
第三部は秀山ゆかりの狂言として「双蝶々曲輪日記 引窓」が上演されました。
この演目はこれまで何度も拝見していますが、上方狂言という印象が強く、播磨屋さんゆかりというのは少し意外な気がしました。
当代吉右衛門さんの濡髪も観たことがなくて「観てみたい」と思ったものの、先に次の観劇予定を決めていたのでスケジュール的に無理かなと当初はあきらめていました。が、上演時間を予想して「ええ~い!ダッシュで行けば何とかなるでしょ」と観ることにしました(実際何とかなってダッシュしなくても余裕で行けた)。
「かさね」は一等席必須でしたので、こちらは普段なら三階で観るところ、チケット代がお安いこともあって少しでも課金をと二等席奮発よ。
この日の歌舞伎座は台風12号による強風のためか懸垂幕がおろされていました。
九月大歌舞伎 第三部
秀山ゆかりの狂言 「双蝶々曲輪日記」 引窓
出演: 中村吉右衛門 尾上菊之助 中村歌昇 中村種之助
中村雀右衛門 中村東蔵
2020年9月24日(木) 4:15pm 歌舞伎座 1階17列下手
(上演時間: 1時間10分)
京都近郊 八幡の里。南与兵衛(菊之助)は、父の後妻である義母お幸(東蔵)と女房お早(雀右衛門)と暮らしています。仲秋の名月を明日に控えた日、幼い頃に養子に出されたお幸の実子、相撲取りの濡髪長五郎(吉右衛門)が訪れます。長五郎は主筋への義理で人を殺めてしまい、母に一目会おうとやってきたのでした。そこへ代官にとり立てられ、十次兵衛を名乗ることを許された与兵衛が帰ってきます。与兵衛に命じられた代官としての初仕事は、長五郎を捕縛することでした・・・。
吉右衛門さんの濡髪に菊之助さん十次兵衛、東蔵さんのお幸、雀右衛門のお早、役人の平岡と三原は中村歌昇、種之助兄弟とお江戸の役者さん揃いの「引窓」。
上方歌舞伎を観慣れた目にはとても新鮮。
開演してから、「濡髪吉右衛門さんだけど十次兵衛だれ?だれだっけ?」と考えていて、花道から登場する直前に「そうだ!菊ちゃんだ!」と思い出すくらい、私にとっては意外な配役でした。
濡髪を逃がそうとするお幸、十次兵衛に義理立てして捕らえられようとする濡髪、そしてお幸の思いを察して濡髪を助けようとする十次兵衛。名月が輝く夜、それぞれがそれぞれを思いやる切ない物語にナミダ

吉右衛門さん渾身の濡髪すばらしい。
義太夫狂言というよりもリアルな台詞回しといった印象ですが、声の調子を少し変えるだけで追い詰められた境遇を感じさせる緻密で説得力のある芝居。「同じ人を殺しても、運のよいのと悪いのと・・・」のところも、さり気ない中に自分が犯してしまった罪への悔恨や「運がよい」与兵衛への複雑な思い、そして諦念といったものが浮かび上がってきます。
母のたつての願いを聞き入れた「剃りやんす、落ちやんす」も特に声を張っている訳ではないのに苦しい心情がひしひしと伝わります。
わが子との久しぶりの再会に浮かれたのも束の間、実の子と義理の息子との狭間で苦悶しつつ何とか濡髪を助けたい一心の東蔵さんのお幸、控えめで夫に従いながらも姑の心情を思いやり、力を添えようとする雀右衛門さんのお早・・・二人の女たちの深い情が優しく切ない。
菊之助さんの十次兵衛はこの山里には綺麗すぎ(お顔が)と思ったのですが、お芝居が進むにつれて気にならなくなりました。
真摯な十次兵衛。
義理の間柄とはいえ母思いの孝行息子で、それゆえに母の願いを何とか叶えてやりたいという心情がよく伝わってきました。今回初役で吉右衛門さんに教わったということですが、音羽屋さんと播磨屋さん、両方の芸を継承していく菊之助さん、重責だと思いますがこれからも楽しみです。


移動は最小限にしたかったことと、次に歌舞伎座に来られるのはいつになるかわからないということで、心残りがないように(?)二部と三部の間には歌舞伎座そばの喫茶Youさんでオムライス。久しぶりにいただきましたが、相変わらずふわとろでおいしくてあっという間に完食です。
三部の一階花外 観客3人しか座っていませんでした。平日とはいえキビしいなぁ の地獄度


