
1998年に始まった、シェイクスピア全戯曲 37作品を上演するという彩の国シェイクスピア・シリーズ最終作。
フライヤーには「23年の時を駆け抜け、走破する瞬間をお見逃しなく」とありました。
舞台上には一面に真っ赤な花。
よく見るとそれは彼岸花で、「洋物のお芝居に彼岸花って珍しくない?」と思っていたのですが、カーテンコールで役者さんたちの頭上に蜷川幸雄さんの大きな写真パネルが現れて、そうか、と。
彼岸花は、このシェイクスピア・シリーズの完遂を目指して叶わなかった蜷川さんへのオマージュだったのでしょう。
聞けば、この舞台の初日は蜷川さんのご命日だったとか。
きっと蜷川さんも一緒に、37作目の上演をお祝していらっしゃったに違いありません。
彩の国シェイクスピア・シリーズ第37弾
「終わりよければすべてよし」
作: W.シェイクスピア
翻訳: 松岡和子
演出: 吉田鋼太郎
美術: 秋山光洋 照明: 原田保 衣裳: 西原梨恵
出演: 藤原竜也 石原さとみ 溝端淳平 正名僕蔵 山谷花純
河内大和 宮本裕子 横田栄司 橋本好弘 吉田鋼太郎 ほか
2021年6月10日(木) 5:30pm シアター・ドラマシティ 6列上手
(上演時間: 2時間45分/休憩 20分)
物語の舞台は南フランス ルシヨン。
若き伯爵バートラム(藤原竜也)と家臣のパローレス(横田栄司)は病床にあるフランス国王(吉田鋼太郎)に仕えるためパリに向かいます。貧乏医者の娘で孤児のヘレン(石原さとみ)はバートラムの母 ルシヨン伯爵夫人(宮本裕子)の侍女としてこの屋敷で暮らしていますが、バートラムに身分違いの恋心を抱き、彼を追ってパリへ行きます。
父から受け継いだ秘伝の処方箋で瀕死の国王を治療し、褒美として夫を選ぶ権利を与えられたヘレンはバートラムを指名します。バートラムは貧乏医者の娘とは結婚しないと断固拒否したものの、国王に𠮟責され、しぶしぶ承諾して結婚。初夜を迎えることなく、「私の身につけている指輪を手に入れ、私の子を宿す時が来たら妻と認めてやってもいい。でもその日は来ない」という手紙でを残してイタリア・フィレンツェの戦役へと赴きます。巡礼の旅という口実のもと、彼を追ってフィレンツェへ向かったヘレンは、バートラムがこの地で戦功をあげ、貴族の娘ダイアナ(山谷花純)に求愛していることを知り、ダイアナとその母に協力してもらい一計を案じて・・・。
上演回数の少ない“問題作”ということですが、さもありなんな展開。
バートラムのヘレンとの結婚の拒み方が尋常ではなくて、熱演型の藤原竜也くんの本領発揮なのですが、口角泡飛ばし、鼻水たらし、涙まで浮かべんばかりに激しく拒絶するバートラムに、「バートラム、何があったん?」と思いました。
にもかかわらず、策略が奏功して、「バートラムの指輪を手にして子を宿した」ヘレンにあっさり改心して、「いつまでも彼女を愛します」と言うに至っては「バートラム、ええのん?」と。
あんなにかわいくて聡明でいじらしいヘレンとの結婚を拒否する理由が“身分違い”だけというのも何だかなぁですし、ヘレンがバートラムを子を宿した一夜にしたって、バートラムは相手をダイアナと思っていたわけだし・・・あのリベラルで慈悲深いお母様からどうしてこんな子が育ったのだろうと思います。
一方のヘレン。
パローレスのセクハラ発言連発に毅然と言い返すあたり、ただかわいいだけの女の子ではなくて、芯が強く聡明さも兼ね備えた女性だということがわかります。が、バートラムに拒絶された失望の中、パリから伯爵家に一人戻って、「自分がここにいてはバートラムが帰って来ることができない」と身を引いて巡礼の旅に出るのは何といじらしいと思いきや、フィレンツェで取る行動の大胆さと知略家ぶりにはあざとさを感じるくらい。
