2020年10月17日
事実は何か 「十二人の怒れる男」
アメリカの脚本家レジナルド・ローズが陪審員を務めた実体験をもとに描いたテレビドラマが原作で法廷劇の金字塔とも呼ばれている作品。
ヘンリー・フォンダ主演の映画が有名で、洋画好きの父に連れられて観た記憶がありますが、幼いころであまり理解できず⤵
中井貴一さん主演の蜷川幸雄さん演出版が一番最近観たのかな・・・と調べたら2009年で、「11年も前かい!」と愕然としました。
COCOON PRODUCTION 2020
DISCOVER WORLD THEATRE vol.9
「十二人の怒れる男」
作: レジナルド・ローズ
翻訳: 徐賀世子
演出: リンゼイ・ポズナー
美術・衣裳: ピーター・マッキントッシュ
照明:勝柴次朗 音楽: かみむら周平
出演: ベンガル 堀文明 山崎一 石丸幹二
少路勇介 梶原善 永山絢斗 堤真一
青山達三 吉見一豊 三上市朗 溝端淳平(以上 陪審員番号順)
阿岐之将一
2020年9月24日(木) 6:30pm シアターコクーン 1階 ベンチシートZ1列上手
(上演時間: 2時間5分)
父親殺しの容疑がかけられている十代の少年の裁判で、12人の陪審員が有罪か無罪かを審議し、全員一致の評決に達するまでを描いた物語。法廷に提出された証拠や証言は被告である少年に圧倒的に不利なものばかりでほぼ全員が有罪と考える中、陪審員8番(堤真一)だけが異を唱え、「もし、我々が間違えていたら・・・」と発言したことから議論は熱を帯びてきます・・・。
舞台奥にも客席をつくったセンターステージ。
四方を客席に囲まれた舞台上に大きな長机と十二脚の椅子が置かれた陪審員室。
上手に出入口、下手は手洗所、奥と手間の客席側は窓という設定。
陪審員が入ってきてから、議論の末評決に至って出ていくまでをこの部屋の中だけで、ほぼリアルタイムに描いています。
リンゼイ・ポズナーさんはコロナ禍のせいで来日できず、リモートで演出されたのだとか。
民主主義と法の公正さを保つためには市民がきちんと考え、司法に参加しなければならないことの重要性を示唆した作品。
終始緊迫した2時間強。
結末を知っていても「次は?」「次はどの証拠を?」と、ひと言も台詞を聞き逃すまいと集中力途切れることなく観ました。
1950年代のアメリカの話で、任意に抽出されたはずの陪審員だけれど女性も黒人もいない、全員クラシカルなスーツ着用など時代を感じますが、「殺人事件」が根本にありながらも、議論の中で露わになる人種差別や偏見、貧富や教育の差といった社会的な問題は普遍だなと思いました。
育ってきた環境も今生きている社会も、知性も教養も論理性も様々な人々の、そんな諸々の側面をあぶり出しながら、証拠をひとつ、またひとつと検証して反転していく作劇が鮮やか。飛び出しナイフ、眼鏡といったアイテムの使い方もエッジが効いています。
12人の陪審員は名前がなく番号だけで呼ばれますが、全員きちんとキャラクターが立っていて、それぞれの人となりも考え方も内包する問題も、議論を重ねる中で次第に明らかになっていきます。
終始議論をリードするのは8番 堤真一さん。
とは言っても、自分から積極的に発言するという訳ではなく、自身の疑問をぶつけて周りの人の考え(とそこに潜む矛盾)を引き出す感じ。
白いスーツ着て、冒頭からちょっと陰鬱な表情で佇む堤さん。
カッコよすぎなところもあるアメリカンヒーロー的な役回りで、もし私が陪審員の一人だったら、「こいつウザいな」と思うかもしれませんが(←)、市民として、陪審員として、「正しくあろう」という理想と信念を持った人物をとても誠実に演じていて好感。
「話し合いましょう」と相変わらずのいい声爆弾炸裂です。
この8番と最後まで対峙するのが3番 山崎一さん。
10番ほどわかりやすく露悪的ではないけれど、頑として自分の考えを曲げず、冷静に持論を展開して、最後の最後に自分の息子に対する感情を爆発させる・・・山崎一さんの説得力ある演技がこの役に一層陰影を与えていました。
その10番は吉見一豊さん。
怒鳴り散らしてヘイト発言を繰り返し、差別や偏見の醜さを露呈して客性の嫌悪感を一身に集めるような役ですが、とても印象的でした。あの声がこの10番のイメージにぴったりで、キャスティングすごいなーと実感。
論理的で理知的な4番は石丸幹二さん。
物事は筋が通っていなければならないと考えている人物で常に状況を冷静に分析。
最後の眼鏡のシーン、よかったな。
役柄上、4番はあまり席を立って動くことがなく、私の席からは終始背を向けている位置だったのですが、言葉一つひとつが明瞭に聞こえる台詞術はさすがです。
スラム育ちで、「飛び出しナイフ」の鍵を握る5番の少路勇介さん、ドイツから亡命してきたおそらくユダヤ系と思われる11番 三上市朗さんはそれぞれ自分の出自に屈折を抱えているよう。
口数少なく穏やかなながら鋭いところのあるご老人 9番の青山達三さんと、ヤンキーアメリカンボーイな7番 永山絢斗さん、いかにも広告代理店勤務な軽薄でチャラい12番 溝端淳平さんという若い層との対比もおもしろい。
集められた証拠や証言ではなく、事実は何か。
合理的な疑いの余地はないと言えるのか。
時に冷静に分析し、時には激高して怒鳴り合う・・・終始途切れることなく白熱した議論が展開される台詞劇。
見応え、聴き応えたっぷりの2時間5分でした。
そして、観終わった後、三谷幸喜さんの「12人の優しい日本人」が、この映画のオマージュとしてとてもよくできている作品だと改めて感じ入ったのでした。
今回ワタシ、ベンチシートのこの席●でした。
ご覧になった方はおわかりかと思いますが、この目の前の客席ギリギリの位置に堤さん(と他の役者さんも)立つことが多くて、うれしいのだけど近すぎて目のやり場に困るという。集中力途切れてコマッタ(笑)。
実はここ、9/18まではフェイスシールド着用対象席だったのですが、規制緩和されて私が観た時は着用自由になっていました。
この夏、あっつ~い京都💦でマスクにフェイスシールドでちょっと気が遠くなりかけた苦い思い出のある私は少しホッとしたのでした。
去年の10月以来11ヵ月ぶりのシアターコクーン。観に行こうかどうしようか迷ったけどこの舞台見逃さないでよかった のごくらく度 (total 2165 vs 2165 )
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