物語についてはまだまだいつまでも語り続けたいところですが(あんなに長々書いたのに)、キャストについて書いておきたいと思います。
宝塚歌劇 月組公演
ロマン・トラジック 「桜嵐記」
作・演出: 上田久美子
出演: 珠城りょう 美園さくら 月城かなと 光月るう 夏月 都 ほか
本編感想はこちら
珠城りょう (楠木正行)
勇壮で根っからのもののふ。
父正成の遺志をそのまま受け継いだような生真面目さと信念を持ち、歌に出てくる“大きな楠”そのもののような度量。
冷静でいつも自分を抑えていて、苦悩しながらも一族の長としての立場、南朝を護り導く者としての強い覚悟が感じられます。
弁内侍に対してもあまり表情に表さないながら心から愛おしく思っているであろうことが感じられ、だからこそ、「とても世に ながらうべくもあろう身の 仮の契りをいかで結ばん」の歌が切なすぎる。
凛とした立ち姿、武者装束も弓を構える姿もこれ以上ないくらい美しくお似合いです。腰を落とした殺陣も迫力抜群。
「「じゃかあしい!しょうむないことをごちゃごちゃと!」 「残りの命、一人の女だけにやりたいんや」・・・本編の感想でも書きましたが、本音の部分で出てくる河内弁もとても魅力的。
もちろんあて書きではあるのですが、歴史上の人物がこれほどハマるとは驚きです。もう楠木正行といえば珠城りょうさん以外思い浮かばないもん。
「月雲の皇子」の木梨軽皇子以来、珠城さんが主演した役はどれも好きですが、最後にして最高の当たり役となったのではないでしょうか。
上田久美子先生の珠城さんの魅力を知りつくしてさらに高みへ導いたような筆致もすごい。
美園さくら (弁内侍)
親兄弟を皆殺しにされ、「武士など信じませぬ」と言っていた頑なな心が正行によって、ジンベエや楠木の明るい郎党たちに囲まれて、少しずつほぐれていく様子がさり気ない表情や仕草にも表れる細やかな演技。
あまり公家のお姫様らしくなくて、”料理以外”何でもできるという設定で、公家言葉も話しませんが、それを差し引いても芯が強く、現代的な雰囲気。
そんな弁内侍を正行の妻にという後村上天皇と中宮からの提案に「よろしいな、内侍」と聞かれて「はい」と消え入りそうな声でうなづくのも可愛らしい。
赤い打掛も十二単もとてよくお似合いで、歌声もことのほか美しかったです。
トップ娘役としてのお披露目だった「夢現無双」のお通が所作も台詞もいっぱいいっぱいだったことを思うとわずか2年で隔世の感あります。
きっとすごく努力したんだろうな。
月城かなと (楠木正儀)
「戦場は俺の遊び場や」と言い放つ楠木家のやんちゃな三男。
河内弁でもあり、月城さんには珍しい役どころで新鮮。
正行と正儀は実際には8歳くらい年齢差があって四條畷の合戦にも参戦していなかったと思われますので、このキャラクターは珠城りょうさんの後を受け継ぐ者としての月城さんへのあて書きなのでしょう。史実の人物で言うと正行の従兄弟の和田賢秀みたいな感じ。
笑わせる役目も少し引き受けながら、「親父殿は北朝に殺されたんか?ほんまは南朝に殺されたんやないか?」と正行が思っていても言えないことをズバリと言ってのける面も。
美しい武者姿もピタリとキマり、さすがに本物の雪組育ちで所作やすり足が抜群に綺麗でした。
鳳月杏 (楠木正時)
戦よりも料理が好きな穏やかな楠木家の次男。
史実でも最期まで正行と生死をともにした人物です。
ここに鳳月さんが配役される安心感ね。
正行が足利尊氏の北朝への誘いをきっぱり断って、「お前らは好きにせぇ!」と言った時、それまで迷っていたのが嘘のように百合に離縁を言い渡す場面でいつも泣いてしまうのですが、「そこのジジイ(高師直)を近づけんよう、よう見張ってや!」って河内弁になるところもマル。
その伏線も四條畷の合戦のあの忙しい中きちんと回収される上田先生の手際のよさで、妻を深く愛するがゆえの離縁だと言うことが知れます。
