
星組別箱3作目は専科の轟悠さん主演作にして最後の作品。
何となく、轟さんはずっと宝塚にいらっしゃるように思っていて、今年10月での退団が発表された時はとても驚きました。
この後、ディナーショーもありますが、私がナマ轟悠さんを観るのはこれが最後です。
宝塚歌劇 星組公演
戯作 「婆娑羅の玄孫」
作・演出: 植田紳爾
作曲・編曲: 𠮷田優子
振付: 山村友五郎 花柳壽輔
殺陣: 清家三彦 衣装: 河底美由紀
出演: 轟 悠 汝鳥 伶/美稀千種 音波みのり 夢妃杏瑠
ひろ香祐 紫 りら 天華えま 天希ほまれ 小桜ほのか
極美 慎 咲城けい 瑠璃花夏 紘希柚葉 稀惺かずと ほか
2021年7月10日(土) 12:00pm シアター・ドラマシティ 15列上手
(上演時間: 2時間35分/休憩 30分)
物語の舞台は江戸の下町。
なめくじ長屋で子供たちに学問や剣術、さらには歌道や茶道を教えるよろず指南所を営む細石蔵之介(轟悠)は、正義感に溢れ腕も立ち、横暴な振る舞いをする旗本に一矢報いるなど長屋の人気者で、人々から「石先生」「石さん」と慕われ敬われていました。実は蔵之介は室町幕府設立の立役者であり、婆娑羅大名と呼ばれた佐々木道誉の子孫で、佐々木家当主の次男として生まれましたが、母の身分が低いため家名を名乗ることを許されずにいたのでした・・・。
轟悠さん退団公演のために植田紳爾先生が書き下ろした渾身の力作。
何てったって、主題歌が「轟く我が心」で、歌詞も ♪轟け 轟け 我が心 この命燃やし尽くすまで ですよ。
サヨナラ公演の香りに満ち満ちていながらも痛快娯楽時代劇といった趣き。
二幕構成で、一幕は長崎からやって来た清国人姉弟(小桜ほのか・稀惺かずと)の敵討ちを蔵之介が手助けして見事成就する物語、二幕は佐々木家の嫡男が急死し、お家断絶の危機を救うため国元に戻るよう請われた蔵之介が、悩んだ末にこれを了承し、住み慣れた江戸を離れて国元へ旅立つまでを描いています。
時代劇ドラマ二話分という感じでしょうか。
江戸の下町に暮らす市井の人々がイキイキと活写され、派手な立ち回りもあれば、勇壮でキレのいい鳶頭や艶っぽい芸妓さんたちの舞が楽しい神田祭、星空の下、七夕の情緒あふれる星祭り、満開の桜のお茶会では元禄花見踊りふうの群舞もあって、日本物レビューのような華やかなシーンがたくさん。
蔵之介の台詞の端々に轟さん自身の思い、後輩たちへの思いが重なり、明るく笑いを散りばめつつ最後はしんみり泣かせるストーリー展開はさすが植田先生お見事です。
幕前のお芝居がやたら多いのも「あー、植田先生だなぁ」と思いましたが💦
轟悠さんの蔵之介は、冒頭の深編笠を手に立つ姿からピタリと絵になって、殺陣も所作も着物の裾捌きも、そして踊りも、日本物ってこうだよなぁと思わせるすばらしい安定感。
じいの彦左に対する時、お鈴(音波みのり)に向かう時、子だちと接する時、五貫屋嘉兵衛(美稀千種)と対峙する時・・・それぞれに声の表情までの演じ分けも鮮やか、大家の次男らしい品格と大らかさ、屈折した思いも緩急自裁に演じてみせて、まさに集大成といったハマリ役でした。
これに対する小久保彦左の汝鳥伶さんがまたすばらしくて、笑いも涙も自由自在。
蔵之介との心の絆が感じられ、矍鑠とした老武士然としながら可愛げもあって、物語の中でとても大きな存在でした。
実質二番手でしたね。
ヒロインは音波みのりさんのお鈴。
いかにも気風のいい江戸娘で、蔵之介のことを慕っているのに口ではポンポン言ってしまう勝気なところも、“分”を知っていて、蔵之介の旅立ちに姿を見せずに身を引く潔さも、とても好ましいお鈴さんでした。
気風がいいと言えば、瓦版売り権六の極美慎さんが歯切れのいい江戸っ子弁で狂言回しのような役まわりを鮮やかに勤めていました。瓦版売りにしておくのはもったいないような色男で、歌もますますよくなっていました。
天華えまさんは、悪役の長崎藩武士の安部四郎五郎と、蔵之介を説得に来る佐々木家家臣 西川頼母の二役。
ちょっと殺気も漂うような安部四郎五郎はいざ、という時になると「弱っ!」と拍子抜けでしたが、どちらの役も美丈夫で演じ分けもくっきり。役で歌がなかったのが残念だったなー。
天華さん、極美さんは神田祭の鳶頭でも出ていて、あまりのオトコマエぶりに「ひゃ~

カタコトの日本語がかわいい清国人姉弟の小桜ほのかさんと稀惺かずとさん。
弟 真々の稀惺かずとさん。台詞たくさんあるし、轟さん蔵之介に1対1で剣術指南を受ける場面あるし、いや~、歌劇団、ここで推して来ましたか、と思いました。
長屋の子どもたちはみんな個性的でかわいい。
おしゃまで気が強いお蝶の瑠璃花夏さん、いつもやり込められるのんびり屋の長松 紘希柚葉さん、それぞれのお母さん お花の紫りらさんとお父さん 長太のひろ香祐さんとともに、江戸の下町の雰囲気たっぷり。
若い星組生にとって、轟さんと最後の舞台でご一緒できたことは本当に幸せなことで、とても勉強にもなったと思います。
轟イズムをしっかり受け継いで、これからも走り続けてほしいな。
3日間で星組別箱3作品4公演+配信1公演コンプリート。さすがに疲れました のごくらく地獄度



