
今年1月 坂東玉三郎さんの「初春特別舞踊公演」はありましたが、松竹座での歌舞伎興行は昨年の「壽初春大歌舞伎」以来、なんと1年半ぶり。昨年は中止となった七月大歌舞伎は2年ぶりの開催です。
7月3日から18日までと、公演期間はいつもの半分でしたが、われら浪花の歌舞伎ファン、首をなごうして待ってましたんやで。
まずはともあれ、昼の部は初日に参上。
関西・歌舞伎を愛する会 第二十九回
七月大歌舞伎 昼の部
2021年7月3日(土) 12:30pm 松竹座 1階3列センター
一、伊勢音頭恋寝刃 油屋・奥庭
出演: 松本幸四郎 中村壱太郎 中村隼人 中村虎之介
中村寿治郎 片岡松之助 片岡千壽 片岡孝太郎 中村扇雀 ほか
(上演時間: 1時間20分)
幸四郎さんが染五郎時代の2017年 歌舞伎座 四月大歌舞伎で初役で演じて以来二度目の福岡貢(その時の万野は猿之助さん)。
5月に亡くなった片岡秀太郎さんが演じる予定だった今田万次郎は孝太郎さん代役と発表されていましたが、初日前日になって、中村鴈治郎さんがコロナの濃厚接触者と認定されて休演、片岡千壽さんが代役を勤められました。
物語: 伊勢の神官・福岡貢(幸四郎)は主筋の宝刀青江下坂をやっと手に入れ、今田万次郎(孝太郎)へ渡すべく廓 油屋に出向きますが、万次郎は不在。元家来の料理人・喜助(隼人)へ刀を預け、恋仲の遊女 お紺(壱太郎)を待ちます。意地の悪い仲居・万野(扇雀)にお鹿(千壽)のお金のことであらぬ罪を着せられ、お紺からは万座の中で愛想づかしをされて逆上し、自分が手にしているのが青江下坂とは知らず万野をあやまって手にかけてしまうと、妖刀に魅せられ次々と人を斬り捨ててしまうのでした・・・。
幸四郎さんが4年ぶりの貢なら、私がこの演目を観たのも4年ぶり。
「やっぱり貢って、優柔不断というか、脇が甘いよなぁ・・・と思いながら観ていて、帰宅してから4年前に書いた感想読んだら、まんまこの日思ったことだったので笑ってしまいました。
ということで、一部再掲
万次郎に名刀 青江下坂を渡すつもりで油屋に出向く貢。
万次郎は何とか神社の方へ去ったばかりで、それなら、と追いかけようとする貢に「入れ違いになっては」とお岸に言われて油屋で待つことに←なよなよくどくど言うお岸なんて無視して行けばよかったのに
万次郎やお紺を待たせてもらうために、他の遊女を呼び、刀も預けろと万野に攻められる貢←ここでパァーンと断ればよかったのに
貢の刀を代わりに預かった料理人の喜助。悪者がすり替えたのに気づいてひと工夫しますが、それを貢には伝えられず←そこ、大事なとこなの
お鹿さんからお金をだまし取ったと万野に言い立てられ、事実無根と訴えるものの万野にやり込められる貢←やってないんだから、そこはもっと断固として主張しよ
本物の青江下坂を持った貢を追いかける喜助と万野・・・なぜか万野だけが先に帰ってきて貢と鉢合わせ←喜助どこに行ったんだよぅ
仁左衛門さん直伝の幸四郎さんの貢はまるで錦絵から抜け出たよう。
爽やかな眉目も柔らかな物腰も、万野の悪口に耐えに耐える表情も、ついに発火して妖刀に操られるように白がすりを血に染めて次々と人を斬るところも、とても美しくて色っぽい。
「朧の鬼に棲む鬼」でも見せてくれましたが、妖刀に操られて自分の意志とは別の次元で刀が勝手に動く、という所作が本当に上手い。その虚ろな瞳に宿る狂気。凄惨さと悲愴感に満ちた血まみれの立ち姿・・・この役を松嶋屋さんから受け継ぐのはやはり幸四郎さんだなぁと改めて思った次第。
いかにも憎々しい扇雀さんの万野。
お顔がもともと意地悪顔だし(失礼!)、いかにも悪知恵が働いて弁も立つ万野がぴたりとハマっていました。
壱太郎さんのお紺は見目麗しく、偽りの愛想尽かしも凛としていて、貢の絶望感をより色濃く際立たせていました。
隼人さんの喜助もよかったです。
キリリとした男前ぶりはもちろん、声もしっかり出ていて、若手若手と思っていましたが、いつの間にこんな兄さんに?とうれしい驚き。
そして千壽さんのお鹿。
急な代役(しかも多分初役)で、プレッシャーはいかばかりかと思いますが、奇をてらわず、デフォルメしすぎず、可愛いらしさ、一途ないじらしさが伝わってくるお鹿さんでした。お顔はちょっと小春み(犬ですが)ありました。
そして最後は例によって、あんなに殺戮しておいて、何となくお紺さんともハッピーエンド、お家再興も間違いなし、めでたしめでたし、みたいな感じで終わるのが何とも・・・。
二、お祭り
出演: 片岡仁左衛門 片岡千之助 片岡孝太郎 片岡松十郎 ほか
(上演時間: 25分)
松嶋屋三代勢ぞろいの「お祭り」。
「待ってました!」も「待っていたとはありがてぇ」もない「お祭り」ですが、仁左衛門さんが松竹座にいてくださるだけでありがてぇ!
浅葱幕が振り落とされてそこに立っている鳶頭が姿を現すと、会場は万雷に包まれました。
「いや~、オトコマエ来たで

時分の花といった風情で美しい千之助くんと、少し年季の入った粋な芸妓の孝太郎さんが鳶頭を取り合う図。
冷静に観れば、おじいさんを孫と息子が取り合ってるのですが、そこは歌舞伎。
で、最後はやっぱり若くて綺麗な方選ぶのねーという感じ(笑)。
間の若い衆との立ち回りもやすやすこなして、終始粋でいなせでご機嫌な鳶頭を観られて幸せでした。
昼の部は千穐楽もチケット取っていたのですが、どうしても体が動かず・・・鴈治郎さんのお鹿も観たかったな のごくらく地獄度



