
シェイクスピア喜劇の最高傑作と言われる「十二夜」の世界を、ベル・エポック(輝かしき時代)と謳われた古き良き時代のパリ・ピガールに置き換え、ミュージック・ホール ムーラン・ルージュを舞台に、その創設者で支配人の シャルル・ジドレール、作家のウィリー、画家のロートレックなど実在の人物をからませ、華やかなレビューシーンも織り交ぜて描いた明るく楽しい祝祭劇。
これ、何回でも観たくなるやつです。
宝塚歌劇 月組公演
ミュージカル 「ピガール狂騒曲」 ~シェイクスピア原作「十二夜」より~
作・演出: 原田諒
作曲・編曲: 玉麻良一
振付: 羽山紀代美 麻咲梨乃 AYAKO 百花沙里
装置: 松井るみ 衣装: 有村淳
出演(松本悠里さん以外)、観劇日時は「WELCOME TO TAKARAZUKA」と同じ (こちら)
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1900年 万国博覧会が開催された年のパリ。モンマルトルの丘の麓の歓楽街ピガールが物語の舞台。
母を亡くしたジャンヌ(珠城りょう)が借金取りのギャング一味から逃れるため髪を切り男装してジャックと名乗り、ミュージック・ホール ムーラン・ルージュに仕事を探しに来ます。支配人のシャルル(月城かなと)は経営不振を打開するため新作レビューを打ち、人気作家ウィリー(鳳月杏)の妻ガブリエル(美園さくら)を主役に据えようと考えており、ジャックにガブリエルの出演承諾を得ることができたら秘書として雇うと告げます。ウィリーのゴーストライターに嫌気がさし離婚を申し出たガブリエルは交渉に来たジャックにひと目ぼれし・・・。
ジャンヌが男装して女性であることを隠してムーラン・ルージュで働く
ジャンヌには瓜二つの兄がいる(双子ではなくて腹違いだけど)
という2点が「十二夜」からのプロットですが、思った以上に「ちゃんと十二夜」でした。
そして、主役とはいえこの男装する女性=ヒロインに、現在の5組トップの中でも最も男らしくてたくましい珠城りょうさんをもってくるというのが何と言ってもすごい(笑)。
♪もしもこの世界が劇場なら 人は誰もが道化役者
という主題歌の歌詞が「この世は舞台 男も女も役者にすぎない」というシェイクスピアの言葉を思い起させます。シャルルが「恋はまことに影法師、いくら追っても逃げて行く・・・」とシェイクスピアの言葉を引用したりもして、原田先生のシェイクスピアへのリスペクトを感じます。
ムーラン・ルージュの主であるシャルルを通じて、舞台への愛を込めているところもとても好き。
バックステージものにもなっていて、華やかなレビューシーンはもとより、レッスン風景や化粧前なども描かれ、舞台好きの心をくすぐります。
レビューの場面で、舞台奥が鏡になって客席の私たちが映し出される演出は蜷川幸雄さんのシェイクスピア劇を思い出しました。
ジャンヌと兄のヴィクトールを演じ分けた珠城さんはもちろん、シャルル、ウィリー、ロートレックという3人のイケおじをはじめ、個性豊かで芝居巧者の月組の面々がイキイキと物語の中を闊歩して、やりすぎず程よく散りばめられるアドリブはとても楽しく、キャッチーな楽曲、センスよい衣装、素敵な舞台装置、そして多幸感に満ちたハッピーエンディングと何回観ても楽しくて幸せな気分になる舞台。
つまり、私はこの作品が大好き、ということです。
唯一惜しむらくは、ガブリエル以外に娘役にこれといった役がないことかなぁ。
舞台奥にムーラン・ルージュの赤い風車がそびえ、にぎやかに人々が行き交うピガール広場。
最後にパリに行ったのは10何年前になるでしょうか。
そうそう、こんなだったなぁ。ムーラン・ルージュにも行ったけれど深夜でとにかく眠かったなぁ(時差ボケで)と懐かしく思い出しました。
いくつか印象に残った場面、好きなシーンを。
ムーラン・ルージュでショーを観たばかりのウィリー夫妻が記者たちに囲まれて登場するところから始まります。
ここの美薗さくらさんガブリエルの黒白ストライプのドレスの似合いっぷりにまず驚き、記者たちのウィリーへのひと言ひと言を黙って聞きながら笑ったり顔を曇らせたり、細かく表情を変える緻密なお芝居に感心。
さくらちゃんはムーラン・ルージュ出演の承諾を言いに来るシーンのゴージャスな黒いドレスもとても綺麗に着こなして素敵でした。
スカステの「Sumire Camp」で同期の朝陽つばさくんにほめられて、「ドレスがとても素敵なので助けられてる」と謙遜していましたが。
閑古鳥が鳴くムーラン・ルージュで飲んだくれているロートレック。
そこに登場するシャルル・ジドレール。
髭にシルクハットにブーツにステッキ、控えめに言っても最強です。
♪わが名はシャルル・ジドレール ムーラン・ルージュの主 命ある限り 赤い風車回し続ける~ と歌い踊るシャルルの周りを固めるのは、振付師ミシェル(光月るう)、掃除婦ヴァネッサ(夏月都)デザイナーのフローレンス(紫門ゆりや)、衣装デザイナー セドリック(春海ゆう)、エドモン(佳城葵)そしてロートレック(千海華蘭)と上級生の芸達者ばかり。
