
かけがえのない 豊かな時を ここで過ごし
数えきれない 忘れぬ時を 心に刻んだ
劇場に集い 共に生きる その喜び
Lives in the Theater
劇場 ここに 人生が
物語のクライマックス “劇場讃歌”とも言えるこの曲 Lives in the teater を全員で歌うのを聴いて、胸がいっぱいになってみるみる涙があふれました。
ナチスが台頭する第二次世界大戦下の物語ではあるけれど、先の見えない閉塞感は今の状況ととてもシンクロ。
芸術がどんなに人の心を豊かにし、人にとってどれほど大切なものであるか、今の状況下だからこそより一層胸に響きます。
劇場や芸術に携わる人間ではない私ではありますが、このメッセージは心に迫りました。
植田景子先生すごい。
宝塚歌劇の作者は座付作家なので、役者(スター)さんへのあて書きが基本ですが、この作品は、今この時代へのあて書きだと思いました。
宝塚歌劇 宙組公演
Musical 「Hotel Svizra House ホテル スヴィッツラ ハウス」
作・演出: 植田景子
作曲・編曲: 瓜生明希葉 植田浩徳 編曲: 高橋恵
振付: 御織ゆみ乃 大石裕香
装置: 國包有子 衣装: 有村淳
出演: 真風涼帆 潤 花 芹香斗亜 遥羽らら 寿つかさ
松風 輝 美月 悠 春瀬央季 桜木みなと 瀬戸花まり
紫藤りゅう 小春乃さよ 瑠風 輝 泉堂 成/万里柚美 ほか
2021年5月5日(水) 4:30pm 配信視聴
(配信時間: 3時間10分/休憩 25分)
物語の舞台は1942年のスイス。
ナチスドイツの脅威が広がるヨーロッパにおいてで中立国であるスイスのリゾート地 サン・モリッツに佇むHotel Svizra House(ホテル スヴィッツラ ハウス)には、戦火を逃れた富裕層が集っていました。
ロベルト・フォン・アムスベルク(真風涼帆)は、ロンドン駐在のオランダ人外交官ですが、彼の真の任務は、英国情報部のスパイキャッチャーとして敵国のスパイを摘発すること。ある重要なミッションを受けてサン・モリッツにやってきたロベルトはこのホテルで、バレエダンサーのニーナ・デュボワ(潤花)と出会います。ドイツ軍のパリ占領により失業したニーナはこのホテルで開催されるロシアの亡命貴族ミハイロフ伯爵(寿つかさ)が主催するニジンスキー救済のチャリティ・バレエ公演に出演するためにやって来たのでした。そこへこの公演のスポンサーであるオーストリアの実業家ヘルマン・クラウスナー(芹香斗亜)が美しい未亡人のアルマ(遥羽らら)を伴って現れます・・・。
第二次世界大戦下、連合国とナチスドイツのスパイ合戦を背景にした緊張感の中、ロベルトとニーナの恋、自らのミッションと人間的感情の間で揺れるロベルトの葛藤、“バレエ・リュス”へのオマージュ、そして何より、芸術を、バレエや音楽を愛し守ろうとする人々の熱い思いが舞台からあふれ出るような作品。
美しい音楽と、バレエシーンもふんだんに盛り込まれ(ビリヤード対決のダンスも!)、あの時代のクラシカルな衣装も素敵で、まるで映画のような仕上がりになっていました。
「ウィリアム・テル」という暗号名のスパイを探す、というサスペンスにもなっていて、1幕終わりはヘルマンのナチスとの関わりを示唆する幕切れでしたが、このあたりは、「いやいやいや、今の時点でそれ(ウィリアム・テルがわかること)はないでしょう」と全くひねくれた人間ですので、「ヘルマンが匿おうとしているピアニストはユダヤ人なのでは?」「あの上司(リチャード・美月悠)が怪しいわ。あっちがウィリアム・テルなんじゃないの?」と思っていたのがほぼ当たっていましたので(正確にはリチャードはウィリアム・テル本人ではなく、女スパイのウィリアム・テルと恋に落ち情報を流していた)、サスペンスを楽しむにはいつもいささか残念な不肖スキップではあります。
それにつけても真風涼帆ロベルトのカッコよさよ。
スーツにソフト帽にロングコート、そして左手には煙草という登場シーンの鉄板ぶりハンパなく。
ソフト帽を胸にあて斜めに進んでいくようなプロローグのダンス、何度も観たいくらいカッコよかったです(振付:大石裕香)。
<5月10日追記>
ここのダンス、キメポーズで真風さんが帽子を持っていない方の左手を最後に右肩にトントンとするのがめちゃステキ

父はオランダ貴族で母はバレエ・リュスのダンサーという華やかでお育ちのよい生い立ちも、職業柄まわりの人をよく見ていて、あまり笑顔を見せないクールさも、何もかもがピタリとハマっていました。
女や恋にはそれほど興味なさそうなのに、初対面で意気投合したニーナとそのまま話し込むのではなく、「続きはディナーで。旅先で一人で食べるディナーほどわびしいものはないから」と自然すぎるほど自然にディナーに誘い、彼女が酔っぱらって荒れた時にはやさしく自分の部屋へエスコート・・・このシーン、すごかったですね、皆さまっ(誰?)
