
「それは私のこころいきだ」が、「心意気」ではなく、「羽根飾り」に”こころいき”とルビをふったものであることを知ったのはこのお芝居を初めて観た2007年のこと(こちら)。
シラノ役や市川右近(現 右團次)さん。以来、緒形拳さん、鹿賀丈史さんとシラノを観てきましたが、“類まれな醜い容姿を持つ”とされるシラノを主人公とした物語を、宝塚で観る日が来るなんて。
(1995年に「剣と恋と虹と」として上演されていたことを後で知りました・・・がその時は鼻の大きな醜男ではなかったらしい)。
宝塚歌劇 星組公演
ミュージカル 「シラノ・ド・ベルジュラック」
作: エドモン・ロスタン 翻訳: 辰野隆 鈴木信太郎
脚本・演出: 大野拓史
作曲・編曲: 玉麻尚一 高橋恵
振付: 平澤智 殺陣: 清家三彦
出演: 轟 悠/瀬央ゆりあ 小桜ほのか 美稀千種
天寿光希 紫月音寧 漣レイラ 朝水りょう
天希ほまれ 華雪りら 極美慎 碧海さりお ほか
2020年12月8日(火) 12:00pm シアター・ドラマシティ 25列センター/
12月9日(水) 4:00pm 12列上手/12月12日(土) 11:00am 9列センター
(上演時間: 2時間30分/休憩 25分)
物語: 17世紀半ばのパリに実在した、優れた詩人にして勇猛果敢な剣士 シラノ・ド・ベルジュラック(轟悠)。いとこのロクサアヌ(小桜ほのか)のことをずっと思い続けていますが、並外れて大きな鼻という容姿にコンプレックスを持つ彼には打ち明けることができません。ガスコン青年隊に新しく入隊した若くてハンサムなクリスチャン(瀬央ゆりあ)とロクサアヌが互いに思い合っていることを知り、二人の仲をとりもつことになります。口下手なクリスチャンはシラノに教えられた愛の言葉でロクサアヌの心を射止め結婚しますが、ガスコン青年隊は仏西戦争の前線に赴くことになります。シラノは戦地からクリスチャンの名前で愛の手紙を毎日ロクサアヌへと送ります・・・。
原作に忠実な物語展開にタカラヅカらしい華やかさや笑いも随所に散りばめられて見応えありました。
最初のシラノとド・ヴァルヴェエル子爵との決闘の殺陣やガスコン青年隊とスペイン兵との戦闘のダンスは美しくも迫力たっぷり、ラグノオのお店の場面はマカロンなどスイーツがエプロン姿のパティシエたちがメルヘンチックで楽しい、と場面ごとの対比も鮮やか。
ロクサアヌの屋敷のバルコニーの下で、クリスチャンの代わりにシラノが愛の言葉を紡ぎ、二人が部屋へと去った後、一人残ったシラノが切々とロクサアヌへの思いを語る場面は台詞から歌と切り替わっていて、シラノの思いがあふれるような轟さんの歌唱が印象的。
切ない幕切れの後には華やかなフィナーレもついて、明るい気持ちで打ち出しとなりました。
バルコニーの場面の美しい月、戦場で迎える朝焼け、そして、最期の時を迎える夕焼け、と空の色の移り変わりも美しく印象的な舞台美術。
シラノの羽根飾りのついた帽子やマント、ロクサアヌの優雅なドレス、クリスチャンの軍服など衣装も豪華で時代感あって素敵でした。
ロクサアヌは個人的にはあまり感情移入できないヒロイン。
「愛しています」「すごく」というクリスチャンの素朴でストレートな愛の告白を良しとせず、もっと美辞麗句が欲しいというロクサアヌ。
最後の最後になって、今まで読んでいた手紙を書いていたのがシラノで、自分が本当に愛していたのはシラノだと気づくロクサアヌ。
でもそれは、「クリスチャンの代わりをしたシラノ」だったのではないかなぁという思いが拭えないでいます。つまりロクサアヌが愛したのは、シラノでもクリスチャンでもなく、「自分をひたすら愛してくれた人」だと思うのです。その意味では、ロクサアヌはシラノもクリスチャンも、真実の姿を知ることができなかった哀しい女性という気もします。
