
尾上松緑さんが「コロナの自粛期間中に、待っていて下さるお客様に何か届けられないか」と今年6月に始めたオンライン飲み会(?)「紀尾井町家話」。
毎回様々なゲストとの飾らないトークが楽しいと人気ですが、私はこれまで拝見したことがありませんでした。
がしかーし、今年最後のゲストは幸四郎さんと猿之助さん・・・ということで初参戦です。
紀尾井町家話特別編 「紀尾井町家話 第二十二夜」
出演: 尾上松緑
ゲスト: 松本幸四郎 市川猿之助
2020年12月23日(水) 8:00pm 配信視聴
(配信時間: 2時間20分)
幸四郎さんが最年長で、松緑さんが2歳下、さらにその1歳下が猿之助さんとほぼ同世代で、ともに御曹司として若いころから活躍してきたお三方。
口八丁手八丁の2人(松緑さん、猿之助さん)が幸四郎さんにいろいろツッコミ、幸四郎さんは反論しながらもあまり熱くもならず鷹揚に笑って受けるというのが全体的な印象でした。
他愛ないバカ話や学生時代の思い出話、深い芸談まで、予定時間の90分を大幅に超えて、とても楽しく充実したトークを展開してくだいました。
◆乾杯
まず最初は乾杯。
「ここは最長老の幸四郎さんから」と松緑さん。
「最年長と言うんですよ」と訂正して、「来年は三度目の年男」とおっしゃる幸四郎さん。
「三度目って・・・」と思いましたが、ここはみんな華麗にスルー。
最後の方にももう一度おっしゃっていましたが誰にもツッコんでもらえず(笑)。
「今日はたくさん笑いましょう!」と乾杯。
◆南座顔見世
「京都はどうでしたか」と話を振る松緑さん。
幸四郎さん: 3月に歌舞伎が中止になった時、顔見世のことが一番に頭に浮かびました。松竹が歌舞伎を始めて110年以上、顔見世は途絶えることなくやってきました。開催が危ぶまれていましたが、できてうれしい。うれしいだけにいろいろさびしい顔見世でした。客席も、出演者も少なく、大向うもなく。
午後6時まで南座に入れない(幸四郎さんは6時40分開演の三部に出演)ので喫茶店にばかり行っていたという幸四郎さんに「そこはかわいい女の子がいるの?」とツッコむ松緑さん。
「幸四郎さんはかわいい女の子がいるところしか行かないから」と。
◆一緒にごはん
「去年巡業で1ヵ月回ったのに1日も一緒にごはん食べなかった」と猿之助さん。
「幸四郎さんは自分から誘うことがない」と松緑さん。
「松緑さん襲名で康楽館(秋田)に行った時、焼肉屋に6時間位いた」と猿之助さん。
「あの時、錦之助のお兄さんが酔っ払って全裸になって。めちゃめちゃはしゃいで次の日声ガラガラ」って暴露話する松緑さん。
◆幸四郎さんはくどき上手
猿之助さんは旧歌舞伎座に出演したのは「竜馬がゆく」が最後で歌舞伎座最後の台詞が「ハニムーンぜよ」だったのだとか。
「屋根で抱き合うシーンで俺を落とそうとするんだ」と幸四郎さんにクレームも(笑)。
-2008年の歌舞伎座秀山祭。もう12年も前なのね。
幸四郎さんの竜馬に猿之助さんのおりょう、また観たいなぁ。
この時、松緑さんは中岡慎太郎。
「中岡やってくれ。一緒に死んでくれ」と幸四郎さんにくどかれた、と松緑さん。
「幸四郎さんはくどき上手でいろんなことをいろんな人に言う。女形やる人に『やっと君とめぐり会えた』みたいなこと言ったり。男も女もくどき上手」と。
-そうそう、七之助くんにも以前そんなこと言ってましたね。「僕の与三郎以外でお富やらないでくれ」とかもw。
◆暁星学園
3人は小・中・高と暁星学園の同窓生。
「学年違っても幸四郎さんとは学校で会ったことあるけど、嵐さん(松緑さん)は学校で一度も見かけたことない」と猿之助さん。
