
松竹座「壽初春大歌舞伎」の中止が発表されて凹んでいたところへこの公演のニュース。
「玉さまがっ!お正月の松竹座にっ!来てくださるっ!!」というだけでとても尊くてありがたいのに、口上では、「このような状況下、おいでくださいまして本当に本当にありがとうございます」と何度もおっしゃっていて、お礼を申し上げるのはこちらの方ですと、もったいな過ぎて涙出ました。
坂東玉三郎 初春特別舞踊公演
出演: 坂東玉三郎
2021年1月11日(月) 2:00pm 松竹座 3階2列センター
一、お年賀 口上
(上演時間: 25分)
千鳥配席の松竹座。
花道も取り払われていました。花道がない松竹座、初めてではないかしら。

ロビーに飾られていた「寿式三番叟」の羽子板。
これが唯一のお正月らしい装飾でした。
緞帳が上がると緋毛氈に一人正座する玉三郎さん。
「15日まではお正月のご挨拶をしてもよろしいようですので」と、「あけましておめでとうございます。この状況下にこの初春特別舞踊公演に、かくにぎにぎしくご来場くださいまして、まことにありがたく、改めて厚く厚く御礼申し上げます次第にございます」という口上から始まりました。
「松竹座が今の劇場となって24年。私は松竹座とは縁が深うございます」と玉三郎さん。
お正月の公演は6回目、舞踊公演は平成26、30年に続いて3回目だそうです。
そんな玉三郎さんが「お正月の松竹座のために」と考えてくださった打掛ご披露。
これがとても綺麗で、打掛にまつわるお話も楽しくて、とてもよかったです。
披露された打掛は五領
1.「助六」 揚巻
2.「吉田屋」 夕霧
3.「天守物語」 富姫
4.「天守物語」 富姫
5.「助六」 揚巻
「助六」 揚巻
「助六」の中で揚巻が披露する背中に伊勢海老がついているあの打掛です。
この打掛だけ衣桁にかけてご披露でした。
揚巻の打掛は五節句を見せるようになっていて、歌舞伎では揚巻だけ。それだけ位が高い女形のお役だそうです。
披露されたのはお正月の打掛で、伊勢海老の他にも門松や羽子板といったお正月らしい刺繍や飾りが。本当に豪華絢爛。帯も羽子板帯で、昔一度全部の拵えを整えて重さを量ったところ40㎏あったのだとか。
本当に豪華。この打掛は一人では着られず、着ている間も補助?が必要ということで衣桁にかけて。「衣桁にかけて眺めるのは珍しい」とおっしゃっていました。
二領目からは玉三郎さんご自身が羽織って、琴の演奏に合わせて上手、下手、正面とそれぞれ打掛の背を見せてポージング。
お琴は川瀬露秋社中のお二人が上手で演奏。露秋さんのお母様 川瀬白秋さんに「阿古屋」の三曲を教えていただいたのだそうです。
「吉田屋」 夕霧
お芝居の最後、伊左衛門の勘当が解けて藤屋から贈られた打掛。
朱赤に金糸で鳳凰と牡丹の刺繍が施された打掛で、京都の刺繍職人さんがお一人で1年がかりで刺繍されたものだとか。
玉三郎さんは「江戸歌舞伎の衣装」とい本に出てくる衣装を全て作りたいと思っていたけれどさすがにそれは無理でしたが、この打掛はその中の一つです、とおっしゃっていました。
「天守物語」 天守夫人 富姫 の打掛は二領
ひとつ目は、華やかなくす玉の打掛。
新派の花柳章太郎さんが初演された時に「簾にくす玉」という柄の打掛をつくられて、六代目歌右衛門さんもそれを引き継がれたそうですが、玉三郎さんは寸法が合わないこともあって新調されたのだとか・
二領目は龍の打掛。
天守夫人は雲に乗って帰ってくる→空を飛べる→龍 という発想から龍にされたそうです。
玉三郎さんは応挙や大観の龍の絵がお好きだとか。
白色だけでは夜の場面に映えないので龍の眼やうろこ、爪に金の刺繍が施されている打掛で、日生劇場で「天守物語」を初演した時からのもので40年以上だそうです。
「打掛の“たけうち”をお見せするのは今日(こんにち)が初めて」とおっしゃっていて、着物に疎い私は「たけうちって何??」と思っていたのですが、最後に打掛を脱いでお弟子さんが一瞬ひらりと内側(裏地)を見せてくださいました。鮮やかな日の出の柄で、陰と陽を表しているそうです。「丈内」と書くのかな?普段目に触れることのない貴重なものを見せていただきました。
最後にもう一度「助六」の揚巻
1の打掛の下に着ているもので、三月の打掛。春のお節句の象徴という打掛。華やかでした。
まるで芸術品のような打掛の数々。
玉三郎さんが打掛を羽織ってポージングするたびにどよめく客席。
これらをこだわってしつらえた玉三郎さんの美意識と女形魂に心揺さぶられる思い。
本当によいものを見せていただきました。
「ひとときお目にかかって、時を忘れていただきますよう勤めます」と玉三郎さん。
最後は、「隅から隅までずいーっと 乞い願い上げ奉りまする~」とよいお声で。
続く舞踊二題はいずれも玉三郎さん単独の舞ながら五丁五枚の三味線と長唄、立鼓は田中傳左衛門さんという豪華布陣。「賤の小田巻」の方は筝曲のお二人も加わっていらっしゃいました。
二、賤の小田巻
(上演時間: 20分)
義経と生き別れた静御前が、頼朝から奉納の舞をら命じられ、白拍子姿で舞を披露する、という舞踊。
玉三郎さん初役なのだそうです。
もちろん私も初見で、チラシもよく読んでいなかったのでどんな話かも知らなかったのですが、「これは静と申す白拍子にて候~」という長唄をキャッチして、「あぁ、静が頼朝の前で舞を披露する話かぁ」と察した不肖スキップ。
前半は唐織のお能の拵えで後半は白拍子の装束でした。
舞台の奥行を使った演出で、上手と下手に緋毛氈が斜めに敷かれ、そこに長唄や三味線、鳴り物さんたちが。三階から観る綺麗な八の字になっていました。上から見てもどんな風に見えるのか、隅々まで考えた玉三郎さんのこだわりを感じます。
花道がないためか、玉三郎さん静は舞台奥のセリで下がり、衣装を変えてまたセリ上がってこられました。
義経と離れ離れになった悲しみを胸に秘めつつ凛と舞う静御前。
荘厳で幽玄な雰囲気。そしてただただ美しい。
三、傾城雪吉原
(上演時間: 15分)
雪景色の新吉原に傘をさした傾城が現れて、春、夏、秋と四季の移ろいにあわせて舞う舞踊。
幕が上がると雪が降りしきって、舞台上に美しい形で雪が降り積もっていて、きっと幕開きの何分も前から雪を降らせていたんだと思うと、またここで玉三郎さんの美意識に胸をつかれる思い。
傾城の衣装が豪華絢爛で、「あー、玉さまだぁ」と思いました。そしてただただ美しい(再び)。
ラストは「春は来にけり~」という唄で、ほんと、季節もそうですが、いろんな意味で春が早く来ますようにと願わずにいられませんでした。
カーテンコールでは、傳左衛門さんはじめ演奏家さんたち、長唄さんも皆、黒いマスクをはずしてお顔を見せてくださっていました。

玉三郎さんにいろんなご心配をおかけせずに公演だけに集中していただく日が1日も早く戻りますように のごくらく地獄度



