2021年06月30日

六月大歌舞伎 「桜姫東文章」 下の巻


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「桜姫東文章」  4月に上の巻を観た後は、「ぜーったい下の巻も観なければ」と鼻息荒くしていたものの、こんな状況下、どうしようかとかなり迷いましたが、一世一代とは銘打っていませんが、お二人にとってこの演目は多分これが最後の上演、私が観るのもこれが最初で最後、と悔いの残らぬよう思い切って観に行きました。


六月大歌舞伎 第二部 
「桜姫東文章」 下の巻
序幕 岩淵庵室の場/二幕目 山の宿町権助住居の場/大詰 浅草雷門の場
作: 鶴屋南北
補綴: 郡司正勝
出演: 片岡仁左衛門  中村錦之助  片岡孝太郎  中村福之助  
片岡千之助  嵐橘三郎  上村吉2弥  中村歌六  坂東玉三郎 ほか

2021年6月15日(火) 2:10pm 歌舞伎座 1階2列センター
(上演時間:2時間30分/幕間 15分)


上の巻の感想はこちら


桜姫を追い求めながらも別れ別れになった清玄(仁左衛門)が病み衰え、弟子の残月(歌六)と桜姫の局であった長浦(吉弥)の庵室に身を寄せているところから下の巻は始まります。残月と長浦は金欲しさに清玄を殺し、墓穴掘りとなった権助(仁左衛門二役)に後始末を依頼します。そこへ女郎として売りに出された桜姫(玉三郎)が連れて来られ、権助と再会するのでした。そんな中、雷が落ちた衝撃から清玄は息を吹き返し・・・。
 
青蜥蜴の毒、殺し、幽霊、人魂、仇討ちといかにも鶴屋南北らしいこれでもかの展開で、蘇った清玄が再び死ぬあたりは「東海道四谷怪談」を思い起こしたりもしました。
荒唐無稽な筋立てですが、面白いのはもちろん、絵空事で終わらせないのは、やはり仁左衛門さん、玉三郎さんがお役に命を吹き込んでいることに尽きます。


「岩淵庵室の場」の清玄は、こんな仁左衛門さん見たことないというくらい哀れで惨めな姿。
打って変わって権助は相変わらず男くさくて色気も愛嬌もある小悪党。
仁左衛門さんのこの二役の演じ分けが本当に鮮やか。
早替りでもあってもちろん見た目も違うのですが、声色、表情、所作、体全体から立ち昇る雰囲気まで全く別の人間が出てくるの、本当トリハダものです。

早替りといえば、清玄の喉に出刃包丁が刺さって死ぬ少し前くらいから清玄は仁左衛門さんに代わって別の役者さんがやっていらしたのですが、かぶりつきで観ていてもお顔がそっくりで、「似てる人を選んだのかもしれないしメイクのせいもあるけど、よくまぁあんなに似るもんだ」と感心していたのですが、よくよく見るとどうやら顔一面マスクだった模様。
後ろの席の人なんて、権助が早替りで出て来た時、あまりの速さに「ええっ!!どうなってるの?どうなってるの?!」と声出ていらっしゃいましたw

玉三郎さんの桜姫は、権助に売り飛ばされて女郎になっても、自分の境遇をそれほど悲観するでもなく、そんなひどいことをする権助にいつまでも惚れ切っている、という不思議な女性。
そんな桜姫が、凄絶なもみ合いの末に清玄を殺し(清玄は自分で自分が持っていた出刃包丁に刺さった感じでしたが)、その怨念からか権助の顔に清玄と同じ痣が浮かんだのを見て、あたかも自らの因果を悟り、覚悟を決めたかのように「毒喰わば」と叫んだ時、表情がキリリと引き締まり、身体の中まで変わったような凄まじさが感じられて背中がゾクッとしました。

山の宿町権助住居の場で、まんまと大家におさまった権助と、人気女郎の風鈴お姫となった桜姫の二人が仲良く並んで布団に腹ばいに寝転がってあれやこれやじゃらついているの、なんて可愛いのでしょう。
生来の姫言葉と下賤な女郎言葉が混じった口調も何ともチャーミングな桜姫。
権助が出ていった後に現れた清玄の幽霊とも全く物怖じせず渡り合い、権助こそが父や弟の仇であり、お家の重宝 都鳥の一巻を奪った相手と知るや、権助の血を引いたわが子を手にかけた上、酔って帰った権助も殺して仇討ちを果たします。
この権助殺害場面は、見得やキマリの姿も美しく、執拗に続きますが、殺し合う二人にふと上の巻の「桜谷草庵の場」の場のあの濡れ場が重なって見えたりもしました。


大詰 浅草雷門の場。
殺人の罪に自害して果てようとする桜姫ですが、それには及ばぬとなって、もう一人の弟 松若をもって吉田家再興も叶うという、なんじゃそらと拍子抜けするほどめでたしめでたしの展開。
ここ、清玄も権助も死んでしまって出てきませんが、大友常陸之助という管領役で仁左衛門さんが颯爽と登場。思わぬご馳走でした。
そして全員正座して、「今日はこれぎり~」で幕。

いかにも歌舞伎を観た、南北を観たと感じる演目。
2021年というこの年に、仁左衛門さんと玉三郎さんの「桜姫東文章」を観たこと、決して忘れませんし、孫子の代まで自慢したいと思います(いないけど)。



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今回のお席はこちら。
1列目は販売していませんのでかぶりつきど真ん中。
目がごくらくでございました~ のごくらく度 (total 2269 vs 2268 )


posted by スキップ at 17:37| Comment(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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