シャルルは傲慢な経営者のようでいて、ムーラン・ルージュとそこで人々に夢を与えることをとても真摯に考えている人。
貧しかった少年時代に広場に来た人形劇を見て感激し、「これを本物の人間でやったらどんなにすばらしいだろう。マリオネットよりも綺麗な女の人を集めて劇場をつくるんだ」と思ったとジャックに語るところは泣きそうになりました。
踊り子たちにも「私の考えについて来られない者はやめてもらう」とけんもほろろですが、ちゃんと衣装の仮縫いには付き合うし、「今までにない洗練されたデザインにさせたんだ。きっとあの娘たちに似合うだろう。彼女たちあってのムーラン・ルージュだからな」と言うところも胸熱です。
そんなシャルルだからこそ、「ラ・ヴィ・パリジェンヌ」がめちゃめちゃになってすべてを失って、茫然と舞台を見つめ切々と歌いあげるシーンは胸が締めつけられるよう。
ムーラン・ルージュの踊り子たちがわちゃわちゃ出てくるシーンもどれも好き。
シャルルが新しいショー「ラ ・ヴィ・パリジェンヌ」をやると聞いて、「主役は私よ」「私がやる」と我先に手を挙げるところとか、ダンスレッスンするところとか(女性ダンサーには厳しく、男の子たちにはいいわよ~と甘いミシェルとか)、「ジャック・ヴァレット カッコよすぎる」みたいにみんなで歌うところとか。
男性ダンサーたちの中では、暁千星くんが目立つのは当然として、英かおとくんの端正なイケメンぶりが目を惹きました。
女性ダンサーでは結愛かれんちゃん。「私、わたし~」って飛び上がるところ、超キュート。
そしてもちろん「ラ・ヴィ・パリジェンヌ」のレビューシーン。
衣装もかわいいフレンチカンカン楽しすぎる。あの場面だけでも100回リピートできます。
暁千星くんレオの何回まわるの?な全く軸がぶれないピルエットや、ラストのみんなに抱え上げられて脚が前後に180℃まっすぐに開いているところとか、超絶テクが凄いのはもちろん、男性ダンサー全員同じタイミングで同じ綺麗な形で側転するのもすばらしい。もちろん女性ダンサーたちも。
それだけでも目が足りないのに、女装したボリス(風間柚乃)がそこここで転んだり周りの子に怒られたり、側転?ムリムリ~とかできた~とか小芝居していて目が忙しい。
ラストは絵に描いたようなハッピーエンド。
珠城さんヴィクトールの影武者(?)役は蒼真せれんくん。
プログラムの写真見ても面差しが珠城さんに似てます。よく同じ組にこんなに似てる人がいたものですワ。
ヴィクトールは結構軽めでポジティブな明るいおぼっちゃまで、ガブリエルにひと目ぼれしてすぐキスしてプロポーズしちゃうような人ですが、ガブリエルは元々女性とは知らずにジャックが好きだったはずなのに、顔が同じというだけでどーなん?とも思いますが、まぁハッピーなのでよしとしましょう。
■アドリブコレクション
他にも細かいところはいろいろありますが、以下の3つが主なアドリブ場面
◇シャルルのロングトーン
シャルルがジャックに舞台に出るよう頼んで「お願い~~~~~」とロングトーンで歌うシーン
観るたびに長くなっていました。
10/25に観た時は長~くのばした後、「絶好調だ」と自画自賛(^^ゞ
いや~、れいこちゃんすごいワ。
◇マルセルのチケット
ムーラン・ルージュに入ろうとするマルセルがエドモン(佳城葵)に「お客様チケットを」と止められるシーン
初めて観た時(9/27)、「なにぃ~💢」と凄みながら「4人でいくらですか?」と子分の分まで払おうとする律儀なマルセルに爆笑したのですが、後々ここがアドリブになっていると知りました。
10/29は エドモン「 お客様チケットを・・・」 マルセル「 なにぃ〜っ いくらだ?」 エドモン「本日は完売しております」
マルセル 珠城さんのバースデイには「お誕生日割引ありますか?」、ハロウインには帽子の下に猫耳つけて「仮装割引ありますか?」と言っていた模様。
◇ウィリーとロートレックの喧嘩+ジャンヌ+その後の橋
墓場でもウィリーとロートレックの喧嘩は鳳月杏さんと千海華蘭さんという同期ならではの息と遠慮のなさ(?)で毎回とても楽しい場面になっていました。そこに割って入るジャンヌもシレっとアドリブかまして、珠城さんの適応力の高さよ。
からんちゃんがちなつさんの脚の長さをネタにすることが多いのですが、
「あの酔っ払い、俺のことをほめてるのかけなしてるのか」とウィリー(10/9)
10/29は、ロートレック「 冗談は脚の長さだけにしろよ!」に割って入ったジャンヌ(ウィリーの方向いて)「少したたんだらどうですか」
そしてその後の橋渡りのウィリー「 私には橋なんて必要ないんだ(大股で二歩で渡るw)」
ジャンヌ(ジャック)・ヴィクトール二役の珠城りょうさん。
意外にもジャンヌの乙女な感じがよく出ていてオドロキ。
メイクもいつもの男役の時よりふんわりやさしい雰囲気。無理して男っぽく見せようとしていたり、シャルルに心惹かれていく感じも自然でした。ガラリと変わる訳ではないけれど、ヴィクトールとの演じ分けもきっちり。
ラストのジャンヌとしてのシャルルとのキスシーンは一世一代では?
