昨年全公演上演中止となって、そのクリエイションの一部を演奏付きのリーディング形式でオンライン配信されました。
その時のアフタートークで「この公演は延期しても必ず実現します」とおっしゃっていたとおり、今年上演されることになりました。
舞台中央に平面の白い舞台が切ってかり、そこから下手に向かって同じく白い橋掛かりができていて、「あぁ、そうだ。能の上演形式にのっとった舞台だった」と思い出しました。
昨年のクリエイションは、どちらも能で言う後ジテが登場する前の部分までの上映でしたが、今回はフル上演。
その後ジテがとんでもなくすばらしかったです。
未練の幽霊と怪物 -『挫波(ザハ)』『敦賀(つるが)』-
作・演出: 岡田利規
音楽監督・演奏: 内橋和久
舞台美術: 中山英之
出演: 森山未來 片桐はいり 栗原類 石橋静河 太田信吾/
七尾旅人(謡手)
演奏: 内橋和久 筒井響子 吉本裕美子
2021年7月4日(日) 2:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
1階F列(4列目)下手 (上演時間: 2時間5分/休憩 15分)
昨年のクリエイション配信の感想はこちら
「ついえた『夢』を幻視する、レクイエムとしての音楽劇」とフライヤーに書いてあるのを、今初めて気づきました。
音楽劇だったのか・・・。
この独特なタイトルの由来は、「社会とその歴史は、その犠牲者としての未練の幽霊と怪物を、ひっきりなしに生み出しています」(岡田利規さん)というところからかな。
それらを見ないことや忘れてしまうことはできるけれど、「直視しないこと忘却することに、抗うために、能という演劇形式が持つ構造を借りて上演します」ということです。
挫波:
東京五輪招致のため、2012年新国立競技場の国際コンペで選ばれたイラク出身の天才建築家 ザハ・ハディド。その圧倒的なデザインで脚光を浴びながら、後にその採用を白紙撤回され、それからほどなく没した彼女をシテとして描きます。
ワキ(観光客):太田信吾/シテ(日本の建築家):森山未來/アイ(近所の人):片桐はいり
敦賀:
夢のエネルギー計画の期待を担い、1985年の着工以来一兆円を超す巨額の資金が投じられたものの、一度も正式稼動することなく、廃炉の道をたどる高速増殖炉もんじゅ。もんじゅを臨む敦賀の浜を訪れた旅行者が出会うのは・・・。
ワキ(旅行者):栗原類/シテ(波打ち際の女):石橋静河/アイ(近所の人):片桐はいり
「挫波」が先と思い込んでいて(昨年のクリエイション配信が「挫波」→「敦賀」の順だったので)、最初に登場した観光客が「栗原類くんそっくり。似た人を2人選んだのかな」と思っていたらホンモノの栗原類くんでした(笑)。
どちらも諸国遍歴する観光客や旅行者(ワキ)、亡霊(シテ)、里人(アイ=狂言方)という構成。
舞台奥に3人のミュージシャン(囃子方)が並び、上手に謡手の七尾旅人さん。
3人の真ん中が内橋和久さんなのかな。
様々な楽器を駆使して、聴いたことのないような哀愁を帯びた音色を響かせ、場面ごとに世界観の広がりを見せてくれました。
七尾旅人さんのヴォーカルは語りふうでもありラップになったり、即興的な雰囲気でした。
「敦賀」は、廃炉になる高速増殖炉のもんじゅをあの子と慈しみ、舞う波打ち際の女(石橋静河)。
後ジテでは鋲のような光るものがついた透明の仮面のようなものを顔につけ、羽衣のような淡いピンクの衣装で舞い踊ります。
最近ドラマでもよくお見かけするようになった石橋静河さん。ダンサーとしても知られているということで、やわらかながら力強い舞に目を奪われました。お顔立ちはやはりお母様の原田美枝子さんに少し似ていらっしゃる雰囲気。
演奏とも相まって、敦賀の海辺の風景が浮かんでくるようでした。
「挫波」は、建設中の国立競技場を見物する観光客の太田信吾さんがゆったりした台詞とともに、自転車こぐような足の動作したりするのが「あれは何の意味だろ?」とやたら気になりました。
建築家の森山未來はくるくるパーマヘアでシャツとパンツ さらりとしたオールインワンのような衣装で登場。
未來くんの声、やっぱり好きだなと台詞聴きながら思う。
ザハその人となる後ジテは、やはり透明のマスクに鋲をつけ、目はシルバーの入った隈取のような強めのメイク、ボリュームのあるグレーのふわりとした衣装(古代ローマのような)を纏って登場。
空を仰ぐように、また地を這うように舞うザハ。
怒り、哀しみ、絶望・・・観ていて苦しくなるほどです。
昨年観た「『見えない/見える』ことについての考察」でも見せていた「リアル マトリックス」をまたやっていて、床すれすれの低さで海老ぞりの姿勢になるだけでもオドロキなのに、そこから一旦仰向けに横たわりすぐタンッと跳び起きるとか、未来くん足腰、膝、身体能力、ほんとどうなってるの?という感じです。
思いがけず歌も聴けて、本当に眼福、耳福でした。
未來くんの声、本当に好きだ(2回目)。
カーテンコールで並んだ時にはほんのり笑顔で客席に向かって拍手も贈ってくれていました。
そして、グレーの衣装ふわりと翻して、いつも誰よりも早く上手にはけて行かれました。
大千秋楽で、カテコラストには岡田利規さんも登場。
昨年のクリエイション配信を観た時の感想に
「本来は、『東京オリンピックを目前に控えた日本』で上演されることを前提として構想された作品ということですが、先の見えないコロナ禍、その中で演劇や芸術のあり方、捉えられ方、開催自体が危ぶまれるオリンピックなどの状況がこの2つの物語と一層シンクロする印象。
ザハの一件にしてももんじゅにしても、都合の悪いことはうやむやにして『ないもの』とする傾向が見え隠れする政権のあり方が、今のコロナの対応にも重なるようでうすら寒さも感じます。
と書いたのですが、丁度1年が過ぎて、状況が全く変わっていないことに愕然とします。
まずはオリンピックありきの現状も。
「何が何でもオリンピックはやる」だけが一貫しているのね の地獄度


