2021年02月04日

あなたと歌えれば奇跡のシンフォニー 雪組 「fff フォルティッシッシモ - 歓喜に歌え!ー」


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雪組トップコンビ 望海風斗さん、真彩希帆さんのサヨナラ公演。
昨年の公演中止を経て、半年遅れで開幕となりました。
宝塚が誇る歌うまスター 望海風斗さんが最後に演じるのは、「楽聖」ベートーヴェン!


宝塚歌劇 雪組公演
かんぽ生命 ドリームシアター
ミュージカル・シンフォニア 「fff フォルティッシッシモ -歓喜に歌え!-」
作・演出: 上田久美子
作曲・編曲: 甲斐正人
振付: 前田清実  AYAKO  
装置: 大橋泰弘   衣装: 有村淳
映像: 上田大樹  
出演: 望海風斗  真彩希帆  彩風咲奈  奏乃はると  彩凪翔  
真那春人  久城あす  煌羽レオ  朝美絢  愛すみれ  朝月希和  
真地佑果  綾凰華  星南のぞみ  諏訪さき  野々花ひまり  
彩みちる  縣 千  彩海せら  有栖妃華  夢白あや/一樹千尋 ほか

2021年1月7日(木) 1:00pm 宝塚大劇場 1階8列下手/
1月10日(日) 11;00am 1階15列下手/1月14日(木) 3:30pm 1階25列上手/
1月21日(木) 3:30pm 2階9列センター/2月2日(火) 3:30pm 1階3列下手
(上演時間: 1時間35分)



fff(フォルティッシッシモ)はff(フォルティッシモ)のさらに上、“最大限に強く”という意の造語。
ベートーヴェンの親友で医師のゲルハルトがこの物語の中で名付けます。
物語の主役はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。
楽聖とも称される偉大な作曲家の、しかしそれは単なる伝記ものではなく、フランス革命からナポレオンというヨーロッパ激動の時代を背景に、音楽家の命ともいえる聴力を失うなど様々な困難や絶望の中、彼がいかにして至上の喜びを歌う「第九」を完成させたのかを描いています。

音楽の道を突き進むベートーヴェンに、軍事のナポレオン、文学のゲーテという同時代に生きた3人3分野の天才を絡ませ、さらにはベートーヴェンだけに見える、聞こえる謎の女(真彩希帆)を登場させて重層的に展開する物語。

甘く切ないラブロマンスとは一線を画した物語で、謎の女という存在や、実際には会っていないベートーヴェンとナポレオンとの邂逅など、イマジナリーな部分も多く、随所に上田久美子先生のこだわりや細かいプロットが張り巡らされていて、とても演劇的な作品だと思います。
「難しい」という声も漏れ聞こえましたが、私は好き。サヨナラ感が少ないかなと思っていましたが、謎の女の“名前”にベートーヴェンが気づいてからの歓喜の歌に至る一気呵成感。
何より、望海風斗、真彩希帆という稀代の歌い手の、大劇場に響き渡る歌声を堪能できることが、この上ない“歓喜”でした。


物語の冒頭は天国の入口。
バッハは天国に入ることを許されたのに、ヘンデル、モーツァルト、テレマンの3人は審判待ち。
それはもともと神のものたる音楽を彼らがお金儲けの手段として堕落させてしまったから。後継者の行動含めて真価を問おうと智天使ケルプ(一樹千尋)に言われ、「後継者って誰がいたっけ?」と3人が考えるところに爆音とともに盛大に花火が上がり、上手花道にナポレオン(彩風咲奈)、下手花道にゲーテ(彩凪翔)、そしてオーケストラピットから黄色い楽員たちを指揮しながらベートーヴェン(望海風斗)が登場する(しかもバックにはそれぞれのサインつき)というオープニングにまずはテンションあがります。

