2020年10月18日
今この時だからこそ、大人のおとぎ話 「ベイジルタウンの女神」
ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが公私にわたってパートナーである女優の緒川たまきさんと立ち上げた新ユニット「ケムリ研究室」。
「記念すべき一作目は賑やかで誰もが楽しめる作品にしたいと考えています」とフライヤーのケラさん。
緒川たまきさんを主演に据えて、豪華キャストが名を連ねますが、「豪華さは別に狙ってない。高田聖子ちゃんはよく知ってるのに舞台を一緒にしたことなかったし、仲村トオルくんとは定期的にやりたいなと思ってた」「舞台に対する真剣さ、真摯さ、舞台という活動を大切にしてくれる人だけを選んだ。大切の仕方は人それぞれだけど。初めての人は嗅覚で選んだことになるかな」と某ラジオ番組で話していらっしゃいました。
ケムリ研究室vol.1
「ベイジルタウンの女神」
作・演出: ケラリーノ・サンドロヴィッチ
振付: 小野寺修二 映像: 上田大樹
音楽: 鈴木光介 美術: BOKETA 照明: 関口裕二
出演: 緒川たまき 山内圭哉 菅原永二 尾方宣久 高田聖子 植本純米
仲村トオル 水野美紀 温水洋一 犬山イヌコ 吉岡里帆 松下洸平
望月綾乃 大場みなみ 斉藤悠 渡邊絵理 荒悠平 高橋美帆
2020年10月4日(日) 4:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
1階I(アイ)列センター (上演時間: 3時間30分/休憩 15分)
物語: ロイド社の社長マーガレット・ロイド(緒川たまき)は、貧民街ベイジルタウンの再開発のため、その一角の所有者であるソニック社社長タチアナ(高田聖子)と譲渡交渉をします。かつてロイド家の小間使いだったタチアナの出した条件は、「マーガレットが無一文で1ヵ月間ベイジルタウンで暮らすこと」。
婚約者のハットン(山内圭哉)の心配をよそに単身ベイジルタウンに乗り込んだマーガレットは、不愛想ながら人のよい王様(仲村トオル)、しっかり者のハム(水野美紀)兄妹をはじめドクター(温水洋一)、サーカス(犬山イヌコ)などベイジルタウンの人々と出会い、心を通わせていきます・・・。
まるで大人のおとぎ話のよう。
優しくて温かい。そして観終わった後にはとても幸せな気分になって、幸せなのになぜか涙が出てしまうという。
スリリングな冒険、女同士の甘酸っぱい友情の記憶、陰謀、恋も、勧善懲悪も、と盛りだくさん。
そのすべてが流れるように物語の中に組み込まれ、登場人物がイキイキと闊歩する世界は楽しくてかわいくて多幸感に満ちています。
お嬢様育ちで苦労知らずのマーガレットが、これまで経験したことがない事態に直面しながらも、ベイジルタウンに馴染んでいく様子がまずはおかしく楽しい。
純粋で人を疑うことを知らず、物怖じせず、欲しいものは欲しいときちんと主張して、ベイジルタウンの人々と交わり、彼らの生活に溶け込んでいくマーガレット。
そんな彼女をチキンと名づけて受け容れるベイジルタウンの人々-お金も仕事もないけれど、何ごとにも縛られず自由で、リベラルな視点を持ち、その日暮らしを楽しんでいるように見えます。王様もハムもドクターもサーカスも、ヤングもスージーも水道のハットンも、あて書きということもあってか、「ほんとにずっとここに住んでるんじゃないの?」というくらいイキイキしていて日常感たっぷり。
「その頃は乞食じゃなかった」という王様の台詞がありましたが、それぞれに事情を抱えて乞食となりベイジルタウンに住むようになった人々。その状況を嘆いたり過去を悔いている風でもなく、互いを思いやってはいるけれどいい意味で無関心で、個々の人間として生きている・・・その距離感や価値観は少しうらやましくも感じたり。
一方で、マーガレットの婚約者のハットンによるロイド社乗っ取り計画が着々と進んでいますが、ベイジルタウンでの“チキン”が身なりが汚くなるのと反比例するように心のハッピー感、無敵感が増していって、ハットンきっとアレな結末だな、と思える安心感(笑)。
マーガレットが最初は忘れていたタチアナとのストロベリージャムのエピソードもとても好き。
マーガレットがすっかり思い出して、当時の口真似をまじえながら二人で思い出語りするベンチのシーンは、観ていて思わず笑みがこぼれながらもウルウル。