ネクタイを緩め、ニーナが羽織っていたカーディガンをさり気なく取り、ブラウスのリボンをシュッとはずしてキスしてベッドに押し倒し・・・って全配信視聴者が固唾をのんで見守りましたよねっ。
ニーナがアメリカに旅立ってから5年後。
花言葉は「大切な思い出」で、スイスの人がプロポーズする時に持つというエーデルワイスの花束を手にHotel Svizra Houseでニーナを迎えるロベルト。
「今日ここに来るために1ヵ月間休みなしで働いたよ」って可愛すぎか!
「そういう世界が人間には必要だ」と芸術やバレエに深い理解を示し、「悪いのは人じゃない、戦争だ」と戦争を憎み、女のために破滅したリチャードにも同情の目を向け「お前も一度身を焦がすような恋に溺れてみろ」とエーリク(瑠風 輝)に言うロベルト、完璧か。
植田景子先生がつくり出した人物造形も演出もすばらしいですが、それを200%のカッコよさで体現する真風涼帆の男役力おそろしい。
この公演が真風さんの相手役としてのお披露目となった潤花さん。
星風まどかさんの専科異動(からの次期花組トップ娘役就任)の記憶も新しく、「どうかな」と思って観る人も多かったと思います、星風さんより学年は下ながら大人っぽい雰囲気で背も高い潤花さんは、星風さんとはまた違った雰囲気で真風さんとお似合いでした。ロベルトの前でトゥシューズはいてバレエ踊るシーン素敵だったな。
歌はまだまだ伸びしろがあるということで(笑)。
フィナーレの真風さん、潤さんのデュエットダンスでは綺麗なリフトも披露。
真風くん、リフトするなんて何年ぶり?と驚きました。
ヘルマンの芹香斗亜さんとアルマの遥羽ららさんの華やかな大人のカップル感。
お金持ちでハンサムで頭もよくてという役は芹香さんはもう余裕綽綽という感じですが、「私の命など惜しくはない。だが彼らは・・・彼らの奏でる音楽は芸術は・・・」という強い信念を持つヘルマンは本当にステキでした。ユダヤ人である恋人のピアニスト ラディック(紫藤りゅう)を助けたい一心のアルマに寄り添い、彼女のために自分の気持ちを抑えてラディックを救うことに命をかけるヘルマンもまた、めちゃカッコいい人です。
公演前日にこのバレエカンパニーがナチスからユダヤ人芸術家たちを救うグループだったことが明らかになった時、アルマが何も知らないニーナを抱きしめて、「大丈夫よ、きっとうまくいくわ。あなたは明日の公演のことだけ考えて。最高の踊りを見せてちょうだい」と言うシーンにも涙。
振付家兼ダンサーでやたら色っぽいユーリー・バシリエフの桜木みなとさん、冤罪で処刑されたロベルトの元上司ネイサンとユダヤ人のピアニスト ラディックを演じ分けた紫藤りゅうさん、ロベルトの有能な片腕、だけど24歳で本当の恋を知らないエーリクの瑠風輝さん、ユーリーが必死に呼び寄せたバレエダンサーで出番は少ないながら鮮烈な印象を残したジョルジュの泉堂成さん・・・ユーリーとめちゃイチャイチャしていましたが恋人設定かな?・・・などナド、層の厚い男役陣。
バーで素敵な歌声を聴かせてくれた瀬戸花まりさん、ネイサンの娘で看護師のエヴァを演じた小春乃さよさん、ニーナの親友でナチスの兵士(聖叶亜)と恋に落ちるシルヴィの春乃さくらさんと充実の娘役陣もすばらしい。
芸術や仲間を守るために自分がすべての罪をかぶるというミハイロフ伯爵と芸術を守るためなら命も惜しくないというヘルマンに、スパイキャッチャーとしてではなく一人の人間として「あなたがたを守りたい」と言うロベルト。
「劇場で夢を語り合える日を信じて」とヘルマンに握手の手を差し出し、ハグする姿にまた涙。
人間にとって本当に大切なものは何か、ということがヒシヒシと感じられた作品。
そして迎えるハッピーエンドは本当に幸せな気持ちになりました。
「日ごろからお客様の笑顔、拍手にいかに支えていただいたのかと、今改めて痛感しております。しかしながらライブ配信ライブ中継で日ごろ劇場にお越しくださるよりさらに多くのお客様にご覧いただける喜びをモチベーションに、一人でも多くのお客様に明日の活力となる舞台をと、今日のこの日を目標にメンバー一丸となって前に進むことができました。今日この舞台で感じたことをしっかりと胸に刻み、また、ご覧になった皆さまが元気に明日を過ごせる、そんな舞台をお届けできるよう、これからもしっかりと前に進んでいきたいと思います。一緒にがんばりましょう」という真風涼帆さんの真摯なご挨拶に、またまた涙がこぼれました。
すばらしい作品。劇場で観ることができなかったのが返す返すも無念 のごくらく地獄度