このオケピの使い方、ヤラレタ!という感じです。
月組の「ピガール狂騒曲」(演出:原田諒)の本舞台と銀橋に渡した橋もそうですが、コロナ禍で演奏も録音となり、オケピを使わなくなった今だからこそできる演出。楽員たちの上半身だけ、それも計算しつくされたようなフォーメーションで見えるのも凄いし、2階席から観たくなったし(実際観たら楽しかったし)、舞台側に階段つけて、舞台から役者さんがそこへ降りて姿を消すって、蜷川幸雄さんの演出を観ているようでした。
さらには、
くるくる回る盆、前後二つに分けて上下して別々のシーンになったり、ピタリと揃って一つの部屋になったりする大ゼリ
「ハイリゲンシュタットの遺言」を歌うベートーヴェンを照らすこの上もなく美しい幾筋ものスポットライト
それだったのかと後で気づく、最初に謎の女が扉をノックする音
要所要所に効果的に挿入されるベートーヴェンの名曲の数々
そしてあのクライマックスの「歓喜の歌」の高揚感
・・・上田久美子先生の演出が冴え渡ります。


冒頭に登場したヘンデル(真那春人)、モーツァルト(彩みちる)、テレマン(縣千)の3人がそれからの物語にも肖像画や銅像として登場して、物語に口出しする(誰にも聞こえてないけど)という演出もおもしろかったです。これ、誰かさんならストーリーテラーにするところですよね。
サリエリが登場した時、「まだ宮廷楽長やってたのか」とテレマンが言う中、「能無しのくせにっ!」と額縁の中からぶんすかするモーツァルト@彩みちるちゃん、可愛すぎました。

父親から虐げられ、音楽でお金を稼がされる幼少期を過ごし、初恋の人は自分の親友と婚約し、才能を愛してくれた貴族の恋人は身分の違いを乗り越えてくれず、聴力を失い、憧れていたはずのナポレオンやゲーテには失望し、初恋の人の死を知って絶望・・・となかなか悲惨な人生を歩むベートーヴェンだからこそ、あのラストの歓喜の爆発には胸が熱くなります。

以前に書いたことがありますが、自分で第九歌った時にも
und der Cherub steht vor Gott! steht vor Gott! vor Gott~
のところが大好きで歌いながら涙こぼしていたものですが、案の定、ボロ泣きでした。
この部分の歌詞に智天使ケルブも出てきます。


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数々の場面の中でも一番好きなシーンは、ベートーヴェンとナポレオンが語り合う雪原~夢のシンフォニー。
初恋の人 ロールヘンの死に絶望し、倒れ込んだベートーヴェンがみた夢の場面です。

ベートーヴェンにとってナポレオンは解放の象徴であり憧れでもあった訳ですが、ナポレオンが皇帝になったことで失望していました。
そんなナポレオンと雪の中で語り合うベートーヴェン。
「人並に妻も子供も欲しかった。お前はモテたじゃないか。腹がたつ」というベートーヴェンに、「お前はバカか。誰といたって人は孤独だ」というナポレオン。
現在のEUのような新しい汎ヨーロッパの形を夢見ながら果たせなかったナポレオン。
「生きることは苦しみ。人は苦しむために生まれたのだ」と自嘲のように語ります。
語り合ううちに、戦術や国づくりと音楽の共通点を見出していく二人。
天才たちにしか見えない、高い次元で理解し合う世界。
「タ・タ・タ・タン」と4つの音を口ずさむベートーヴェン。
「この4を倍数にする」とナポレオン。
「4の2倍は8、3倍は12」
音楽も同じだとはしゃくベートーヴェンとナポレオン。
背後では、雪に埋もれていたフランス兵が再び隊列を組み、雪の精と行進するにつれて交響曲第五番の第三楽章が立ち上がり、「勝利のシンフォニーだ!」と笑顔で手を挙げる二人。
その刹那、銃声が轟き、ドッと倒れ込むナポレオン。
この場面の愛しさ切なさ。

ここで、最も有名な♪ジャジャジャジャ~ンというフレーズを使わないところも上田先生らしいこだわりです。

これに先立つ、ナポレオンとゲーテの会話もこの場面に繋がるものだったなと後で気づきます。
才に走りすぎてついて来られない周りを「ええい!まどろっこっしい!」と取り敢えず力で屈服させて結果を見ればわかるというナポレオンに、「革命は武力ではなく、言葉と精神によってなされるべきだ」と冷静に説くゲーテ。
ナポレオンののロシアでの敗戦を予言し、
「あなたの能力に時代の手段がまだ追いついていない」
「あなたと同じ速度で皆は走れない」
というゲーテの言葉が、ナポレオンの卓越した天才ぶりと孤独を物語っています。
彩風咲奈さんナポレオンと彩凪翔さんゲーテ。
互いに自分にないものを持っていることを尊敬しつつも一歩も譲らず静かに火花を散らすような緊迫感、すばらしかったです。