幼いころに同じ年ごろの仲間たちと共有した宝物のような記憶、誰もいくつか持ってるよね。
ハットンの策略で一時はベイジルタウンの人々に背を向けられながらも、ほどなくやってくる大団円のハッピーエンド。
王様がマーガレットに気持ちを告げに来るところ、その前のヤングとスージーの告白シーンと対比にもなっていて、ケラさんうまいなぁと改めて思いました。
それにしても、「ベイジルタウンの女神」はともかく、「石油王」って、いや、ハッピーが過ぎるでしょ(笑)。
登場人物とそれを演じる役者さんはみんな愛おしい。
まずは何といっても、浮世離れしたお嬢様 マーガレットの緒川たまきさん。
こんなお嬢様はきっと生まれてから死ぬまでずーっと人生の「勝ち組」なんだろうなと思わせる無敵感。本当に豊かな環境で大切に育てられたお嬢様ってこうなのだろうなという説得力のあるおおらかさと純粋さ、怖いもの知らずの強さとしなやかさと品のよさ、愛らしさ。
ケラさんの作品の中で緒川たまきさんはいつも輝いていますが、とびきり心に残る役となりました。
実はこの作品、9月22日のライブ配信をガマンできずに観てしまったのですが、その時
舞台観るまでは配信ガマンと思っていたのにWOWOWの誘惑に負けて(←)
観てしまった「ベイジルタウンの女神」楽しかった。
緒川たまきさんのヒロイン力!ケラさんは当たり前だけどたまきさんの魅力を
知りつくしていて最大限に引き出せる演出家だなぁ。
10月の観劇がますます楽しみになりました。
とツイートしたところ、
そのすぐ後にケラさんが
ベイジルタウン配信で観た方が沢山呟いてくれてる。
緒川さんよかったでしょ?
トオルくんも水野も聖子ちゃんも圭哉も犬山も温ちゃんも純ちゃんも永二も尾方も
洸平も吉岡も望月も大場も良かったでしょ?
斎藤悠くんはじめダンサー達も。裏方さん達の(俺様含む)活躍っぷりも。
可能なら次はぜひ劇場で。
とツイートされていて(こちら)、まるで私のツイートへのリプライのようだわと思った次第(絶対に違う)。
そうそう、「ラスト近くのカメラの遊び、ふと思いついたんだけど、上手くいったようでよかった。ありがとうございました」ともツイートされていました。「1カメさん 寄って!」のところですね。あれは確かに映像ならでは。観られてよかったです。
剛腕ストレートでちょっぴりジャイアン風味の仲村トオルさんの王様、オトコマエでカッコいい水野美紀さんのハム、頑なさとそれが氷解したときのいじらしさが絶妙の高田聖子さんのタチアナ、とぼけた柔らかさを醸し出す温水洋一さんのドクターと犬山イヌコさんのサーカス・・・イヌコさんは別役のオババも楽しかった。
松下洸平さんヤングと吉岡里帆さんスージーの若く一途な恋。双子の切り替え鮮やかな山内圭哉さんのハットン。
弁護士なのにお笑い担当?の菅原永二さんのチャック、ひたすらお嬢様を思う執事ミゲールの尾方宣久さん、いかにも切れ者といったタチアナの秘書スタイラーとホテルの女主人、え~!同じ人なの?な植本純米さん・・・本当にみんな愛おしい人たち。
相変わらずスタイリッシュでカッコいいオープニングの役者紹介。
役者さんたちが踊りながら流れるように場面転換したり(振付:小野寺修二さん)、車がそのままソファになったりするミニマムだけど洒落た美術、上田大樹さんの映像も冴え渡り(アンサンブルの人たちが持つフリップに赤い絵の具が滴るプロジェクションマッピング、すごかったな)、豪華キャストに負けない“ケラ組”とも言える豪華スタッフが彩る舞台。
そして何より、ケラさんの、盛りだくさんのエピソードを積み上げ緻密に構築された脚本と演出。まさに人に役をあてた配役。それにすばらしい演技で応えた役者陣・・・この作品にかかわったすべての人に心からの拍手を贈りたい。
今年コロナで上演作が2本も中止になって(「桜の園」と「欲望のみ」)ひどく落ち込んだ時もあったというケラさんですが、そんな状況の中、こんなに幸せな気分で劇場を後にできる作品をつくり出してくださったことに感謝。
いろいろな意味で印象に残る2020年ですが、この年に「ベイジルタウンの女神」を観たこと、きっと忘れません。
お金がなくてもおなかが空いても、自由と幸せはそこにある のごくらく度 (total 2166 vs 2165 )
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