2021年03月27日

2年越し! 「シリーズ 舞台芸術としての伝統芸能 Vol.3 人形浄瑠璃 文楽」


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ロームシアター京都の「伝統芸能の継承と創造を目指すシリーズ」第三弾。
昨年2月上演予定で楽しみにしていたのですが、直前になって中止。
ディスカッションで勘十郎さんと木ノ下さんが「舞台稽古終わって帰ろうというところで中止が決まった。2人で深夜の楽屋口で泣きましたね」とおっしゃっていました。

思えば、その後に続く数々の公演の怒涛の上演中止の、これが最初でした。
「当たり前のことが当たり前じゃない」という言葉に振り回されたような1年が過ぎ、こうして同じ2月に、同じメンバー同じ演目で上演されるなんて、まるで奇跡のようです。


ロームシアター京都開館5周年記念事業
シリーズ 舞台芸術としての伝統芸能 Vol.3 人形浄瑠璃 文楽
スーパーバイザー: 木ノ下裕一
2021年2月28日(日) 1:00pm ロームシアター京都 メインホール 
1階3列センター



当初サウスホールで開催予定でしたが、感染対策のため会場がメインホールに変更となりました。
サウスホールのチケットの座席番号そのままでメインホールに座り、隣に人がいるのが気になる人のために、後方に1席おきに座れる自由席エリアを設けて、どちらに座ってもよいというご配慮。ロームシアターの先行でチケットを取っていましたので、この件について劇場から直接お電話もいただいてご丁寧に説明してくださいました。
このごろの劇場が大抵そうであるように、最前列は空けられていました。


「端模様夢路門松」(つめもようゆめじのかどまつ)
作・演出: 桐竹勘十郎 
太夫: 竹本碩太夫   
三味線: 鶴澤清介  鶴澤清公  鶴澤清允
人形遣い: 桐竹勘十郎(門松)  吉田勘市  桐竹紋吉  吉田簑一郎  
桐竹紋臣  吉田玉翔  吉田玉誉  吉田簑太郎  桐竹勘次郎  吉田玉彦 ほか
(上演時間: 65分)



各演目の前には木ノ下裕一さんが登場して見どころを解説。
この演目の時は桐竹勘十郎さんもご一緒に登場されました。黒衣姿の勘十郎さん、新鮮で何だかキュートでした。

桐竹勘十郎さんが35年以上前、吉田簑太郎時代に作られた新作。
三人遣いの人形に憧れる “つめ人形”(端役としてひとりで遣う人形)の門松が、三人遣いのスター人形になれないか、あれこれ思案を巡らせるお話。バックステージもので、人形浄瑠璃の舞台裏で繰り広げられる人形たちの悲喜こもごもの中にいろんな古典作品のパロディが散りばめられています。
つめ人形達がたくさん登場。狐や犬や猿や馬といった道具部屋在住の動物たち、さらにはや畑の作物まで出てきて、とても可愛く楽しかったです。
勘十郎さんのお人形への愛があふれた演目。


門松はもちろん勘十郎さんがお一人で遣われます。
門松は他のつめ人形より顔が少し大きいのですが、勘十郎さんの弟弟子の簑二郎さんが研修生だった頃に阿波の大江巳之助さんのところに研修に行った際につくられたオリジナルなのだと後のディスカッションで勘十郎さんがおっしゃっていました。この作品の初演の時から門松のかしらとして使っていて、以来、勘十郎さんがずっと預かっていらっしゃるそうです・・・ていうか、取り上げたってこと?(笑)

門松はついに三人遣いの体になって「夏祭浪花鑑」の団七を演じます。
長町裏の段で、団七@門松は捕手を蹴散らそうとしますが、足が動かない、蹴ることができません。なぜならつめ人形には足がないから・・・ついに門松は泣き伏せてしまうのですが、これは夢だった、というオチはともかく、それまでの団七ぶりは見応えたっぷりでした。

太夫は竹本碩太夫さん。なんと1995年生まれの期待のホープだそうです。
たくさんの登場人物を鮮やかに一人で語り分けてお見事。さすが抜擢されるほどの力量。これからも楽しみです。


「木下蔭狭間合戦 竹中砦の段」(このしたかげはざまがっせん たけなかとりでのだん)
監修: 桐竹勘十郎
太夫: 竹本錣太夫
三味線: 鶴澤藤蔵
人形遣い: 桐竹勘十郎(竹中官兵衛重晴)  吉田玉男(小田春永)  
吉田一輔  吉田玉助  吉田勘彌  吉田玉佳  吉田玉勢  
吉田簑紫郎  吉田文哉  吉田玉志  桐竹勘昇 ほか
(上演時間: 85分)