物語の本筋とは別に、ナポレオンのシーンでいくつも柚希礼音さん主演 星組の「眠らない男 ナポレオン」(2014年)を思い起す場面があったのが、ワタシ的には結構ツボでした。
あの戴冠式の衣装や王冠をまたナマで見られたのも嬉しかったですし、ロシア遠征の場面では♪ロシア遠征失敗 とメロディつきで思い出したり、メッテルニヒが出てくれば ♪メッテルニヒとは親友だ というタレーランの歌を思い出して、煌羽レオさん演じるメッテルニヒがいかにも曲者かつ切れ者な佇まいで、やっぱり類は友を呼ぶのねーと思ったり。


傲岸不遜と言われ、生きることに不器用で音楽以外に生きる術がないベートーヴェンそのもののような望海風斗さん。
戦勝記念コンサートで耳が聞こえないため指揮に失敗し、背を向ける人々に「俺の音楽を聴け!」という悲痛な叫びが胸に迫りました。二度にわたる「ハイリゲンシュタットの遺書」の熱唱は今も耳に残ります。
モテモテのカッコいい男役ではないけれど、歌の申し子のような望海さんのラストがこの役というのも、音楽の神様の巡りあわせのように思います。

謎の女は真彩希帆さんが宝塚で演じてきた中で一番の当たり役ではないかしら。
ご贔屓さんなら「ファントム」のクリスティーヌを挙げるところかと思いますが、私はこの役を推したいと思います。
正直なところ、真彩さんは実力は認めるものの苦手な娘役さんで、どんな役をやっていても「真彩希帆がやっている」感がぬぐえなかったのですが、今回はそんなこと少しも感じませんでした。
登場から響き渡る歌声と高笑い。
歌い上げる曲はもとより、ラスト近く、「お前は誰だ」とベートーヴェンに問われて、「私は兵士 雪の下に埋もれた・・・私は母親 子どもを奪われた・・・私は女 敵に犯された・・・私は子ども・・・私は・・・」と呟くように歌う歌唱に真の実力を見た思い。

ナポレオンの彩風咲奈さんの剛とゲーテの彩凪翔さんの知の対比も際立っていました。
彩凪翔さんゲーテの理知的で品よく端正な佇まいが印象的。ネイティブ関西弁で「愛してんで」という人と同一人物とはとても思えません(ほめています)。

2月2日に観た時、彩風咲奈さんは台詞も歌声も時折かすれて、喉がかなりキツそうでした。
千穐楽まであと4日。何とか無事に乗り越えられますように。

ナポレオンの幼少時代を演じた野々花ひまりさん、初恋の人ロールヘンの朝月希和さん(少女時代は星南のぞみさん)、ベートーヴェンの才能を認めながら貴族との結婚を選ぶジュリエッタの夢白あやさんと、娘役さんたちそれぞれ好演する中、私のイチ押しは何といっても彩みちるさんのモーツァルト。みちるちゃんにあの役と演出つけた上田先生の慧眼に大拍手。

もう一人、出番は冒頭だけながら、マリー・アントワネットの妃華ゆきのさんがいかにも正統派宝塚版マリー・アントワネットな台詞まわしで、「わー!宝塚の娘役さんってみんなマリー・アントワネットになれるんだ!」と妙な感心をしたりも。

「ルードリッヒ この世界に別れを告げる時間だ」
という智天使ケルプの言葉は、そのまま「宝塚」の望海さんに置き換えられるのが切ない。

ラストの歓喜の大合唱は何度観ても泣いてしまいます。
全員の合唱で幕を閉じたと思ったところへ「アンコーーール」と響くベートーヴェンの声。
みんなに囲まれて、その輪の中心で指揮しながら歌いながら、笑顔で飛び跳ねるベートーヴェンこと望海風斗の多幸感に泣き笑いで幕となりました。




→ ショー「シルクロード」につづく

posted by スキップ at 22:44| Comment(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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