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The end of the world and a new beginning.
An “Update” is coming soon.
世界の終わりと 新たな始まり
更新の日は近い
真っ黒の画面に映し出されるセンテンス。
「『狭き門より入れ』だー!」と思いました。
図夢歌舞伎 「弥次喜多」
原作: 前川知大 「狭き門より入れ」
監督・脚本・演出: 市川猿之助
構成: 杉原邦生
脚本: 戸部和久
監督: 藤森圭太郎
出演: 松本幸四郎 市川猿之助 市川中車 市川染五郎 市川團子
市川猿弥 市川笑三郎 市川寿猿 市川弘太郎(声の出演)
2021年1月16日(土) 配信視聴
(上演時間: 1時間51分)
定式幕が開くと口上人形(声:市川弘太郎)が登場して、これまでの「東海道中膝栗毛」をザクッと振り返り、その後の弥次さん、喜多さんについて語ります。
歌舞伎座の裏方として働いていた2人ですが、要領よく上司にもおべっかを使って気に入られ出世した弥次さん(幸四郎)は、経営再建担当として喜多さん(猿之助)や他の人たちをリストラします。喜多さんは弥次さんのお父さんが経営する万屋(よろずや:今のコンビニエンスストア)「家族商店」で店長として働くようになります。江戸では謎のウイルスが流行して不況となり、歌舞伎座をクビになった弥次さんも実家のコンビニに帰ってきます。店には同じようにリストラされた時枝(中車)や不況で家が没落し荒んだ様子の梵太郎(染五郎)、政之助(團子)なども集まっています。弥次さんの友人で7年前に死んだはずの葉刈(猿弥)や謎の女 彼方岸子(笑三郎)が現れ・・・。
昨年6月に松本幸四郎さんが立ち上げた「図夢歌舞伎」第二弾。
2016年から昨年まで、4回にわたって毎年歌舞伎座 八月納涼歌舞伎で上演されてきた「東海道中膝栗毛」シリーズ最新作「弥次喜多」。市川猿之助さんが現代劇初出演となった「狭き門より入れ」(2009年)-懐かしい-を原作に、弥次喜多シリーズの世界観で再構成した作品ということで、これまでのシリーズとはかなりテイストの異なるものとなっていました。
思っていた以上に「狭き門より入れ」だった、というのが観終わった最初の感想。
江戸とこの世ならざる世界とが交錯しながら展開する物語。
冒頭に書いた「更新の日は近い」のビラもそうですし、「葉刈」「時枝」といった役名も、こぶとりじいさんのお話もまんま出てきました。
「世界は1/3の犠牲で成り立っている」
「人を傷つける善行と、誰も傷つけない悪事」
「世界が欲しがっているのは願いじゃなくて祈り」
といった作品のキーコンセプトとなるような台詞もそのまま使われていました。
2009年の作品で、原因不明のウイルスによる病が蔓延したパンデミックの世界を描く、まるで今の世界を予言したような前川知大さんの原作の凄みを改めて感じます。
設定を江戸に置き換え、元々いたキャラクターに役を当てはめても、物語のテーマは全くブレていなくて、怖ろしさも切なさもそのまま。
自分本位で好き勝手に調子よく生きてきた弥次さんが、この世界はあと3年で消滅すること、生き延びるために「新しい世界」があること、「新しい世界」に移ることができるのは一部の人であること、を知って現実を受け止め、そして、その「新しい世界」に通じる門を閉める役割である「柱」の人は旧世界に残らなければならない代わりに自分の家族を無条件で新しい世界に送ることができること、その役目を担っていた父の思いを知り、周りの人たちのことを慮り、その上での最後の選択に、胸がえぐられる思い。決心してからの弥次さんの目がどんどん澄んでいくように見えました。
こちらの世界にひとり残った弥次さん。
「ごみだめの世界がこんなに美しいとは 今まで気づかなかったよ」と夕焼けに向かって。
「天照さま 俺の家族をどうか見守ってください」と空に向かって笑顔で言った後のラストシーンに思わず涙。
弥次さん、時枝、梵太郎、政之助が「新しい世界」に行った時の会話も印象に残りました。
向こうでは元の世界のことは忘れてしまう、と言われて、「それは嫌だ」と抵抗する梵太郎。
「失ったものに気づかなかったら哀しさなんて感じないのさ」と彼方岸子に言われても、「いや、そういうことじゃない。何か違う」と食い下がる梵太郎に「そうだよねぇ」といたく同感。
でも現実は、新しい世界で過去のことは忘れて屈託のない笑顔で働く梵太郎がラストに登場して切なさがつのりました。
オープニングやエンディングのクレジットは、映画のような雰囲気。
黒のバックに「KOSHIRO MATSUMOTO Ⅹ」「ENNOSUKE ICHIKAWA Ⅳ」といったふうに、全員何代目まで入れたクレジットがクール。世界配信も視野に入れているのだとか。
ラストのCOVID-19の医療現場の闘いや世界各地の紛争、911同時多発テロや原爆ドームの映像まで流れるエンドロールはいささかエモーショナルに過ぎる気がしますが、「自分たちの生き方は正しいのか。こんなに地球をめちゃくちゃにして、疫病が流行ったのは人災ではないか。このままだと本当に滅びるぞということを考えて欲しい」という猿之助さんの強い気持ちの表れのようでもありました。
役者さんたちはもちろん高値安定。
国立劇場の歌舞伎公演に出ながらよく4日間でこれ撮ったなぁの幸四郎さん、その幸四郎さんに、これ、あんたの台詞でしょ、とツッコむ中車さんの曲者ぶり、監督兼任で役者さんとしての出番少な目ながら、「詫びろ詫びろ詫びろ詫びろ」も聞かせてくれた猿之助さん。
金髪赤髪の染五郎くん、團子くんコンビの成長ぶりに胸熱・・・というか、もうフツーにカッコいい今どき男子ですね、演技や台詞の上達にも、おばちゃん感慨深いですよ、全く。
少し抑え気味の演技が光る猿弥さん、妖しげで色っぽいのに冷徹で達観している笑三郎さん。
元の世界に帰してくれという弥次さんたちに「誰でもない存在としてなら戻してやってもいい」と冷淡に言い放つのシビレる。
そしてポイントポイントで登場する寿猿さん。クレジットされた役名が「pigeon」なの笑ってしまいました(*'▽')
これ別に「弥次喜多」でなくてもよかったのではないかという気がしないでもない のごくらく地獄度
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