そうして、「すまぬが先に行く、兄上。三途の川で妻が待つのでな。武運を」という言葉を遺し”珠城さんに抱かれて死ぬ最後のタカラジェンヌ”となって息絶える正時の涙ナミダ。
鳳月のこの役に全く不満はありませんが(むしろこの三兄弟、ありがとうという感じ)、同じ上田先生の作品「金色の砂漠」(2017年 花組)で演じたジャハンギール王が大好きだったので、足利尊氏や高師直をもう少し役のウエイト大きくして正行の前に立ちはだかる者として鳳月さんでも物語的にはより深みも増しておもしろかったかなとは思います。
暁千星 (後村上天皇)
とても品ある天皇で、装束もよく似合い、凛とした立ち姿、柔らかい公家ことばも巧みでした。
この方なら皆が仕え、護りたくなるようなカリスマ性もあって、すばらしかったです。
本心ではもう誰も死なせたくないと思いながら、戦をやめることができない苦悩や帝としての孤独もよく感じられました。
「許しておくれ。始めた戦をやめられぬ、そなたの幼友達を」と正行に言う声と表情の切なさ。
そして幕切れのあの歌と「戻れよ」。
6月20日に観た時は、本当に綺麗な涙を流していらっしゃいました。
暁さんは”珠城さんを見送った最後のタカラジェンヌ”ですね。
輝月ゆうま (楠木正成)
三兄弟の父。言わずとしてた大楠公ですが、そのスケールの大きさ、人物としての寛大さを十分に表現した正成でした。
四條畷の合戦に重なる、三人の子供たちを連れて賀名生の里へ遠乗りし、「うまいのぅ」と乾飯を食べ、「民がのぅ、この乾飯食わしてくれたんや。もうろた時と力をお前らは何に使う?」からの ♪河内の国の赤坂に・・・エンヤラ エンヤラ どっこいせ~ ですよ。
この場面は「もう勘弁してください」というくらい毎回号泣。
それにしても輝月さん、甲冑似合いすぎだし、死ぬ時の倒れ方うますぎ。
高師直 (紫門ゆりや)
初見の時、誰かわかりませんでした。
端正な王子様のイメージが強い紫門ゆりやさんとは遠くかけ離れたメイクに声。
「武士とは欲得で動くもの」と言ってはばからない卑しいながら戦術に長けた武将を体現。
正行が足利尊氏の誘いを断った時、「はんっ!」って吐き捨てるように言う声ねー。
いやもう、本当にすごい演技を見せていただきました。
足利尊氏(風間柚乃)
紫門ゆりやさんの高師直の印象があまりにも強烈なので、さすがの風間さんも今回苦戦かな?と思いましたが、しっかり高師直の上に立ち、正行たちよりも年長で、立場的も揺るぎない、タダモノではない将軍に見えるのはさすが。
千海華蘭 (ジンベエ)
弁内侍にお金で雇われた農民だったのが、正行たちと行動を共にする中で正行に惚れ込み、武士にしてくれと願い出て、弁内侍の護衛役となる人物。
ネイティブ河内弁を駆使し、「旦那~」「旦那~」と慕うジンベエ 千海華蘭さんめちゃめちゃうまい。
ジンベエの存在に正行も弁内侍もどれほど救われたかと思いますが、観ている私も救われました。
「旦那を置いていかれまへ~ん」と泣きじゃくっていたジンベエが御門跡様のもとに現れた時、「弁内侍様をお護りしろ」という正行の言いつけを40年間ずっと守っていたんだと胸が熱くなりました。
鬼気迫る演技の後醍醐天皇 一樹千尋さん、老年の正儀と弁内侍が深い味わいの光月るうさん、夏月都さん。
佳城葵さん、夢奈瑠音さんの北畠親房、顕家親子、笑顔の裏の哀しみと凄みを感じる白雪さち花さんの仲子、少ない出番ながら冷徹な台詞が光る結愛かれんさんの饗庭氏直、愛すべき楠木の郎党たち・・・書ききれません。
舞台の端の一人ひとりに至るまでこの時代を役を生きていて、月組一丸となって、すばらしい舞台をつくり上げていて、ほんと泣く。

ここに珠城さんの主演作が、トップスターの中に珠城さんが、並ぶのもこれが最後ね(涙)。
→ ショー「Dream Chaser」につづく