しかしながら、演じる小桜ほのかさんはとてもよかったです。
正統派の美人というよりどちらかといえばコケティッシュな雰囲気を持つ娘役さんという印象だったのですが、品よく美しく、お嬢様らしいいい意味での傲慢さもあって、魅力的なロクサアヌでした。14年の歳月が流れた後の修道院では声のトーンをきっちり変えて年月を感じさせたのもさすがでした。歌唱はもちろんすばらしく、ドレスの着こなしも、上品でセンスのいいアクセサリー選びも、娘役力高いと思いました。
そのロクサアヌがひと目ぼれするクリスチャンは瀬央ゆりあさん。
「寝顔まで色男」とシラノが悔しがる美男子ぶりも納得の端正で華やかな美しさ。金髪の長髪が似合うことこの上ない。
そのビジュアルのよさとは裏腹に、無骨で不器用、綺麗な言葉や手紙を書くことがからきし苦手、というのも何となく瀬央さんのキャラクターと重なるものがありました。歌もほんと、うまくなったよねー。
原作とは設定を変えたイケメンパティシエ ラグノオの極美慎さん。
登場しただけで舞台がパッと明るくなる華やかさ。口跡はまだ甘いところもありますが、だんだん男っぽくなてきました。ラストで瀕死のシラノを見つめる眼差しが切なさに満ちていてズキンとしました。
悪と色気を兼ね備え、ちょっぴり笑いもふりかけたド・ギッシュ伯爵の天寿光希さん、冷静で常にシラノを見守る佇まいの温かさが印象的なル・ブレの美稀千種さんは渋い声でギターの弾き語りも聴かせてくれました(ほんとはギターは弾いてなかったらしいけれど)。
男気のあるガスコン青年隊のカルボン隊長 漣 レイさん、いかにもちょっと斜に構えた詩人という雰囲気のラリニエール 朝水 りょうさん(面差しが少し真琴つばささんに似てる気がした)、怜悧な美貌が印象的なド・ヴァルヴェエル子爵、ダンスの人と思っていたけど歌もお芝居もイケるじゃんなモンフルウリイの碧海さりおさんと、役や場面が少ないながらもいろんな人に活躍の場があってよかったです。
そして、シラノの轟悠さん。
特殊メイクで鼻を高くしていても、お顔立ちは普通に美しかったので、どうしてシラノがそこまで容姿にコンプレックスを持つのかという説得力にはやや欠けるものの、ロクサアヌを大切に思いながら言い出せない屈折、まして相手があの美しいクリスチャンなので敵う訳がないという葛藤と諦念、それでも戦場から手紙を書き続ける執着・・・シラノの様々な心の内を細かく描出してさすが。
ロクサアヌに呼び出されたラグノオの店で、クサアヌの前でそわそわ、おろおろするシラノがかわいく愛おしい。
包容力あるシラノですが、若手の多い星組メンバーの中で一人突出するでもなくちゃんと仲間に見えるところもすごいです。
歌唱は声が伸び切っていないかなと感じる部分はありましたが、台詞は明瞭でバルコニーの下の詩のような愛の告白も手紙の朗読も、そしてラストの長い独白も、聴かせてくれました。
轟悠さん、渾身のシラノです。
フィナーレは、瀬央ゆりあさんのソロ→男役娘役の群舞(男役の衣装が月組「All for One」の銃士隊のだった)→轟さん、小桜さんのデュエットダンス。
華やかな星男たちのダンス(振付は多分 平澤智先生?)観られるのうれしかったし、轟さんのデュエットダンス観るの多分私は初めてじゃないかな。すごく難しい振りはないようでしたが、二人とも白い衣装で、天国で結ばれるシラノとロクサアヌという雰囲気の多幸感に満ちたやわらかなデュエットダンス。物語の切ない結末をしばし忘れる思いでした。
いつもだけど別箱のプログラム 主題歌くらいは載せてほしい のごくらく地獄度



