2020年12月27日

當る丑歳 「吉例顔見世興行」 東西合同大歌舞伎 第一部


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10月の松竹座が中止になった時、「今年は顔見世もできないんだろうな」と覚悟していました。
だから、2週間という短い期間で客席も半数以下とはいえ、「顔見世をやる」と発表があった時はとてもうれしかったです。
先日の「紀尾井町家話」でも幸四郎さんが「顔見世の開催は危ぶまれていた」といったことをおっしゃっていて、本当にギリギリの状況だったんだなと改めて思った次第です。

南座の前に立って、例年より数は少ないですが、今年もまねきが上がっているのを観て、何とも言えない気持ちになりました。


京の年中行事 當る丑歳 「吉例顔見世興行」 東西合同大歌舞伎 第一部 
2020年12月6日(日) 10:30am 京都南座 3階6列センター


第一 操り三番叟
出演: 三番叟 中村鷹之資  後見 澤村國矢
(上演時間: 20分)



竹馬もない今年の顔見世。
三部制で、各部とも「舞踊+お芝居」の組み合わせです。

幕開きはおめでたい三番叟から。
数ある三番叟ものの中でも「操り三番叟」は好きな演目の一つ。
鷹之資くんの三番叟に、後見は國矢さんと、歌舞伎座の本興行ではなかなか観られない新鮮な配役です。

踊り巧者の鷹之資くん、できるだろうとは思っていましたが、若々しい躍動かと安定感があって、きちんと振りを押えた楷書の踊り。観ていて気持ちのよい三番叟でした。

最初に箱から出された時、思ったほどぺしゃんこになっていなかったり、糸に操られてびょ~んと跳ねるバネのような動などやや
“人形み“に欠ける節はあるものの、広い舞台に一人で躍動して、見事に踊り切っていました。
鷹之資くんってお若いのに似合わず、そのどっしりした体型のせいか大きなお顔のためか(ほめています)、どこか老成した風情も醸し出していて、三下がりのしっとりとする雰囲気もよく出ていておもしろいなと思いました。
出過ぎることなく、でもやるべきことはきっちりと、の後見の國矢さんとの息もぴったり。

三番叟の振る鈴の音が大好きなワタクシ。
五穀豊穣や天下泰平を願うご祝儀の舞で今年1年の憂さをすっかり祓い浄められた気分です。


第二 傾城反魂香 土佐将監閑居の場
作:  近松門左衛門
出演: 中村鴈治郎  中村虎之介  中村寿治郎  
上村吉太朗  上村吉弥  中村扇雀 ほか
(上演時間: 1時間20分)



鴈治郎さんの又平は過去に二度観ていて、直近が2015年2月の松竹座
鴈治郎さん襲名披露興行でした。

その時のおとくは猿之助さん。
今月は歌舞伎座でも同じ演目をやっていて、猿之助さんおとくは勘九郎さんの又平とともに出演中。ご夫婦東西に別れ別れですね(違)。

朴訥として不器用で、でも何としても土佐の名字が貰いたいという必死さがひしひしと伝わる鴈治郎さんの又平。
そんな又兵が、師匠の将監に厳格に拒絶された時の絶望。
うまくしゃべれない自らの口に手を入れて嘆く切なさ。
自らの筆で絵の奇跡を起こし、名字を許された時のはじけるような喜び。
吃音の口調も自然で、うまくしゃべれないために思いの方が迸ってしまって、言いたいことが伝わらない又平のもどかしさが手に取るように伝わってきます。

将監に見張りを命じられて花道で構える場面が、吉右衛門さんや勘九郎さんは瞬きひとつしないで先を凝視しているのに鴈治郎さんは100回ほどまばたきするのが唯一気になるところかな(2人がスーパーすぎるのであって、まばたきするのが当然なのですが。

控え目な中に夫を思ってともに苦しむ気持ちが伝わる扇雀さんのおとく。
将監にの手前、表立った行動はしないものの、又平を気遣う様子が情感深い吉弥さんの北の方。
出てきた時、「誰?!」と思ったら吉太朗くんでびっくりした修理之助・・・いやほんと、大きく凛々しくなって。
小さい時からお芝居上手い子でしたが、もう大人の役者として全く遜色ありません。
さらにまた「誰?!」と思った雅楽之助は虎之介くん。これまた大きく凛々しくなって、アゲイン。精進が伺えて口跡もずい分よくなって、今後も楽しみです。

土佐将監は寿治郎さん。
「寿治郎さんが将監だと威厳がなぁ」と思ったワタシ、寿治郎さんにお詫びしなさい!という感じ。
確かに見た目的には何となくやわらかい雰囲気で、又平はじめ他を圧倒するような威厳を感じる将監ではありませんが、厳しさの中に心の底では又平のことをちゃんと理解していて、自分の芸の伸び悩みを吃音のせいにしている又平を前へ進ませるため、敢えて厳しく接している雰囲気がとてもよかったです。

将監が手水鉢を刀で真っ二つに斬って、「これにて又平の吃音の元を断った」と又平の吃音も治るという幕切れは鴈治郎さん独自のもので、文楽の型を今は亡き竹本住大夫さんから教わって歌舞伎に取り入れたのだそうです。

最後に幕外の花道で、おとくが又平に歩き方の指南をして、少しやってみた又平が照れて一人先に行って・・・という可愛らしくも微笑ましい幕切れは、いつ観ても温かい気持ちになります。



本当なら歌舞伎座の吃又も観たかったの のごくらく地獄度 (total 2196 vs 2195 )


posted by スキップ at 22:34| Comment(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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