2021年03月10日

そばにエエ男がおるのになぁ 「長い長い恋の物語」


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物語も終盤にさしかかり、ソジンと桜子が出会って長い年月が過ぎ、ソジンの息子くんとその姪っ子ちゃんの会話
「日本はアメリカに恋してんねん」
「そばにエエ男がおるのになぁ」

ああ。
「長い長い恋の物語」はソジンと桜子の物語でもあると同時に、朝鮮人 韓国人と日本人が長い時を刻む物語でもあるのだなぁと、ここで気づきました。またゑふさんにヤラレたよ。


玉造小劇店配給芝居vol.28 「長い長い恋の物語」
脚本・演出: わかぎゑふ
舞台美術: 浦野正之  音楽: 坂本朗
韓国語指導:金哲義  趙清香
出演: コング桑田  野田晋市  うえだひろし  笑福亭銀瓶  
植木歩生子  長橋遼也  松井千尋  趙清香  吉實祥汰  わかぎゑふ

2021年2月20日(土) 2:00pm ウイングフィールド A列センター
(上演時間: 1時間30分)



物語の始まりは昭和初期 まだ第二次世界大戦が始まる前の大阪。
パク・ソジン(うえだひろし)は日本の大学に進学するために、日本に住んでいる兄(笑福亭銀瓶)を頼って来日します。
兄はソジンが大学に入るまでの準備期間として、土木建設会社での働き口を紹介し、日本人の名前を与え、今後、たとえ兄弟同士でも日本語で話すこと、日本人の前で朝鮮の話はしないこと、ニンニクは食べないこと・・・などの注意をします。
土木建設会社で働くようになったソジンは、社長(コング桑田)や上司(野田晋市)からひどい差別と暴力を受け、怪我をしたところを社長令嬢の桜子(植木歩生子)に助けられます。やがて桜子は親の決めた相手のもとへ嫁いでいきます。怪我の手当をしてもらっと時のハンカチを返そうとするソジンに「持ってて」という言葉を残して・・・。

ここから戦争を経て、2002年のFIFAワールドカップまで、60年くらいの歳月を90分間で一気に見せる物語。
第二次世界大戦、朝鮮戦争、日韓ワールドカップ、韓流ブームなど、大きな歴史の流れの中で描かれるのは市井の人々の暮らしと人生。

朝鮮国内の政変で実家が没落し、家も土地も没収されたソジンはそのまま土建会社で働き、社長に才覚を認められて重用され、朝鮮人の妻を迎えて子供にも恵まれ、“在日”として暮らします。
そんなある日。
ソジンの娘 ヨウコが小学校の友だちを家に連れてきた日に事件が起こり、学校から呼び出されて駆けつけたところにいたのは、その友だちの母親・・・桜子でした。


「越境入学」
「あの踏切の向こうには行っちゃダメ」
私は大阪でもいわゆる“地区”のないのんびりした場所で育ちましたので、差別や偏見などには本当に無頓着で、「本の中のこと」のように思っていたことを現実問題として見聞きするようになったのは大人になってからのことです。
それでも、こんな言葉は耳に入ってきましたし、お年頃になったヨウコちゃんが「在日」が理由で破談になってしまった時も「あぁ、そんなことも聞いたなぁ」と、本当にリアリティを持って感じる物語。

土建会社で一緒に働いていた先輩(長橋遼也)が北朝鮮に帰ることになった港のシーンも印象的。
最初こそいじめる側といじめられる側だったのに、今は理解し合う二人。
北朝鮮を「地上の楽園」と信じて、「お前も後から来いよ」という先輩の笑顔が、その後の北朝鮮を知っている私たちには切ない。これ、同じように感じたシーンが「焼肉ドラゴン」にもあったなぁと思い出しました。

いかにも憎々し気だった社長にもドラマがあって、実は彼はいわゆる被差別部落の出身。
だから、娘や孫の出自を隠すため、ガンで余命いくばくもない身でありながら絶対に桜子に会おうとはしません。
「わしらが差別されてきたのは江戸以来400年以上や。年季が違う。娘や孫を守るためなら死ぬまで会わへんことなんかなんでもない」と言う社長の悲壮な覚悟に涙。
桜子を農家に嫁がせる時、「士農工商穢多非人」と言っていたのはそのせいだったのね、とここで思い至ります。


思い至るといえば冒頭に書いたシーン。

「日本はアメリカに恋してんねん」
「そばにエエ男がおるのになぁ」

それまで、ソジンと桜子の恋の要素は薄目かなぁと思って観ていたのですが、このやり取りを聞いて、「あぁそうか、二人の恋だけでなく・・・」と思い至った次第です。


わかぎゑふさんの脚本は笑いを散りばめながらもとても細やか。
小学校の場面で、「ヨウコは転校させます」というソジンの言葉に、それまで困り果てた様子だった校長先生(銀瓶さん演じる背が高~い女性)がいかにもホッしたうれしそうな様子で「そうですかっ!」と言った時も、ヨウコちゃんが婚約破棄されてめちゃめちゃ怒り狂って「あんな奴、こっちから願い下げやっ!」と言いながらもその怒り顔が泣いているように見えた時も、まるでその場に居合わせたように感じました。

壮年になってたどたどしかった日本語もすっかり自然になったソジンが「技術者」と言った時に「あれ?うえださん今噛んだ?」と思ったら「この言葉だけは難しい」という台詞が続いてちょっと震えたな。細やかな脚本演出にも、それを体現するうえだひろしさんの演技にも。


ソジンのうえだひろしさんはじめ役者さんたちは皆自然でその時代時代にその人物が息づいているよう。
土建会社でソジンをいじめ抜く憎々しい上司を演じた野田晋市さんが、後の場面では気の強い姉ヨウコに完全に負けている弱気な弟になって出てきたり、その振り幅の広さにも感心。

ヨウコちゃんの趙清香さん。
子ども時代から大人になって、さらにはヒョウ柄着てお昼からスポーツカフェでビール飲むいかにも鶴橋にいそうなおばちゃん(←偏見お許しを)まで、一貫して気の強いヨウコちゃんをとても生き生きと演じていらっしゃいました。


ラストは少し認知症気味で病院に入院している桜子とおなかの病気で入院したソジンの再会。
「ずっと願っていれば叶うのね」と桜子。
ずっと大切に持っていた桜子のハンカチをやっと返すことができたソジン。

観ているのが辛くなる場面もありましたが、ここに生きる人々の明るさ逞しさと、明日が信じられる穏やかなラストに救われる思いでした。



東京公演は中止となり、大阪も6日間だけの公演。
ただでさえ小さな劇場なのに座席数を制限して1回50席ほどの特別な空間となりました。
開幕直前に2公演追加される人気ぶり。
いつかまた、万全の体制で再演していただくことを願っています。



いつものカーテンコールのゑふさんのおしゃべりもなくてちょっと寂しかったけどガマンする のごくらく地獄度 (total 2221 vs 2227 )



posted by スキップ at 15:04| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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