「幸四郎さんはその頃からすごい優等生で、1個下の喜熨斗(猿之助さん)はめちゃくちゃ優秀で俺は『ダメな藤間』と呼ばれていた(幸四郎さんも松緑さんも姓が藤間)」と松緑さん。
「暁星はフランス語が必修で、お陰で團十郎さんのパリ公演の時すごく役に立った」と猿之助さんは口上のエピソードを披露されていました。吉弥さん、扇子にびっしりフランス語書いて、自分の名前ど忘れしちゃったのですって。
「幸四郎さんは近くの女子校から会いに来てる子がいたり、飯田橋で出待ちされたり」と、幸四郎さんモテ話を披露する松緑さん。
古文の先生や近くにあったカレー屋さんの話とか、学生時代の思い出話、3人とも楽しそうでした。
◆先達からの教え
様々なお役を先達から教わってきた3人。
寺子屋の千代では「煙ごしに泣く」とか、猿之助さんが神谷町(七代目芝翫さん)から教えられた話、とても興味深かったです。
「熊谷陣屋」の相模を教わった時は藤の方をやる芝のぶさんも一緒で、芝のぶさんには「こうやんなきゃダメだよ!」と言って俺には「こうなさいまし」とか言うの、と口真似つきで。
最後に教わったのは「野崎村」のおみつで、家の人が「もうそのくらいにしたら」と言うくらい3時間みっちり教えてもらって、外まで見送ってくれた、としんみり。
「一本刀も芝翫さんにお蔦以外全部聞いて、その台本は俺の宝物」と猿之助さん。
松緑さんは「襲名で蘭平やった時、行平で出てくださって、桜が散った時に「おじいちゃんは桜が見えるけど、あんたは見えない」と言われたそうです。
幸四郎さんは「勧進帳」の義経を教えていただいたそうです。
「判官御手」は判官が気持ちとして「ありがとう」と抱き合うのだというのが印象的だったとか。
猿翁さんも若いころ神谷町に教わって、判官御手の後、うしろ向くのはダメ、四天王と一緒に前を向く、そうすることで緊張感があるから、とおっしゃっていたそうです。
この後の、「富樫はいつ義経と気づいていたか」談義も番卒にまで話が及んでおもしろかったです。
「澤瀉屋型の弁慶は最後の幕外で歯を出して笑う」と猿之助さん。
「してやったり、という感じ」「金剛杖もいつでも攻撃できるようこう持つ」と片手ずつ順手と逆手の持ち方。
松緑さんは先日研修発表会で亀蔵さんの弁慶を見てあげた時、亀蔵さんもそう持っていて、「おじいちゃんもそうやってた?」と聞いたそうです。
山城屋(坂田藤十郎)さんに教えていただいた話では、ちゃんと上方言葉のイントネーションまで完子ピして口真似する猿之助さん。
猿翁さんが「映像で見るならこの世に残されたすべての映像を見ろ」とおっしゃった話もとても心に残りました。
「25日間あるならたまたま調子が悪い日だったかもしれない」と。
松緑さんはつい声を振り絞ってしまうので、白鸚さんには「最初からそんなにがんばらなくていい」とよく言われたのだとか。
幸四郎さんは弁慶をもちろん白鸚さんに教わったのですが、「弁慶見えるか見えないか、という感じ。君の弁慶としていいか、そこから弁慶としておかしかったら言うという感じ」だったそうです。
猿之助さんは「勧進帳」の義経は玉三郎さんに習ったそうです。
猿翁さんに「四の切」を教えて下さいと言った時には「え?やってなかった?」と言わラそうです。
-これ、よくおっしゃっていますね。本当に言われた方がえ??だったのでしょう。
自主公演で1回やった後、初めて本興行「四の切」をやった時は幸四郎さんに義経で出ていただいた。
「忘れもしません。『何かが始まった』という感じでした」と幸四郎さん。
音羽屋型と澤瀉屋型の「四の切」についてのお話もとても興味深かったです。
松緑さんが「前の忠信が肝」と言えば、猿之助さんは「病み上がりということを忘れるなと言われました。だから狐につけ入られるスキがあるんだと」
