2021年05月13日

こんな和希そらが観たかった 宙組 「夢千鳥」


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和希そらさん二度目のバウホール主演作にして、栗田優香先生演出家デビュー作。
4月22日に初日を迎え、4月25日まで、わずか4日間6公演で上演中止となってしまったのが本当に惜しいと思える、宝塚の枠からもはみ出しそうなすばらしい作品でした。


宝塚歌劇 宙組公演
大正浪漫抒情劇 「夢千鳥」
作・演出: 栗田優香
作曲・編曲: 手島恭子
振付: 原田薫  百花沙里
装置: 新宮有紀   衣装: 大津美希  
出演: 和希そら  天彩峰里  美風舞良  花音 舞  
凛城きら  星月梨旺  秋音 光  留依蒔世  穂稀せり
愛海ひかる  水音志保  亜音有星  山吹ひばり ほか

2021年5月8日(土) 7:00pm 配信視聴
(配信時間: 2時間40分/休憩 5分)



物語: 女優の赤羽礼奈(天彩峰里)と事実婚の関係にありながら新作を撮る度に主演女優と浮名を流し世間を騒がせている映画監督の白澤優二郎(和希そら)が挑む次回作は大正浪漫を代表する画家・竹久夢二(和希そら二役)の人生を描いた物語。幼い頃から運命の女を探し続けた夢二もまた艶聞の絶えない男であり、撮影が進むにつれ、白澤は自分と夢二の境界が曖昧になるほどに彼の人生に飲み込まれていきます・・・。


白澤優二郎の場面から始まって、竹久夢二の世界へと、昭和と大正を行き来してパラレルワールドで展開する物語。
主演の和希そらさんと相手役の天彩峰里さんはじめ主だった役の人たちが双方の世界で二役を演じていますが、全く混乱することはありませんでした。前半は、夢二の時は和服、白澤優二郎の時代は洋服と着るものも違っていましたが、同じ服で演じていた後半もくっきり演じ分け、描き分けられていました。

♪待てど 暮らせど 来ぬ人を~ という「宵待草」の哀愁を帯びたメロディ、折々に挟み込まれる歌(歌手:花音舞)や、深い色の着物など、独特の世界観が広がる舞台。


中心となるのは竹久夢二と3人の女性との愛憎。
売れない頃から夢二の才能を信じ苦楽を共にして支えてきた他万喜(天彩峰里)。
若く純粋で真っ直ぐに夢二を愛する箱入り娘の彦乃(山吹ひばり)。
彦乃と引き裂かれた後に出会うモデルのお葉(水音志保)。

他万喜には愛憎綯い交ぜて刃物まで手にするほどの暴力をふるい、彦乃には少年のような純粋さ、王子様のような優しさを示し、お葉には情けなさや女々しさまでも見せてしまう夢二。

中でも他万喜との愛憎は凄絶な様を見せています。
東郷青児(亜音有星)と他万喜との関係を疑い嫉妬に狂って他万喜を何度も平手打ちにし、激しい喧嘩がタンゴへと昇華、からの、刃物を取り出した夢二が斬りかかると他万喜が座布団で応戦し、パッと飛び散る赤い羽根(血のイメージ)、そして泣く他万喜を見て、「そのまま!」と一心不乱に絵筆を運ぶ夢二・・・息もつかせぬ展開でした。
いや~、ここの絵を描く夢二こと和希そらくん、鬼気迫るとはまさにこのこと。

他万喜は、夢二が嫉妬に燃えて彼女を折檻し、泣く彼女を美人画として描くことに悦びを覚えていて、そのために他の男を誘惑しているようにも見えます。それが彼女なりの愛情表現であり、夢二の美人画の唯一無二のモデルとしての彼女のプライドなのかもしれません。
夢二はある意味、歪み狂った人物といえますが、他万喜もやはり、その世界に生きる人なのだと思わずにはいられません。
♪嫉妬に狂ったその目をもっと もっと見せて って何よ(笑)。

その点、彦乃はいかにも育ちのよい、純粋で素直なお嬢さんで、他万喜とは全く違うところに夢二が惹かれるのも理解できるところ。
「僕の青い鳥は彦乃だね」と言い、罪悪感を感じてキスするのを躊躇ったり、「僕は泣いている女を見て絵を描くような男だ」と告白?したり、病床に伏した彦乃に「三田峠の紅葉が見ごろらしい。よくなったら一緒に見に行こう。その時は丸髷に結っておくれ」(丸髷=既婚者の髪形なのでこれはプロポーズ)って、どこの王子ですか。他万喜に対する時とはまるで別人。

お葉の前ではかなり弱々しく、情けない部分をさらけ出す夢二。
窓の外(彦乃が入院している順天堂病院の方角)ばかりを見ている夢二に「何を見ているの?こっちを見て」と自らキスするお葉が切ない。そんなお葉が「あの絵は私じゃない。いいえ誰でもない。先生の心の中にだけ住んでいる人だわ」と言い放って去っていく姿は凛として素敵だったな。


