
シアターコクーンの芸術監督に就任した松尾スズキさんが、今をときめく話題のクリエイターを自ら指名し、過去の松尾作品を“新演出”で甦らせるシリーズ第2弾(第1弾は昨年5月、ノゾエ征爾さん演出、瀬戸康史くん主演『母を逃がす』の予定でしたが全公演中止💦)
「マシーン日記」は、今回松尾さんが演出に指名した大根仁さんが「これがいい」と選んだ作品だとか。
1996年初演で再演を繰り返し、2013年には松尾作品初の海外公演となったパリ公演も開催された松尾スズキさんの代表作の一つです。
が、これまで観ておらず、今回初見でした。
COCOON PRODUCTION 2021
「マシーン日記」
作: 松尾スズキ
演出: 大根仁
音楽: 岩寺基晴 江島啓一 岡崎英美 草刈愛美(サカナクション)
美術: 石原敬 照明: 三澤裕史 映像:上田大樹
出演: 横山裕 大倉孝二 森川葵 秋山菜津子
2021年3月7日(日) 1:00pm ロームシアター京都 メインホール
1階10列(5列目)下手
(上演時間: 2時間50分/休憩 20分)
物語の舞台はアキトシ(大倉孝二)が経営する小さな町工場・ツジヨシ兄弟電業。
アキトシの弟 ミチオ(横山裕)は工場で働く少女サチコ(森川葵)をレイプしたことでアキトシにプレハブ小屋に監禁され、小屋と右足を鎖でつながれています。アキトシはサチオを妻にしてともに工場で働いていました。そんな中、工場に新しいパート従業員のケイコ(秋山菜津子)がやって来ます。ケイコはかつていじめられっ子だったサチコの中学時代の担任
体育教師でした。ケイコは数学的思考でものごとを考える極度の機械フェチで、壊れた携帯電話を直してもらったことをきっかけにミチオと結ばれ、「あんたのマシーンになる」と服従を誓います・・・。
私が今回チケットを取った一番の動機は「センターステージ」(そこ?)
コクーンでセンターステージ仕様の舞台でも地方だとそのまま普通の舞台ということが多々あるのですが、今回はロームシアターもセンターステージと明記してありましたので、「ロームでセンターステージ!?どんなん?」ととても興味があったのです。

かなり客席数の多いセンターステージでしたが(^^ゞこんな感じでした。
ステージ上はミチオが監禁されているプレハブの部屋ですが、少し高くなっていて、ライトに浮かび上がるとまるで観客に取り囲まれたボクシングのリングのよう。上手下手にそれぞれ通路が設けられていて、回転したり、ちょっとした奈落があったり。
ホール全体の壁にも映像が映し出されるなど、プロジェクションマッピングを駆使した映像もすごかったです。休憩時間にスタッフチェックして「あー、上田大樹さんね。そうだよね~」となりました。
狂気とダークな笑いに満ちた物語はとても濃く、重く、痛々しい。
アキトシのサチコへのDVやミチオとケイコの様々な体位の性行為が繰り返されますが、暴力はともかく、セックスシーンの方は音楽にのってダンスチックなアレンジなのと、ケイコがまるで無機質なアンドロイドのような雰囲気なのとで、まるで器械体操のようで、単なる日常の繰り返し感が強調されているように感じました。
そんなケイコの数学的思考の発言が印象的。
「生まれた時、ひどい難産で母を苦しめて、そして殺したんだって。産まれながら殺したんだって。そんとき算数が浮かんだの。1-1=0。わかったのよ。算数の意味が」
曖昧な態度のサチコに「10を3で割るような性格」と言い放ち、「あたしたちの子供は10を3で割るような会話はしないわよ」とミチオに告げるケイコ。
いや~、このきっぱりぶり。
どちらかといえば10を3で割って「う~ん、割り切れん」と悩む煮え切らない性格の不肖スキップ、ケイコさんがうらやましかったです。
ケイコの秋山菜津子さん、凄まじかったです。
刈り上げた髪に濃いメイク、全身ロボットのようなコスチューム、まずそのビジュアルの完璧なマシーン感。
この舞台を観る少し前にTV番組で拝見した時に「あれ?秋山さんお太りになった?」と思ったのですが、この舞台の役づくりのためだったのね。
登場か一気に会場の目を惹きつける強烈な存在感。立ち姿からも表情からも話し方からも、まるで感情を排したような異質さを放っています。
過去には片桐はいりさん、峯村リエさんといった長身の女優さんが演じてこられたケイコ。存在感を示すのはガタイの大きさだけではないということを私たちは目の当たりにしました。
森川葵さんのサチコ。
いつも自信なげにオドオドしていて、「あー、この子いじめられっ子だったの何となくワカル」といった雰囲気から一変、狂気を孕んで感情を爆発させるところとの落差がすごかったな。
以前観た「ロミオとジュリエット」の時より格段によかったです。
憧れていた「オズの魔法使い」のドロシーになり切って、そこに♪Over the Rainbow が流れるほっとするような明るさと切なさ。
アキトシは大倉孝二さん。
この物語の中では若干お笑い担当な部分もありますが、飄々としながら残酷さも繰り出す得体の知れない人間感ハンパない。
ミチオがレイプしたサチコをなぜお嫁さんにしたのか不明ですが(本人もわかってない感じ?)、アキトシは一人で工場切り盛りして一応みんなを養っていて、常識人な感じなだけに、サチコに暴力を振るう時の表情の豹変ぶりが一層怖かったです。このあたり、大倉孝二さん真骨頂ですね。
そして横山裕さん。
醒めた目線と繊細さの共存。笑顔の中に落ちる孤独の影。
レイプしたり、ケイコとのセックスに明け暮れたりと、やっていることはアレなのに、失わない透明感。
舞台で拝見するのは初めてですが、とても魅力的なミチオを見せていただきました。アイドルとしての活動がお忙しいこととは思いますが、もっと舞台で観てみたいと思える役者さんです。いや、Jの人ってほんと皆さん地力ありますよね。
カーテンコールで一人舞台下手袖に残って客席に手を振る姿がこの上なくキマっていて、トップアイドルの洗練された何気ない仕草の威力を思い知った次第です。
いや舞台には出ていただきたいけれどJの人からむとチケ取りが(以下自粛) の地獄度


