
雪組のバウホール公演は大人気のスターあーさ主演ということで、チケット超激戦・・・に敗れ、配信の日も大劇場観劇と重なっていて「観られないな」としょんぼりしていたところ、「チケット余っちゃった」という天の声が前日に舞い降りてきて、幸せなことに観ることができました。
宝塚歌劇雪組公演
ロマンス 「ほんものの魔法使」
Based on the novel
THE MAN WHO WAS MAGIC by Paul Gallico
原作: ポール・ギャリコ
脚本・演出: 木村信司
作曲・編曲: 長谷川雅大 植田浩徳
振付: 百花沙里 装置: 稲生英介
衣装: 加藤真美 イリュージョン指導: 北見伸
出演: 朝美 絢 野々花ひまり 千風カレン 透真かずき
久城あす 愛すみれ 桜路 薫 天月 翼 彩みちる
星加梨杏 縣 千 壮海はるま 華世 京 ほか
2021年5月29日(土) 11:30am 宝塚バウホール
(上演時間: 2時間30分/休憩 25分)
物語: 魔術の都マジェイアで開催される手品師試験に出場するため、アダム(朝美絢)が言葉を喋る犬モプシー(縣千)と共にやって来ます。市長である父ロバート(久城あす)に閉じ込められていたジェイン(野々花ひまり)をアシスタントにして試験の予選会に出場したアダムは、マジックを失敗しそうなニニアン(華世京)を助けた上に、割れた卵が元通りになるパフォーマンスを披露しますが、そのトリックは審査員の誰にも分からないもので、その仕掛けを聞き出そうとマジェイア全体を揺るがす大騒動へと発展していきます・・・。
原作は アメリカの作家ポール・ギャリコが1966年に発表したファンタジー小説。
原作未読です。
ファンタジー作品は木村信司先生が永年やりたかったものだとか。
人間の心の醜さも描く“社会派ファンタジー”ということですが、宝塚版はあくまでソフトにかわいく楽しい舞台。
しゃべる犬 モプシーはもちろん、様々に凝った扮装をしたマジェイアのマジシャンたち、歯磨きマシーンや爪磨きマシーンとか、蜂とかニワトリとか牛とか、楽しいコスプレ(違)が続々登場して、ちょっとディズニーの世界っぽい。ジェインのお洋服もどれも可愛くて、今回、衣装の加藤真美さん絶好調なのでは。
一幕終わった時点で宙組のバウホール公演「リッツ・ホテルくらいに大きなダイヤモンド」に雰囲気似てるなぁと感じたのですが、そういえばあの作品も原作もので木村先生の脚本・演出でした。
社会派の片鱗はラスト。
マジシャンとしての自分たちの暮らしを守るためにほんものの魔法を使うアダムを抹殺しようとする人々の姿を見て、マジェイアを去る決意をし、「最後にあの人たちの一番好きなものをおいていくよ」と少し切ない表情で金貨の雨を降らせるアダム。
降ってくる金貨をわれ先にと床に這いつくばって集める人々。
数年後のマジェイア。
人々は空から降ってきた金貨のせいで働かなくなり、気力もなく虚しい日々を送っている人もいるらしい。
そんな中、人気マジシャンとなった地位を捨てて、かつて裏切ってしまったアダムに会いに山を越えて行くというニニアン。
その言葉を聞いて、大人になったジェインが「私も」という希望を繋いて幕。
人間にとって本当に大切なものは何か、お金があって仕事もする必要がないことが本当の幸せか、を問いかけるようなラストでした。
ここで私の疑問。
そもそもなぜアダムはマジェイアに行ったのか。
ほんものの魔法使いならば何も試験なんて受ける必要なんてないじゃんと・・・という疑問に、原作を読んだ友人の答えは「仲間がほしかったから」。アダムは“マジシャン”も自分と同じ魔法使いで、友だちになれたり、新しい魔法を教えてもらったりできると考えたらしい。
つまりこの物語は、アダムの成長物語でもあるということですね。その成長が、「魔法使いではない人間の心の醜さを理解すること」であるのはいささか切なくもあり皮肉でもありますが。