和希そらさんすばらしい。
元より歌、ダンス、お芝居と何でもできる人ですが、そのすべてがハイクォリティ。
夢二の苦悩や葛藤、「大衆画家」という評価へのコンプレックス、荒々しさ、狂気・・・様々な側面を余すところなく表現していて、しかもとてつもなく色っぽい。

絵を描かなくなった夢二に恩地が「また絵を描いてほしい。あなたの絵が見たいんだ!」と訴えるシーンで、その熱い言葉に夢二の目に涙が浮かんだと思うとツーッと一筋こぼれて、あんな綺麗な泣き方できる人がこの世にいるんだと思いましたよね。
口跡よく台詞も歌も明瞭、ダンスはキレッキレ、目にかかる黒髪の巻き髪が何ともお似合い。ほんとすばらしいな(大切なことだから2回言いました)。
苦悩の末に爆踊りするそらくん夢二、圧巻でした。
前作「アナスタシア」の女役リリーもクリーンヒットでしたが、この「夢千鳥」には「こんな和希そらが観たかったのよ」がいっぱい詰まっています。

天彩峰里さんも「じゅっちゃん あんな表情できるんだ」と驚きの連続。
着物姿も艶っぽく、夢二同様狂気を宿した眼も印象的でした。歌唱もさすがに聴かせてくれました。

彦乃の山吹ひばりさんは105期生。
初舞台のころから「美人」と注目の娘役さんで「FLYING SAPA」での抜擢も記憶に新しいところ。可憐な容姿で舞台度胸もあって楽しみな娘役さんです。私はこの方の声、というか発声?がちょっと苦手。歌はそうでもないので話し方かなぁ。

夢二をめぐる3人の女性の中で個人的にはお葉に一番シンパシーを感じますが、水音志保さんよかったです。
水音さんも美しさには定評ありますが、お芝居もよくてこれからも注目です。

凛城きらさんと留依蒔世さん(歌うまい)のバーのマスターとバーテン最高だったし、真面目な東郷青児とチャラ男の西条湊を演じ分けた(しかもどちらも超イケメン)亜音有星さんも印象に残りました。

この公演はバウホールには珍しくフルバージョンのフィナーレがついていて、何とロケットまでありました。
そのロケットセンターが亜音くんで、配信のロケットラストで亜音くん抜いてくれたカメラさんGood job!
男役たちの持つ白い羽扇に囲まれた天彩峰里さん、和希さんを中心にした男役燕尾、そして和希さん、天彩さんの綺麗なリフトもついたデュエットダンスと最後までみどころたっぷりでした。


4日間の公演の最後となった日のご挨拶では悔しさも滲ませていたという和希そらさん。
この日は「この公演で感じた様々なことを私はきっと忘れません。そして経験したすべてのことが、今後私たちがもっと成長していくための出来事だったんだと、そう信じたいです。劇場でご覧いただいた最後の日に、これからもっともっと幸せなことが待っていると皆様にお伝えしましたが、この配信をご覧いただいていることが私たちにとってすでに大きな幸せです」と穏やかな笑顔でした。




それでもきっと最後までやりたかったでしょうし、私も劇場で観たかった のごくらく地獄度 (total 2249 vs 2250 )


posted by スキップ at 19:04| Comment(2) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。
まさに!こんな和希そらが見たかった!
ポスター、そしてスカステニュースの映像から、ものすごく興味があって、思い切って配信を見ました。

感想は・・・若干片手間に見てしまった私とは違い、スキップさんがものすごく深い感想を書いてくださっていて、「なるほど~」と思うばかりで(笑)とにかく、そらくんの魅力満載、というか、今まで蓄積してきた実力が爆発したという印象です。他の出演者も同じ。
本当に、深い芝居の後、フィナーレがショー仕立てになっていて、なかなか見所満載で。これがデビュー作という栗田先生の今後も期待大ですね。
4日間しかできなかったことは残念ですが、配信で見ることができましたし、きっといつか再演されるであろう名作の誕生だと思います。
Posted by はぎお at 2021年05月22日 22:41
♪はぎおさま

この作品、とても楽しみにしていて気合入れてチケット取ったのに
中止になってしまって本当に残念でしたが、配信していただけて
ありがたかったです。

和希そらさんは下級生の頃から注目していて大好きなジェンヌさんの
一人なのですが、この作品は「キタキタキタッ!」という感じで
ほんと、こんな和希そらが観たかったのでした。
1回観ただけではまだまだ理解の及ばないところも多々あって、
本当にぜひ再演していただきたいと思います。
その時は同じキャストで、と願いますが、そらくんはともかく
娘役さんは全部同じキャストというのは難しいかなぁ。
Posted by スキップ at 2021年05月23日 23:33
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