
星組別箱2作品目は愛月ひかるさん主演によるバウホール公演。
フランスの作家アベ・プレヴォ―の「マノン・レスコー」をもとに、物語の舞台を19世紀スペインに移してミュージカル化した作品で、2001年に瀬奈じゅんさん主演の花組で上演されて以来、20年ぶりの再演です。
宝塚歌劇 星組公演
ミュージカル・ロマン 「マノン」
原作: アベ・プレヴォー
脚本・演出: 中村暁
作曲・編曲: 西村耕次 鞍富真一 青木朝子
振付: 羽山紀代美 若央りさ
装置: 大橋泰弘 衣装監修: 任田幾英 衣装: 薄井香菜
出演: 愛月ひかる 有沙瞳 白妙なつ 大輝真琴 紫月音寧 漣レイラ
朝水りょう 桃堂純 綺城ひか理遥斗勇帆 天飛華音 水乃ゆり ほか
2021年7月8日(木) 3:00pm 宝塚バウホール 6列下手
(上演時間: 2時間30分/休憩 25分)
物語: セビリヤの名門貴族の青年ロドリゴ(愛月ひかる)は、旅先でマノン(有沙瞳)と出会い恋に堕ち、約束された将来を捨て駆け落ちしますが、自由奔放で享楽的な生活を求めるマノンは、お金のために平然とロドリゴを裏切るような行為をします。それでも一途にマノンを愛し続けるロドリゴは、親からは勘当され、賭博に手を染め、親友を裏切り、破滅への道を突き進んで行くのでした・・・。
初見でした。
同じ原作をもとにした作品に「舞音」(2015年月組/植田景子演出 龍真咲・愛希れいか主演)がありましたが、こちらの「マノン」の方が原作により忠実な印象です。
ひと目で恋に落ちたマノンを一途に愛し抜く、というロドリゴですが、生き方の不器用さと世間知らずぶりが際立ちます。
出会ってすぐ、マノンの言うがままにマドリードへ出奔するってどーなん?
当時のスペインの身分制度に詳しくないのですが、マノンを家に連れて行ってきちんと紹介しても結婚は許してもらえないような身分の違いがあるのかな?(宝塚の衣装は豪華なのでマノンだってそれなりにいい家の令嬢に見えるけれども)。
とりあえず、親に当たって砕けてみて、ダメだったら・・・とは考えられないくらい”恋は盲目”だったのかとも思える、驚く親友のミゲル(綺城ひか理)を振り切ってマノンと行くロドリゴの笑顔の屈託のなさよ。
マドリードの暮らしでも、貴族の御曹司でそれまで働くことなんて考えなくていいご身分だったとはいえ、覚悟してそれを捨てたのだから、生きていくためには働くことが必須なのに・・・いくらレスコーにそそのかされたとはいえ、生きていくための糧を稼ぐ手段が賭博って何よ?とツッコミたくもなります。
ミゲルが「あの時 マノンにさえ出会わなければ」「マノンと行くのを止めてさえいれば」と後悔する台詞はとても切ない。
将来を約束されていた、自他ともに認めるエリート青年がたった一人の女のために、破滅へと転落していく人生。
そこのところに説得力を持たせるのが、マノンの“ファム・ファタール”たるべきところだと思うのですが、このマノンには男を破滅させる魔性の女といった雰囲気があまり感じられないのは残念だったかなー。
有沙瞳さんのマノンは美しくて可愛くて、とても魅力的ではありましたが、お金がないことに耐えられない、無邪気でわがままで世間知らずのお嬢様、といった趣きで、情熱的で自由奔放、でも男はその魅力に抗えない、というイメージではなかったです。
有沙瞳さんの力量をもってしても魅力的なファム・ファタールを造形するのは難しかったのかとも思いましたが、そもそも脚本や演出の描き方がそうだったのかもしれないと思い至りました。
アルフォンゾ公爵(朝水りょう)に「自分のものになるなら牢獄に入るのを許してやる」と言われて、唾を吐きかけるとこは、激しさも純粋さも、ロドリゴへの思いも感じられてよかったです・・・ある意味ファム・ファタールとしてのマノンらしくないとは言えますが。
ロドリゴの救いようのなさは置いておいて(笑)、愛月ひかるさんはひたすらカッコよく、愛に一途に突っ走る若き恋の暴走を熱演。衣装もどれもよくお似合いで、眼福です。
有沙瞳さんのマノンとの身長差も萌えポイントで長い腕で包み込むようにマノンを抱きしめる姿に

フィナーレのデュエットダンスも夢見るように素敵でした。
台詞も歌も「声が・・・」とよく言われますが、もうそれも個性というか持ち味ということで。
愛月さんといえば、「ロミオとジュリエット」の死が記憶に新しく、「神々の土地」のラスプーチン(大好き!)とか、「アルジェの男」のジャックとか、個性的な黒い役で強烈な存在感を放つ印象がありますが、こんな純粋な役も素敵だなと思いました。
ロドリゴの親友ミゲルの綺城ひか理さん。
出番は少なかったですが、ロドリゴのことを思う誠実で優しい青年を好感。
ミゲルのソロは綺城さんのために今回新たに作られた曲で、さすがに聴かせてくれました。
フィナーレ ショーの冒頭にソロで登場した時のキラッキラぶりもとても素敵でした。
マノンの兄でロドリゴを悪の道へ誘い込むレスコーは天飛華音さん。
二番手の役どころで、抜擢に応えて熱演でした。
お芝居も歌もダンスも高値安定で実力を発揮。ラスト、撃たれ方の上手さにも注目でした。
天飛さん単体としては全く申し分ありませんが、惜しむらくは有沙さんマノンのお兄さんには見えないこと・・・ましてやロドリゴの兄(と言って騙す)なんて・・・。
アルフォンゾ公爵の朝水りょうさんが相変わらず色気たっぷりのイケオジぶり。
ロドリゴの父 オリベイラ伯爵の大輝真琴さん、フェルナンドの輝咲玲央さん、レイエスの漣レイラさんも加えて、大人のオトコ軍団はさすがの実力発揮です。
娘役ではレスコーの恋人 エレーナに扮した水乃ゆりさんが溌剌とした可愛らしさで目を惹きました。
ちょっと夢咲ねねさんを思わせる華やかな美貌のゆりちゃん。ダンスもお上手なので歌、がんばっていただきたいです。
せっかく愛月・有沙揃えてこれじゃない感 の地獄度


