2020年12月16日

歪みが少ない松尾ワールド 「フリムンシスターズ」


furimun.jpg松尾スズキさんが「キレイ-神様と待ち合わせした女-」以来20年ぶりに書き下ろした新作ミュージカル。

当初観るつもりはなかったのですが、大阪公演開幕直前の11月終わりごろ、ちょっと凹むことがあって、「ええ~い!フリムン観に行ってやる!」「でもオリックスの後ろの方で観るのはいやだ」と思っていたところ、完売と思いきやセンター横通路の席が空いているのを発見して(関係者席が解放されたのかな?)「これは私に行けと言っている」とチケット押さえた次第。
ちなみに「凹むこと」というのは南座顔見世で私が観る日に仁左衛門さんが(ご本人はお元気にもかかわらず)休演になったこと。それがどうして「フリムン観てやる」につながるのかはワタシの不思議なところ←

観劇2日前の12月2日に終演時間を調べようとして、関係者体調不良のため12月1日・2日の公演が中止になったことを知り、「これ、中止だな。やっぱりご縁がなかったのね」と思ったものの、12月3日から無事再開・・・と思いきやその夜、大阪府知事の外出自粛要請が出て、「どうするの~、明日の公演?」となったり、阿部サダヲさんのコロナ陽性で稽古中止になったのに始まり、最後までコロナに振り回された公演でしたが、無事に観劇することができました。


開演前アナウンスは松尾スズキさんご本人。
聞こえてきた時、「あ、松尾さんの声だ」と思ったら、ちゃんと後で名乗っていらっしゃいました。感染予防対策などこと細かに話されていて、「いろいろ細かいこと言ってすみません」とか、言ってる姿想像してちょっと笑っちゃいました。


COCOON PRODUCTION 2020
「フリムンシスターズ」
作・演出: 松尾スズキ
音楽: 渡邊崇
出演: 長澤まさみ  秋山菜津子  皆川猿時  栗原類  村杉蝉之介  池津祥子  
猫背椿  笠松はる  篠原悠伸  山口航太  羽田夜市  笹岡征矢  香月彩里  
丹羽麻由美  河合優実  片岡正二郎  オクイシュージ  阿部サダヲ

2020年12月4日(金) 6:30pm オリックス劇場 1階12列センター
(上演時間:3時間30分/休憩 20分)



物語:故郷の沖縄で忌まわしい記憶を消され、西新宿のコンビニで住み込みで働き無気力に暮らすちひろ(長澤まさみ)は実は沖縄のユタの血筋で不可思議な能力を持っていました。一方、ちひろが昔から憧れていた女優みつ子(秋山菜津子)はある出来事をきっかけに精神的に病んで休業していましたが大舞台へ復帰することになり、親友でゲイのヒデヨシ(阿部サダヲ)に付き添ってもらって稽古場へ向かいます。その帰りにちひろが働くコンビニにみつ子が立ち寄って・・・。

“フリムン”とは、沖縄の方言で“気がふれる”とか“狂ったような”とか“バカ”を意味する言葉だそうです。


ヒデヨシはかつて同棲していた恋人・ヒロシ(篠原悠伸)がヒデヨシが宝くじで当てた2億円を換金に行ったまま帰らなかったとか、みつ子はミュージカル女優の妹・八千代(笠松はる)がオーディションに合格して明日ブロードウェイに出発するという夜に彼女を車ではねて歩けなくしてしまったとか、それぞれに過去の傷を抱えています。

コンビニの店長(オクイシュージ)には警察官の弟(オクイ二役)がいて、彼はゲイを憎むあまり上司(とヒロシ)を「後ろからズドン」と撃って殺してしまい服役しているとか、ちひろと同じくコンビニで働く韓国人のキム(羽田余市)はゲイであることを理由に差別され家を追い出されて日本に流れ着いたとか、3人の周りには様々な人物が登場し、彼らの物語が幾重にも絡み合って物語は展開し、最終的にはちひろ、みつ子、ヒデヨシの3人が過去の呪縛から解放されるまでを歌や踊りで彩りながら描いています。

