢の激しさや怒りが迸るよう。
戸板倒しはわかっていても声が出そうになります(実際、「おおー!」という男性の声も聞こえてきました)。
蝙蝠の見得からの仏倒れまで、息をするのも忘れるくらい見入ってしまいました。
「どんなに血だらけになっても、滅びの美がないといけない。“美しさ”は歌舞伎の大きなキーワードだと思います」と歌舞伎美人のインタビューで語っていらした幸四郎さん。まさにその“滅びの美”を目に心に焼き付けました。
松竹座「七月大歌舞伎」の「伊勢音頭」の喜助がよかったことも記憶に新しい隼人さん。
あの時、「声もしっかり出ていて、若手若手と思っていましたが、いつの間にこんな兄さんに?」と感想書いたのですが、今回も同じオドロキ。声も出ている上に幸四郎さん同様、義太夫にもよく乗っていて、だからこの二人が本心を明かす場面はとても見応え、聴き応えありました。
若々しく凛々しい多田蔵人。幸四郎さん義賢との相性はもちろん、米吉さん待宵姫と並んだ姿の美しさよ・・・舞台写真お買い上げでございます。
そして梅枝さんの小万すばらしい。
古風でありながら気丈でいかにも女丈夫といった趣き。この小万ならたとえ腕を斬り落とされても白旗を放すことはないだろうと思わせます。「実盛物語」も続けて観たくなりました。
しかし、梅枝さん、ほんとどんな役やってもうまいな。
太郎吉はその梅枝さんのご子息 小川大晴くんと、中村歌昇さんのご子息 小川綜真くんのダブルキャストで、私が観た日は小川綜真くんでした。いや~、これがいかにもリトル歌昇くんといったお顔立ちで、台詞も所作も教えられたことをきちんきちんとやっていて、かわいらしいことこの上ありません。立っている時はいつも手を真っ直ぐのばして体に沿わせていて、「あぁ、そうするように言われてるんだろうなぁ」と微笑ましくなりました。
二、伊達競曲輪鞘當
出演: 中村歌昇 中村隼人 坂東新悟
三社祭
出演: 市川染五郎 市川團子
(上演時間: 43分)
打ち出しは花形歌舞伎らしい若い役者さんたちばかりの舞踊二題。
「鞘当」は、不破伴左衛門が歌昇さん、名古屋山三に隼人さん、茶屋女房お新は新悟さんという布陣。
荒事味あふれる伴左衛門 vs 和事味漂う山三という二人が拵えも対照的で、それぞれの個性にハマっていました。
「渡りぜりふ」はめちゃめちゃ頑張ってる感がありましたが、聴かせてくれました。後から割って入る新悟さんがいつもながらいい声。
16歳の染五郎くんと17歳の團子くんの「三社祭」。
もちろん二人とも初役・・・というか初踊り?
二人ともスラリと背が高くて小顔で脚が長い、と時代を感じますが、よく踊り込んでいて、明るく溌剌。
一人ずつの踊りも、二人で踊る場面も息がよく合って、「悪」と「善」の面をつけての悪尽くし、善尽くしは回転したり跳躍したり、若さと躍動感あふれる踊りは観ていて楽しくなります。
踊りも芝居も、この二人がこれからどんな未来を描いていくのか、ますます楽しみになって、明るい気分で打ち出されました。

一部二部観られなかったのは残念だったけれど、この三部見逃さなくて本当によかった のごくらく度


