2021年08月04日

こんな日本、あったはず 「衛生」


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福原充則さん脚本、古田新太さん主演で上演された「いやおうなしに」(2015年)の時に「汚いミュージカルをやろう」と企画が持ち上がった作品。
福原さんにとって初めてのミュージカル作品です。

「善人不在」と謳い、し尿の汲み取り業者が舞台ということで、かなり覚悟して観にいったものの・・・。


ミュージカル 「衛生」 ~リズム&バキューム~
脚本・演出: 福原充則
音楽: 水野良樹(いきものがかり)  益田トッシュ
振付: 振付稼業air:man 
美術: 稲田美智子   照明: 斎藤真一郎   
映像: 石田肇   衣裳: 髙木阿友子 
出演: 古田新太  尾上右近  咲妃みゆ  石田明  
村上航  ともさかりえ  六角精児  佐藤真弓 ほか

2021年8月1日(日) 12:00pm オリックス劇場 1階2列上手
(上演時間: 3時間/休憩 20分)



物語の舞台は昭和33年、水洗トイレが普及する前の神奈川県平塚市。
し尿の汲み取り業者「諸星衛生」は、社長の諸星良夫(古田新太)と息子の大(尾上右近)が地元の政治家・長沼ハゼ一(六角精児) やその秘書・箕倉時子(佐藤真弓)と結託し、利益を出すためなら殺人も厭わないという経営方針でのし上がってきました。諸星衛生の従業員・代田禎吉(石田明)は、恋心を寄せる事務員・花室麻子(咲妃みゆ)を、大に奪われ、さらにはおお腹に命を宿したまま悲惨な最期を迎えたことで、諸星親子に恨みを抱えていました。
時は移って昭和50年、麻子の残した娘・小子(咲妃みゆ2役)は18歳となり、諸星衛生の経営は、良夫から大へと実権が移り、ホテルやタクシー、居酒屋、パチンコ店など多方面に進出し、市民から搾取し続け、地元の経済を隅々まで制圧していました。その裏で、かつてのライバル業者 瀬田好恵(ともさかりえ)が、逆襲の機会を窺っていました・・・。


脅し、搾取、差別、人殺しも性暴力も。残忍で下品で、もちろん毒気も狂気も、エロもグロも満載でしたが、これまで観てきた同様の作品と比しても「それほどでも・・」という感じでした。
デフォルメされているとはいえ、ここに描かれていることは大なり小なり日本が高度成長を遂げている過程で、いや、もしかしたら形を変えて今でも、実際にあることなのではないかと思います。私たちが、世間が、見て見ぬふりをして蓋をしてきたこと・・・。
様々な歪みを抱えながらも新陳代謝を繰り返し成長してきた、高度成長期・昭和の日本の裏歴史を描いた大河ドラマのよう。

嫌悪感感じる場面もありましたが、笑える場面も多くてアハハと声出してよく笑いました。
六角精児さん@長沼ハゼーが「岸部シローです」というのがやたらツボにハマって爆笑してしまったりも(^^ゞ


老獪で蛇のようにしたたかな父・良夫と常にテンション高くキレッツキレの息子・大。
日頃は反発し合っているように見えて、いざと言う時は力を合わせて悪の道を突き進む・・・悪役フェチということもあって、諸星親子の終始一貫した悪徳ぶり、欲望への執着ぶりにはむしろ爽快感さえ感じます。

懐かしい昭和歌謡調だったり、ロック、ポップス、レゲエなどバラエティに富んだ曲を、歌とダンスで見せる構成。
お芝居の流れの中で“突然ミュージカル”になる傾向がなきにしもあらずでしたが、古田新太さん、尾上右近くんともに歌えるし、動けるし、咲妃みゆさんはじめ女優陣も聴かせてくれますし、アンサンブルも実力派揃いで、キャスト揃えてきたなという印象です。


古田新太さんの悪役大好物なので、いかにも腹に一物があって一筋縄ではいかない悪人を、時は不気味に、またある時は欲望をギラギラさせて体現しているのはとても見応えありました。何だか古田さん楽しそうに見えました。台詞も歌も相変わらずいい声響かせてくれます。

尾上右近くんは歌舞伎でも“できる子”というイメージですが、ミュージカルという舞台にも難なく馴染んんでいました。
ちゃんとツケ打ちさんもついて歌舞伎の見得をする場面もありましたが、舞台の中心に立つのが似合う華やかさ。歌もうまいのね。

花室麻子と娘の小子の2役を演じた咲妃みゆさん。
「この2役はどちらも挑戦」とおっしゃっていましたが、確かに、宝塚時代と卒業後含めて、考えられないような役柄です。
自分で自分の人生を見限っているような麻子の隷属と、母を殺された復讐の炎を笑顔の裏に隠す小子の冷血の演じ分けの凄み。
二幕で小子が最初に登場して小学生に体操服売る場面の落差、すごかったな。
歌唱は「あれ?みゆちゃん声量が?」と思うところもありましたが、ソロはさすがに聴かせてくれました。

「バカを憎んでひとを憎まず」と突き抜けた瀬田好恵ともさかりえさんも素敵でした。
歌もお上手だし、コメディエンヌとしてのセンスも抜群。オールマイティの女優さんです。

第二次世界大戦で出征し、股間に被弾して性的能力を失ったというトラウマを抱える長沼ハゼ一・六角精児さんの不気味さと、いかにもこんな秘書いるよね、そして秘書から転身したこんな政治家いるよね、な箕倉時子・佐藤真弓さんの存在感。
二人は切ないピュアラブだったのね、なラスト(まぁ、最期に乳首吸わせてくれはどうだかだけど)もよかったです。


この日は大阪千穐楽で、キャストの皆さまのご挨拶ありました。
「大阪千穐楽でした…と言っても、初日・中日・楽なんですけどね」
「せっかくだからひと言ずつ・・・仕切りは石田くん」と石田明さんに振る古田さん。

「大阪の皆さん本当にリアクションよくて。東京では凍りつくような場面も・・・笑ってくださって。」と ともさかりえさん。
「もちろん、いろんな観方があっていいんですけどね」と。

六角精児さんは、「大阪に来てるんですけどホテルと劇場の往復でどこにも行けない。大阪に来た気がしない」
それを受けて
「六角さんもおっしゃった通り全然飲みに行けてません。なのに行きつけの居酒屋、焼鳥屋、ラウンジ、バー みんな観に来てくれています。この状況が終わったら毎日飲みに行きます」と古田さん。

尾上右近くんは「皆さん肚をくくって観に来てくださって…ありがとうございます。」
「Tシャツ買ってください。胸のうんこマークは絆のしるし」ときっちりグッズのプロモーションも。

最後の石田明さんのご挨拶が終わるかどうかのうちに
「さよなら大阪!ありがとう」と感情なさそうな笑顔で言い放って、「そんな雑な終わり方…」とツッコまれる古田新太氏。

2列の右サイドブロック一番センター寄りという座席だったのですが、前に座席がない(1列があるのはセンターブロックのみ)ので、捌けていく古田さんに思いきり手を振ったら、珍しく視線くださいました(と思う)。



エロでもグロでもおもしろいものはおもしろい のごくらく度 (total 2280 vs 2281 )


posted by スキップ at 17:36| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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