そしてこれらを天上界から見守る狂言回し的役割のドラァグクイーンの信長(皆川猿時)。


一つひとつのアイコンはおもしろくて、それが繋がっていったり、伏線が回収されていく快感もあります。
沖縄の基地問題や差別の問題、「ヤクザ」「奴隷」といった言葉が飛び交い、ブラックなネタも数々内包している中で、一番に挙げられるテーマはLGBT問題であろうと思います。
店長の弟がゲイを排除するために入っている「伊勢丹のムードを愛する会」なんて、笑いのオブラートに包まれていますが、思想統制的な匂いも感じ。

ただ、差別される側(ヒデヨシやキム、そして信長も)に視点が置かれているものの、率直なところ、そこまで痛みや切実さは感じられず。
それがミュージカルという箱に入っているせいか、笑いが散りばめられているせいか、脚本や演出、もしくは役者さんの演技があえてそこまで踏み込んでいないためなのか。

ちひろにしても、コンビニで無給で働いて、廃棄弁当食べて、自分を「奴隷」と表現して店長(妻あり)の言いなりに性欲のはけ口となって、と救いようがない悲惨な暮らしぶりですが、そこまで閉塞感や陰鬱さが感じらずどこかあっけらかんとしているのは、キャラクター設定をあえてそうしているのか、長澤まさみさんの持つ明るさがそうしているのか、正直よくわかりませんでした。

松尾さんの作品にしては歪み、毒といったものが少ない印象。
いや、じゅうぶん毒もあるし歪んではいるのですが、エッジが緩めというか、ヒリヒリとするようなものがそこまで感じられないというか。

とはいえ、ミュージカルなので歌もダンスも、そして笑いもたっぷり。
ミュージカル作品のパロディもあれこれ織り込まれていて、「マイフェアレディ」の「踊り明かそう」なんて、著作権OKだったの?と笑いながら心配になったり、松尾さんもいのうえひでのりさんに負けず劣らずミューオタなのかなと思ったり。

一幕終わりに物語がいい感じに盛り上がり、登場人物が出揃って「幕が下りる気がする~」と歌う曲(タイトルは「終わりの始まりの予感」)、大笑いしました。「知らない役者をパンフレットで答え合わせ」といったミュージカルあるあるネタとか、松尾さんほんと細かい。



そしてオーラスにみつ子、ヒデヨシ、ちひろが人生の新しい旅立ち的に煌びやかなコスチュームでそれぞれソロを歌うあたりはフィナーレ味があってやっぱり盛り上がりました。

ちひろの決意の言葉「間違った指図にヘラヘラ笑いながら自由を差し出すのはうんざりだ」がLGBTQ差別抗議デモのスローガンにもなって、いろいろな事情があり状況は厳しくても強く明るく生きていこうとするフリムンシスターズを応援したくなる明るく楽しいナンバーでした。


めがねやサエない拵えで封印しても明るさ華やかさがこぼれ出る長澤まさみさん。
以前拝見した時、正直お歌はそれほどでも・・という印象でしたが、よく声も出ていてよかったです。レッスン積み重ねているのね。
秋山菜津子さんの変わらぬ女優っぷりにはグッときますし、阿部サダヲさんの場をさらっていく感じが相変わらず凄くて、舞台上にサダヲちゃんがいるとどうしても目が吸い寄せられてしまうし、登場するだけでガラリと空気を変えるところとか鳥肌立つくらい。

凄いといえば、みつ子の妹・八千代の笠松はるさん。
歌がすごくうまい上に、みつ子を笑顔で追い詰めるダークなコメディエンヌぶりがひと際印象的でした。存じ上げませんでしたが、元劇団四季の方なのですね。劇団四季って歌える実力派の役者さんを本当にたくさん輩出しています。

コンビニ店長と警官の二役を演じたオクイシュージさんも凄みありました。
兄(店長)が弟からの最後の手紙を読みながら眼鏡をはずした瞬間、その弟に切り替わるの、ゾクッとしました。
相変わらず愛嬌たっぷりの皆川猿時さんはじめ大人計画の役者さんたちのご活躍もうれしかったな。

カーテンコールにはまた松尾さんのアナウンスが入って「史上最短のカーテンコール」
これもきっぱり潔くて好感。
2公演は中止になりましたが、千秋楽まで完走おめでとうございます。



ご縁があったのかなかったのかよくわからないけどとにかく観られてよかった のごくらく地獄度 (total 2186 vs 2186 )



posted by スキップ at 23:42| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください