2021年04月20日

天の采配再び 「子午線の祀り」


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2017年に初演された作品。
あの時は世田谷パブリックシアターのみの公演で、チケットを手に入れて観ることができたものの、どうしてもその日に帰阪しなければならいのに上演時間が長くて最終の新幹線に間に合わず、私の3回しかない夜行バス乗車体験の中の1回という思い出の作品(^^ゞ

演出を凝縮し、出演者も31人から17人に減員し、上演時間を短くしての再演です。


「子午線の祀り」
作: 木下順二 
演出: 野村萬斎 
音楽: 武満徹  
美術: 松井るみ  照明: 服部基  北澤真   衣裳: 半田悦子
出演: 野村萬斎  成河  村田雄浩  若村麻由美  
河原崎國太郎  吉見一豊  星智也 ほか

2021年3月14日(日) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 
阪急中ホール 1階C列下手
(上演時間 3時間10分/休憩 20分)



概要・あらすじは2017年観劇時の感想(こちら)で


「平家物語」に題材をとった木下順二さんの叙事詩劇。
月の引力による潮目の変化が源平の勝敗を決したことから構想された作品で、平知盛を主人公に源義経を対照させて、一ノ谷の戦いで源氏に敗れた平家が屋島を経て壇ノ浦で滅亡するまでの葛藤を、天の視点から壮大なスケールで描いた作品です。
その月の引力こそが天の采配であり、知盛の運命も義経の存在も、さらにはこれから先義経が辿ることになる悲劇も、この天の采配に導かれたものであることが感じられます。


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ロビーのモニターに映った開演前の舞台。
劇場内はもちろん撮影禁止ですがこれはOKということでしたので。
初演とは舞台美術もずいぶん変わった印象でした。


冒頭の役者さんたちが客席通路を行く演出はこの状況下なのでもちろんなくて、舞台上に三々五々登場します。
「晴れた夜空を見上げると、無数の星々を散りばめた真っ暗な天球が、あなたを中心にドームのように広がっている・・・」というナレーションもそのままに始まる物語。
短くなった部分がどこ?と思うくらい、完成度が高く研ぎ澄まされた濃密な舞台でした。


この作品の特徴である、平家物語の文体をそのまま読む「郡読」。
今回出演者を減らしたために出演者全員で朗唱されたそうですが、力強さもスピード感もそのまま。皆さん滑舌がすばらしいので詞章がビシビシ耳に入って来ますし、音楽的にさえ聞こえる心地よさで、何ならあれで全文読んでいただきたいくらいです。

終盤の壇ノ浦の合戦の場面は、初演を観た時もそうだったのですが、合戦の群読が緊迫感と迫力に満ちていて、勝敗の行方を知っていても前のめりになって引き込まれるとともに、「平家物語」の詞章の美しさやリズムに改めて聴き惚れました。


知盛と義経の対比がより鮮明になったと同時に、重なる部分も強調された印象です。
陰と陽、静と動、知盛と義経はどちらか一面のようでいて、そのどちらも持ち合わせていたのだなぁと。

萬斎さんの知盛が変わらず素敵すぎる。
凛とした品ある立ち姿と美しい所作。
抗えない大きな運命の中で、知性とパッションと、そして、定められた自分の運命を受け容れているかのような諦念を抱えた知盛。
度重なる合戦と苦悩の果てに、「見るべき程の事は全て見つ」に至った時の透明感。それはまさに天の視点のよう。

いかにも天才肌で自信家で血気にはやる成河さんの義経。
身体能力の高さが感じられる重力って何?な跳躍、高めのトーンでまくし立てる台詞。
才に走り過ぎて時に狂気を内包するようにも見え、兄頼朝への思いとは裏腹に追い詰められていく悲劇を予感させる義経が時に知盛と重なって見えました。

初演と一番印象が違ったのは梶原平三景時。
というか、前回景時を演じたのが今井朋彦さんで、いかにも負の感情を持った知的な策士といった風情がそれまでの私の梶原景時のイメージを覆すもので強烈に印象に残っていたのですが、今回の吉見一豊さんは、豪放で有無を言わさず力で押してくる景時で、「そうそう!景時ってこんな感じよね」と思った次第です。


「木下順二さんの戯曲が持つ言葉の豊かさと、皆さんの想像力によって広がる世界観で、演劇はすごいなと感じさせる作品です」とインタビューでおっしゃっていた野村萬斎さん。
本当に、目も耳も心も刺激される、演劇ならではの作品。

4年の時を経て、またこの舞台に出会えてうれしかったです。



萬斎さんの狂言もずいぶん観ていないなとふと気づいて切ない の地獄度 (total 2235 vs 2238 )

posted by スキップ at 23:40| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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