2003年5月に素浄瑠璃として復活上演されていますが、人形浄瑠璃としては1934年(昭和9)以来87年ぶりの上演だそうです。

桶狭間の戦を背景とした時代物。
此下当吉と軍略を競いあう斎藤義龍の名軍師竹中官兵衛と、官兵衛の娘・千里と恋仲に落ちて子供をもうけた、敵・小田春永の家臣佐枝犬清をめぐる謀略と人情が入り乱れるドラマティックな段。
「義太夫節を組み立てる太夫がひとり休みなく語り続け、三味線、人形遣いも高度な技巧が求められる大曲で、それぞれの登場人物の多くに口説きの場面がある骨太な作品」なのだとか。

敵対する智将の腹の探り合い、敵味方で恋した若いカップルの悲恋が同時進行するストーリー。
美濃斎藤家の軍師 竹中官兵衛の砦が舞台となっていて、矢傷を負い出陣出来なかった官兵衛のもとへ、入れ替わり戦の戦況を注進にくる家臣が3人。そのたびに戦況がドラマチックに二転三転し、息もつかせぬ展開。
一人目 大垣三郎〈吉田玉勢〉は斎藤軍の優勢という注進。
二人目 樽井藤太〈吉田簑紫郎〉は「左枝犬清」を名乗る男に逆転されて義龍の安否が不明であると報告。
三人目 四の宮源吾〈吉田文哉〉は義龍が討ち取られ斎藤軍が壊滅したことを伝えて倒れ臥します。
それを聴く官兵衛もまた、心境を変化させていきます。

義太夫が主体の演目だなという印象。
義太夫から得る情報量がとても多い中、様々な人物を語り分け、聴かせてくれた錣太夫さん、複雑に絡み合う人物の感情を緩急自在の撥さばきで三味線に乗せる藤蔵さんに大拍手です。

義龍討死の知らせの後に、上手の門から登場する小田春永〈吉田玉男〉がめちゃカッコいい。
見目麗しく、重厚な存在感。
この舞台は逆勝手(人形の出入りが通常とは逆で上手から)になっていて、それがどうしてなのか理由がわからなかったとディスカッションで勘十郎さんと木ノ下さんがおっしゃっていました。
それがついに今朝、わかって「小田春永が出てくる→身分の高い大将は上手でないとダメ」という結論に行き着いたというお話おもしろかったです。
ほんと、登場してからずーっと上手に座して動かなかったもん。最後馬に乗るまで。
この馬に乗ることも「目線を高くする」という意図があるのだそうです。

一切動かないといえば、犬清と千里は結構早い段階で自害してしまうのですが、なかなか死なず、ずっと舞台上にいて、さぞ苦しかろうし何とかしてあげて、と思ったりも。

春永が現れていきり立つ官兵衛の前に、颯爽と登場るす謎の武者・・・その正体は小田軍の軍師 此下当吉〈吉田玉志〉で、犬清と千里の子供 清松〈桐竹勘昇〉を背中の母衣に隠しておんぶしていて、戦場で「犬清」名乗りを上げていた・・・というところで、犬清がここにいるにもかかわらず、二人目の注進が「左枝犬清を名乗る男に逆転された」と言った謎がここで解けます。
いや~、ほんとよく聞いていないと置いてけぼりになってしまいます💦


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ディスカッション
出演: 桐竹勘十郎  藤澤藤蔵  木ノ下裕一
(上演時間: 45分)



古典芸能に造詣の深い木ノ下さんと勘十郎さん、藤蔵さんのトーク、とても聴きごたえあって楽しかったです。

■木下蔭狭間合戦」
この企画が決まった時、「木下蔭狭間合戦」をやりたいと考えたのは木ノ下さんで、3年前に静岡公演の楽屋に勘十郎さんを訪ねて、まずはご出演の承諾をいただいたけれど、その時は演目のことは言い出せなかったのだとか。

その後、何度か打ち合わせする中で、新作は勘十郎さんが若い頃に作った「端模様夢路門松」をやりたいとお願いして、勘十郎さんも再演したかった演目ということで、お引き受けいただき、古典は「木下蔭狭間合戦 竹中砦の段」を・・・と伝えたら勘十郎さんは絶句されたそうです。

鶴澤藤蔵さんは2003年にお父様(当時九代目綱太夫、後の源太夫)と文楽劇場・早稲田で素浄瑠璃で上演されたことがあって人形が入るとどうなるのかなと思っていたので、二つ返事で引き受けたのだとか。
また、太夫をどなたにお願いしようかということになって、四代目津太夫さんがNHKラジオでやったことがあることから、そのお弟子さんである津駒太夫さん(当時)にお願いすることにして「竹中砦やってくれませんか?」とお願いしたところ、やはり絶句されたそうです。本来なら昨年上演予定だったものが1年延期になりましたが、あまりに大変な曲なので「今年中止になったら来年は無理や」とおっしゃっていたそうです(笑)。