あんなに賢いヘレンがどうしてバートラムみたいな男を好きになったのでしょう。
ダイアナ母娘にしても、ヘレンがバートラムの妻であるという事情を聞いただけであれほど身を呈して協力するのはなぜかしら。
・・・とツッコミどころ満載ながら、そこはシェイクスピア。
示唆に富んだ台詞が散りばめられ、バートラムはもとより、特権意識が強く仲間からも厭われるパローレスなど、男たちの愚かさとアイロニーと、そんな男たちに従順に従っているばかりではない女たちの強さの対比も鮮やか。ラフュー(正名僕蔵)やデュメイン兄弟(河内大和・溝端淳平)、道化(橋本好弘)など脇の人たちも活写されて、タイトル通り「終わりよければすべてよし」とまでは感じられないものの、多幸感あふれる大団円となっていました。
バートラムの藤原竜也くん。
ほんと、どうしようもなくひどい男なのですが、竜也くんが演じると「ま、いっか」となってしまいます、あら不思議(笑)。
薄紫の軍服がよく似合って、みんな同じ軍服なのに一人際立ってカッコよく見えます。相変わらず立ち姿の美しさと目を惹きつけるオーラがハンパないです。そういえば竜也くんだけニーハイのブーツだったけれども。
お得意の絶叫型の台詞ばかりでなく、小さく囁くような言葉もきちんと届く台詞術。ダイアナとのベッドのシーンではコミカルな表情も存分に見せてくれました。
ヘレンは石原さとみさん。
とてもかわいらしい。口跡よく長台詞も聞かせてくれました。
パローレスとの場面はもちろん、どんな薬も治療も拒絶している王の心を開かせる語り、よかったな。
ただ、ヘレンのいじらしさや身分違いの切なさ、愛するバートラムから拒絶された苦しみは感じながらも、その後の行動が「あざとい」と感じてしまうのは、私が原作に共感できていないからなのか、演出がそうなのか、石原さとみちゃんへのイメージなのか(←)。
パローレスの横田栄司さんがさすがに上手くて、この物語にコクッとした色を加えていました。
権威主義で見栄っ張りの男が化けの皮をはがされて、ボロボロになりながらもしぶとく生き続けるパローレス。
その落差もさることながら、彼の言う「馬鹿にされたら馬鹿に徹して栄えればいい。人間誰でも生きる場所はある」という言葉を聞いて、本当は誰よりも強い人なのではないかと思いました。
もう一人印象的だったのが、ラフュー卿の正名僕蔵さん。
確か大人計画でサダヲちゃんと同期入団の方ですね。このところテレビドラマのイメージが強くて舞台で拝見するのは久しぶり。
「ヴェローナの二紳士」(2015年)の道化以来かな?
ラフュー卿は飄々としていて、老獪な雰囲気でありながら、ヘレンを王に引き合わせたり、パローレスのうさん臭さを見抜きながら最後も見捨てないという懐の深さも見せるという不思議な味わいのある役。この役に正名さんをあてたキャスティングに拍手です。
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ラストは王としての吉田鋼太郎さんが、「夏の夜の夢」のパックの口上のようなご挨拶。
蜷川幸雄さんラスト演出となった「尺には尺を」(2016年)の時の写真パネルが掲げられて、「ああ、シェイクスピア・シリーズ本当に『完』なんだな、と感慨深かったです。
大阪公演は6/10-13 4日間5公演のうち土日の3公演が中止。6/11 ソワレが追加公演となり3公演のみの上演となりました。
土日に予定があって最初から平日ソワレ取っていたからよかったけど土日取っていたら暴れていたところです のごくらく地獄度