「海老ぞりの長袴を綺麗に揃えろ」「欄干渡りから降りる時、音出しちゃいけない」(所作板との間にマットを敷いた)「狐だから息しちゃいけない」って、そんなのできる訳ない、と。
-猿翁さんの狐忠信、本当に“人外のもの”感ありました。猿之助さんがそれをきちんと継承されているのもすばらしいです。
幸四郎さんが「四の切」やる時は松緑さんは「静やりますよ」、「俺は法眼」と猿之助さん。
「じゃあ法眼夫婦で出ましょうよ。染五郎くんの義経で」と松緑さん。
「そういうことになると誰に習えばいいのか・・・」と幸四郎さん。
◆図夢歌舞伎「弥次喜多」
「2時間の映画を4日間で撮った」と猿之助さん。
しかも幸四郎さんが国立劇場出演中だったので実質午後遅くからの撮影だったとか。
監督も助監督の役もひとりでやった猿之助さん。戸部さんに不満タラタラ(笑)。
「俺と2人が決定的に違うのは、2人ともプレイヤーだけでなく、プロデューサー、監督としてもやるところ」と松緑さん。
◆染五郎くんと「石橋」
染五郎くんが国立劇場で「雪の石橋」をやった話になり、「(幸四郎さんがやっていた)当時を観てるだけに、その役を息子がやるようになったのあ親ではないが感慨深い」と松緑さん。
-歌舞伎の子たちって、自分の親、師匠以外にもこんなふうに温かく見守られて育っていくんだなぁと思いました。
◆劇評家なんて
石橋をやっていた時、別の演目で幸四郎さんが弁天小僧、松緑さんが南郷力丸をやっていて、劇評家からボロクソに書かれたことがあるのだそうです。
「下駄の音から先代たちと違う」とか。
「浜松屋出る直前、弁天小僧がこんなになってる」と松緑さん。
しゅんとなる幸四郎さんを見かねた松緑さんは、「あのさぁ、劇評家なんか俺たちに寄生してるような奴らなんだから、そんな奴らの言うこと真に受けて今日のお客さんに景気悪い芝居見せちゃダメだよ」と言って出たそうです。
それを聞いた猿之助さん「言っていただければオレ、呪い殺せるよ」ですって。
◆クリスマスプレゼント
クリスマスプレゼントに何が欲しいか
猿之助さん: 現金。3万円。
幸四郎さん: 携帯。パソコンも欲しいな。
「スマホはWi-Fiないと繋がらなくなってる。どっか喫茶店入るたびにフリーWi-Fiあるか確かめてる」という幸四郎さんに「天下の松本幸四郎がケチくさいこと言うな」と松緑さん。
松緑さん: コロナで奪われてできなかった役を取り返したい。
それを取り返してくれたらキリスト様もう1回信じてもいい。
それがカッコよすぎるんだったら、慰謝料。←
◆今年の漢字一文字
猿之助さん: 病(やまい)
松緑さん: 断
幸四郎さん: 進 とか 歩 とか 夢 とか
妄想かもしれないけど、そういう時間も何かできないかなとか、ここで負けてたまるかとか考えてたと、どこまでも前向きな幸四郎さん。
◆歌舞伎役者さん以外で共演してみたい人
松緑さん: 猿之助さんにやきもちやいてる。平くん、下村さん・・・。
菊五郎劇団としてはありえないけど、中車さんと芝居するのはとても勉強になりました。
ここで猿之助さん 「まぁ、お礼を言っときます」
幸四郎さん: 藤山寛美さん。図夢歌舞伎なら可能。
「おじいさんと共演してたもんね」と松緑さん。
「あれは本当に共演したかったなと思う。間に合わなかったクソ!と思った」と幸四郎さん。
「親父が生きてたらてめぇなんか俺の息子じゃねぇと言われてたと思う」と松緑さん。
猿之助さん: サニー千葉(千葉真一)さん
ここで3月京都での千葉さんの高級補聴器のおもしろエピソードを。