藤蔵さんがお父様が当時使われていた大切な床本を持参されて見せてくださったのですが、150年前の床本で、竹本越前大掾(五代目竹本染太夫)→ 六代目染太夫 → 五代目弥太夫 → 九代目染太夫 → 八代目竹本綱太夫と渡って、それをお父様(当時五代目織太夫)に譲られたものだそう。

実際に中も見せてくださいました。
「床本は、わかる人が見たらどう演奏するかわかるような記号が書かれていて、たとえば官兵衛が縁下から出てきた犬清を睨む「じろりと見遣り」のところには、「コハ」と書いてあり、これは三味線の「コハリ」からきています(「コハリ」の音階に寄るということ)。この床本にはいろんなことが書いてあるので、自分は三味線弾きなので床本は使いませんが、いろんなヒントがあり、虎の巻として使いました。
床本は基本的に人に見せないものですが、他の人にはわからないよう、二つ折りにして袋状に綴じてある間に、自分が考えたこと、苦労したことのメモが入っていました」という藤蔵さんのお話。太夫、三味線の違いはあっても受け継がれる芸の重みも感じます。


■端模様夢路門松
「この本は30歳くらいのときにつめだけの芝居があってもおもしろいんちゃうかとある日突然思い立ってガーッと一気に書きました」と勘十郎さん。
「早く主遣いになりたい、三人遣いになりたいという気持ちが現れていたのかもしれませんね」と木ノ下さん。

初演のときは、豊竹嶋太夫さんに太夫をお願いして、「つめだけで芝居するんか?」と絶句され(「絶句」が結構この日のワードでしたねw)つめ人形には感情を込めたらいかんとこんこんとお説教をされて、それはわかってるんですがこういうのをやりたくて、とお願いしてご理解をいただいて語っていただいたのだとか。

つめ人形は、入門してすぐ、誰でも触ることができる人形。三人遣いの人形は、衣装をつけて出来上がったら、その人の許可がなくては、他の人は一切触ることはできないけれど、つめは廊下に吊ってあり、誰でも触ることができる。よく使うお百姓さんや町人(の胴体)はいつでも出来ていて、頭を挿すだけで使えるようにしてあるそうです。

それを遣って鏡の前で見よう見真似で練習する、そんなことをやっているうちに、つめ人形が好きになるのだそう。みんな好きなかしらがあって、配役が出ると「あ!軍兵やな!」とか考えて、みんなバーッと取りに行って、取り合いになるそうです(笑)。


■これからやりたいこと
藤蔵さん: 今回の「竹中砦」は官兵衛の出からの上演だったが、本当は端場からやりたかった。壬生村(九冊目)も人形つきでやりたい。(一緒に素浄瑠璃で復活させた)父も形になることを願っていました。父と「壬生村」をやったCDがコロムビアから出ています。次回実現したらと思う。文楽劇場で竹中砦と壬生村がかかりますように。

勘十郎さん: 「竹中砦」に端場をつけ、「壬生村」と一緒に、もうちょっと形を整えて上演できたらと思います。「木下蔭狭間合戦」も、五右衛門が出てくるだけでも魅力的。父は埋もれている面白い演目がたくさんあるとよく言っていました。僕は明日68歳になって父が亡くなった歳を超えます。これからの68歳で、何ができるか。次の年も、また次の年も。いつかまた復活物ができればと思います。


などナド、たくさんの興味深いお話を聴かせていただきました。


二演目+ディスカッションでほぼ4時間という長丁場。歌舞伎も三部制となっている今、こんなに長い公演久しぶりでは?
2年越しですが、この公演が開催されて本当によかったです。

演目の解説はもちろん、桐竹勘十郎さんと木ノ下裕一さんの対談、鶴澤藤蔵さんのインタビュー、吉田蓑太郎さん・鶴澤清公さん・竹本碩太夫さんの鼎談と盛だくさんのパンフレットだけでなく、床本も無料配布され、会場変更に伴う対応も行き届いていてすばらしかったです。この状況下で初めてだったのですが、荷物を床等に置く場合のために不織布の袋も配布されました。
技芸員さんたちのレベルは高く、とても楽しく充実した時間を過ごすことができました。関西の古典芸能クラスタ大集合みたいな、幕間のロビーも楽しかったです。



このシリーズ 来年もぜひお願いしたい のごくらく度 (total 2225 vs 2229 )


posted by スキップ at 22:57| Comment(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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