ガブリエルの美薗さくらさん。
「I AM FROM AUSTRIA」のエマもそうでしたが、気が強い美人の役がとてもよくハマっています。
自立した(しようとしている)強い心を持った女性で、この作品の「カッコイイ」を一手に引き受けた感じ。コスチュームもどれもよく似合っていて、お芝居も歌唱も高度安定。退団を前にしてひと際大きく花開いた印象です。
シャルルの月城かなとさん。
これまでにも数々の名演ありますが、シャルルは屈指の当たり役だと思います。
声もビジュアルもこの役にピタリとハマって、まるで外国映画から抜け出てきたよう。
前述しましたが、シャルル・ジドレールは傲慢な経営者のようでいて誰よりもムーラン・ルージュを愛している人物。人生の苦味も知っている。イケおじで色っぽい。ジャンヌじゃなくても好きになるよねー。
シャルルは実在の人物ですが、原田諒先生、本当にいい役に書いてくれました。
ウィリーの鳳月杏さん。
こちらもイケおじです。脚長いし(笑)、髭もよくお似合い。
憎らしいキャラクターなのですが、コミカル寄りなこともあってか、ちなつさんが演じるとどこか憎めない人になっちゃう。
少し前に「CASANOVA」のコンデュルメル夫人をTVで観たばかりでしたので、そのふり幅の大きさに改めて感心。ほんとお芝居上手いなぁ。歌をもっと聴きたかったけれども。
忘れちゃならないロートレックの千海華蘭さん。
この役にからんちゃんをキャスティングした原田先生の慧眼に乾杯。
もう私の中ではロートレック=からんちゃんが固定されました。
キラッキラ華のあるスターダンサー レオの暁千星さん、相変わらず芸達者なボリスの風間柚乃さん、オネエだけど芸術には誇りを持っているミシェルの光月るうさん、強面だけどどこかかわいいマルセルの輝月ゆうまさん、小顔で端正な秘書ぶりに目が吸い寄せられるフィリップの夢奈瑠音さん、シャルルの縁の下の力持ち エドモンの佳城葵さん・・・一人ずつ挙げていたらキリがないくらい、皆さんとてもよかった。
フィナーレは、暁千星さんソロ → 初舞台生ロケット → 珠城りょうさん+娘役ダンス → 男役黒燕尾 → デュエットダンス という流れ。
赤いスパンコールスーツキメたありちゃん素敵だし、初舞台生のロケットはいつもウルウルしてしまうし、娘役さんたちみんなエレガントだし。
まだ娘役たちがステージで踊っている時、薄暗い大階段にザッザッという感じで男役たちが降りてくるのが震えるくらい好き。
そして大階段に男役並ぶ中、真ん中降りてくる月城かなとさん。
上手から鳳月杏さん、下手から暁千星さん、
一通りみんなで踊った後、大階段センターに立つ珠城りょうさんの絶対的存在感。
振付も、途中で転調する曲もカッコよくて、「は~、黒燕尾観た」という気分になりました。
フィナーレ
美薗さくらさんがブルーで月城かなとさんがピンク(どちらもスモーキーな)なの、新鮮だったな。
初舞台生のロケット衣装も同じブルーとピンク。
それ以外はみんな白燕尾と白ドレス。そして、シャンシャンが綺麗な音の鈴で、珠城さんを迎える時にみんなが鳴らす鈴の音がとても幸せな音に聞こえました。

エトワール:白雪さち花
夢奈瑠音・紫門ゆりや・蓮つかさ
海乃美月・風間柚乃・天紫珠李
暁千星
鳳月杏
月城かなと
美園さくら
珠城りょう


珠城さんのアクリルカードでいろいろ遊んだわぁ

年をまたいでの東京公演も無事に完走できますように のごくらく度


