2021年05月04日

東北へのオマージュを込めて 「日本人のへそ」


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「井上ひさしの劇作の原点がここに」とフライヤーに記されていました。
この前に観た「藪原検校」も初期の作品ですが、この作品が井上さんの劇作家としてのデビュー作(1969年)。

「東北へのオマージュを込めて 10年ぶりの上演」と続いていて、東日本大震災から10年という歳月に・・・私がこの作品を観たのは2011年4月でしたが・・・言葉では言い表せないような思いがこみ上げました。


こまつ座第135回公演 「日本人のへそ」
作: 井上ひさし
演出: 栗山民也
音楽: 宇野誠一郎   振付: 新海絵理子
美術: 妹尾河童   衣装: 前田文子
出演: 井上芳雄  小池栄子  朝海ひかる  久保酎吉  
土屋佑壱  前田一世  藤谷理子  木戸大聖  安福毅  
岩男海史  山﨑薫  大内唯  山西惇
ピアノ: 朴勝哲

2021年4月4日(日) 1:00pm 新歌舞伎座 1階4列センター
(上演時間: 3時間/休憩 15分)



二幕構成で、第一幕は吃音症の患者たちが、教授(山西惇)の指導のもと、治療法として音楽劇を上演するという設定。岩手の田舎で育った少女が集団就職で上京し、クリーニング店をはじめ職を転々とした後、浅草でストリッパー・ヘレン天津(小池栄子)となり、紆余曲折を経て代議士の愛人になるまでを描きます。
第二幕はこの劇を上演していた代議士の邸宅で殺人事件が起こり、その謎解きのミステリー仕立てからオドロキのどんでん返しが・・・。


10年前に観た舞台(こちら)でヘレン天津を演じた笹本玲奈ちゃんの全裸シーンは鮮烈に覚えているのに、最後のどんでん返しに次ぐどんでん返しを完璧に忘れていて、「どうなってるの?私の海馬?!」というのがまずは第一の感想(それか(^^ゞ)

とはいうものの、
むかしある所にカタナ国がありました そこの王様アイウエ王は王子を残して亡くなりました
そこで腹黒カキクケ公は王位に就こうと企みました ところが名僧サシスセ僧が・・・
という冒頭の役者さんたちの合唱(吃音者のための発声練習になっている)や、ヘレン天津が列車に乗って上京する場面で、教授の山西惇さんが遠野から上野まで、東北本線の駅名を順々に唱えていく長台詞は「あー、これこれ」と思いましたので、やはり“耳”に残る記憶は特別なものがあるのねと思いました。


1969年という高度成長期の日本を象徴するような猥雑なエネルギーに満ちた作品。
東北のご出身で浅草のストリップ劇場で喜劇の台本を書いていらしたこともあるという井上ひさしさんの実体験に根差していることも感じられる物語です。

東北の田舎の慎ましい暮らしと華やかで騒々しい東京との対比、その東京で男たちの欲望や権力に翻弄されながらものし上がっていく少女。
上京して最初に勤めたクリーニング屋で店主につきまとわれ、職を転々とした果てに浅草で売れっ子のストリッパーとなって労働争議のリーダーとなりながらも、一目惚れしたやくざの男に再会して仲間を裏切って出奔。やくざと所帯を持ったものの、やくざからその親分に献上され、親分から右翼の大物へ、さらには右翼から代議士に献上されて東京妻に収まる・・・というヘレン天津の生き様はちょっとした朝ドラなみ(そんなキケンな香りのする朝ドラはない)。

当時の浅草の街や人々が活写される中に、そこで暮らす人々・・・ストリッパーやコメディアン、市井の人たちへの温かい眼差しやリスペクトが感じられ、それと同時に、ストリップ劇場の労働争議、右翼とつながる政治家など、井上さんの権力へ反骨心や怒りといったものも随所に表れています。

研ぎ澄まされ選び抜かれた言葉へのこだわりも圧巻で、50年以上前に書かれた作品ながら、地方と中央、弱者と強者といった現代の日本に通じるものを描いた普遍性のある作品だと改めて感じ入りました・・・というか、50年を経て日本社会の本質的なものが全く変わっていないことに愕然とします。


ヘレン天津役の小池栄子さんがすばらしい。
セーラー服姿の純朴な中学生に始まって、きりりとした和服姿で貫録さえ漂う政治家の東京妻まで、都度都度の変容を鮮やかに描出。それは見た目の変化ばかりでなく、お国訛りが次第に消えていき、言葉づかいまで変わっていくところや、立ち姿や所作、立ち居振る舞いに至るまでどんどん変貌していく姿を見事に体現していました。
凛としていて明るくてきっぷがよくてセクシーという小池栄子さんのイメージと、激動の時代を逞しく生き抜くヘレン天津がどことなく重なります。
華やかな美人でプロポーション抜群、歌もお上手、コメディエンヌとしてのセンスも折り紙つきで、本当にいい女優さんだなぁ。

「会社員」はじめ何役も演じ分けた井上芳雄さん。
鬼畜のような父親ややくざといったプリンスのイメージ覆すような人間くさい役は“挑戦”になるのかな。さすがの安定感でした。
やくざはねぇ、台詞や所作はともかく、ちょっと爽やかすぎじゃない?と思ったのですが、劇中劇で「会社員」が演じている設定なのでこれはこれで正解なのかもしれません。
実は彼が本当の教授で、代議士はヘレン天津と彼の不倫を疑って、という展開ですが、知的でハンサムでいかにも不倫相手っぽいところがやはりミスリードされてしまいますね。
劇中「ウエスト・サイド・ストーリー」の名曲を歌ってくれるという豪華なご馳走つきです。

狂言回し的な存在である教授役、実はこの劇を仕組んだ代議士こと山西惇さんは、的確な台詞術といささかな胡散臭さでこのお芝居を牽引。
多人数で踊ったり歌ったりする時にやたらカタチの綺麗な人がいると思ってよく見たら朝海ひかるさんでした。ダンスのコムさん健在だな。
やくざに扮した時は女性陣の中でダントツカッコよくてとなりました。

言葉ではなく演奏で出だしの音がどもるという設定のピアニストは朴勝哲さん。
ラストのドンデン返しはうれしそうでもありちょっと照れくさそうにも見えましたが、素敵な演奏を聴かせてくださいました。



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劇場ロビーのポスターはたくさんのハッシュタグつき#




日曜日で大阪千穐楽にもかかわらずかなり空席あったのが今の時期とはいえ切ない の地獄度 (total 2244 vs 2246 )


posted by スキップ at 23:02| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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