朝美絢さんのアダム。
いつも沈着冷静で誰に対してもやさしく穏やかな口調。でもどこか孤独感も漂わせています。
「自分はハズレの女の子」だというジェインに、「女の子に当たりハズレなんかない。もしあるとしたら、みんな当たりだよ」なんて台詞さらりと言ってのけるアダム。どんな王子様なんだ。
魔法使いと言われても納得のシャープな美貌でラフな衣装も、手品師試験決勝の正装した姿もよくお似合い。
歌はうまいし台詞の口跡よく、穴のないスターさんです。
こんな青年役は軽々やりこなしている感じですが、もっと深い悩みを抱えるとか、ドロドロの恋愛劇とかも観てみたいです。
作品全然違いますが、同じバウホール公演「夢千鳥」の和希そらさん演じた超濃い役と比べたら少し物足りない感じ。
アダムにとってかけがえのない存在であるモプシー。
もう、かわいいかわいい かわいすぎる。あんな大型犬ほしい。
アダムがあまり感情を表に出さない分、声も表情も喜怒哀楽豊かなモプシー 縣千さん。
感じたことや見抜いたことを自分の感情に正直に口や態度に表すモプシーが傍にいるから、アダムはあんなにいつも冷静で笑顔でいられるのだと思います。本当はアダムだって気づいているし怒ってもいるのだろうけれど。
白いモフモフの衣装も長い耳かわいいし(モフモフのブーツも履いたらいいのに、と少し思った)、ジェインにはデレデレで他の人間たちんはツンなところも、時々見せるシャープでダイナミックなジャンプも大好き。いや~、縣千の代表作になるのでは・・・ご本人は犬が代表作では不本意かしら(笑)。
ジェインは野々花ひまりさん。
16歳の設定ですが、もっと幼い少女のような造形です。
父から折檻されて幽閉されたり、兄にはつねられたりとかなりブラックなご家庭で育ったにもかかわらじ真っ直ぐで素直な女の子。泣いたり笑ったり表情豊かで、一生懸命。歌もお上手です。数年後に出てくるジェインがスリムデニムをはきこなしたお姉さんで、こちらが本体の野々花さんではないかなと感じました。
オドロキの大抜擢はニニアンの華世京さん。
昨年初舞台を踏んだばかりの106期生。首席で阪急電車のポスターモデルでもあり注目されていましたが、ここまでできるとは。
アダムに助けられながらも、周りのマジシャンたちに脅されてスパイのような役目をさせられるニニアン。お芝居はもちろん、歌もうまいし、華もあって度胸満点。
フィナーレの黒燕尾で、朝美さんのバックに縣千さんと2人、左右で出て来た時には二度びっくりでした。
眼鏡をかけて派手な扮装もつくり込んだニニアンが普通の若者ととして出てきた数年後の姿は、話し方や声、所作などが男役としてはまだまだ幼いなーと感じましたが、何せ研2ですから。末恐ろしいです。
娘役さんたちが働くマシーン(頭にネジついていましたが、オルゴールの人形なのかな?)や蜂やニワトリやと扮して出てくるのですが、みんな可愛く、とりわけ彩みちるさんの可愛さが際立っていてどこにいても目につきました。
本役のワン・メイもとても可愛くて、赤いチャイナ服とあの髪型、あんなに似合う人いる?
お芝居が終わってフィナーレが始まるまでにいつもより時間が長いと感じましたが、幕が上がると黒燕尾の朝美絢さんが板付き。
ラストの場面に出ていたのに、着替えて髪型まで変える超高速早替りです。1分30秒だとか。
で、ソロダンスの後、縣、華世登場からの男役黒燕尾の総踊り→娘役さんも入って、8組くらいで同時リフト→朝美さん抜けて縣さんセンターの群舞(モプシーとは思えないカッコよさ)→朝美、野々花のデュエットダンス という流れ。
時間は短いけれどフルバージョンのフィナーレつくのはうれしいです。
このような状況下、そしてチケットない中、この舞台を観られたことに感謝。
初日の朝美さんのご挨拶「手洗い消毒ディスタンス 寄り道せずに真っ直ぐ帰ろう!」をちょっとだけ守らず、友人とお茶飲んでしまいましたごめんなさい のごくらく地獄度