「風林火山」出演からずっと猿之助さんのことを「若」と呼んでいるという千葉さん。千葉さんの板垣信方 大好きでした。
◆お互いについて
松緑さん: 猿之助さんは芝居で初めてご一緒させていたあいた時から大人だなと思って、だんだんかわいいところとかやんちゃなところがあるんだなと。
幸四郎さんは「幸四郎さんから下の世代」と言われることが多い中、リーダーとして締めていただいている。2人とも器用でうまくてうらやましい。
「図夢歌舞伎」は賛否両論ありましたがけど、同世代のあなたがそれをやってくれて、そこに猿之助さんが参加したのはカッコよかった。ひとつだけ不満があるのは何で俺をよばなかったかってこと。
-松緑さん、「ワンピース」の話題の時も「何で俺を呼ばなかった」とおっしゃっていました。どちらも出たかったのかな(笑)。
幸四郎さん: 最初の印象以上の関係という感じですが、変わっていない。
松緑さんは紀尾井町のおうちでお芝居ごっこして・・一緒にお芝居ごっこした唯一の役者さんです。
猿之助さんは、お芝居があり、一座があり、スーパー歌舞伎セカンドがりあって一翼を担っていて、頼もしいという印象というのは変わっていない。うれしいです。
猿之助さんは聡明で決断力の速さがうらやましい。
僕はどうしようか、ああしようかと考えて考えて最後は思いつき。猿之助さんは構築するというか、過程も全部説明できる。
松緑さんは、フランクなようですごくよく見ている。ここという時に発言する人。
猿之助さん: 心の距離はお二人とも変わっていない。幸四郎さんはちょっとシワが増えたかな。
・・・ここで幸四郎さんが「パソコンがちょっと調子悪いんですよ」と言うと、猿之助さん秒で「やかましい!」と返していましたw
幸四郎さんは自分が傷つくのわかっているのに先陣を切る。そこがすばらしい。と猿之助さん。
-聞いていて涙出ました。
3人とも1年会ってなくてもすぐ戻れるのだそうです。
◆来年に向けてのメッセージ
幸四郎さん: 希望しかない。
来年は年男、三度目の(ここでまた言った)。がんばって特別な年にしたい。一歩でも進む。
特別な年にしたいけど何も変わらないと思います。何も変わらず進むことが大切。そして何かが変わればいいなと思います。
猿之助さん: 来年からエンターテインメントは本当に気を引き締めないといけない。
100%の客席でできる、大向うがかかることを願って、観客の皆さんも僕ら役者も一丸となってやっていきたいです。
松緑さん: 團十郎襲名も延期になりましたが、幸四郎さん、猿之助さんも出ていたはず。何よりも海老蔵さんが悔しい思いをしているはず。来年できるか延期になるかわからない状態ですが、お客さんに劇場に来てもらって何もかも忘れて楽しんでもらいたい。
今年は幸四郎さん、猿之助さんと一緒の舞台に立てなかったので、来年は一緒にやりたいです。
「八月をみんなが無事にやり遂げてくれたことが九月に出る人間にはグッときて、夜遊び好きな俺が夜遊びにも行かないで生活してる」と松緑さん。
「命をかけて安心安全な歌舞伎座を守っている」という猿之助さん。は「まだ働く場がない者もいる。大向う、売店・・・その意味ではまだ初日は開いていない」と幸四郎さん。
こんな状況下、歌舞伎を続けていくために、歌舞伎を守るという強い思いを感じる3のトーク。
松緑さんが来年1回目のゲスト(雀右衛門さんと亀蔵さん)を紹介すると、「1年のはじめに先代雀右衛門はいりません?」と猿之助さん。
でもまたこお3人で、呼んでくだい、とラストは、また2人がゲスト出演することを約束してZOOMで指切りげんまん。よーい、よい。かわい過ぎる。
あんなに飲んだのに最後は事務連絡含めてきっちり締める松緑さん すごい のごくらく度


