井上芳雄さんと坂本真綾さんが2012年からライフワークのように再演を重ねて今回が5演目。
私は2014年の再々演から観ていて今回が3回目です。
こういう状況下ということもあってか、これまでで一番心に染み入りました。
ミュージカル 「ダディ・ロング・レッグズ」
足ながおじさんより
原作: ジーン・ウェブスター
音楽・編曲・作詞: ポール・ゴードン
編曲: ブラッド・ハーク
翻訳・訳詞: 今井麻緒子
脚本・演出: ジョン・ケアード
出演: 井上芳雄/ジャーヴィス 坂本真綾/ジルーシャ
2020年9月13日(日) 5:00pm シアター・ドラマシティ 7列センター
(上演時間 2時間50分/休憩 30分)
これまでの観劇
2014年
2017年
原作本感想
オープニング
舞台下手から出てきたジルーシャが♪一番年上のみなしご と自分のことを歌いながら上手のトランクに座って、多分客席ほとんどまだジルーシャを観ているころ、奥のほの暗い部屋に静かに入ってきて、入口で帽子を脱いで帽子掛けにかけ、鏡の前に立って髪を整える、というジャーヴィスの登場シーンが大好きなのですが、目の前に変わらぬその光景が広がって、「ああ、ジャーヴィスだぁ」と胸がいっぱいになってウルウルしました。
練り上げられた脚本と緻密な演出、心に響く歌詞と楽曲、表現力豊かな役者さんの演技と歌唱。
本当によくできた作品で、ジルーシャがジャーヴィスにあてた手紙がほとんどなのに、ジルーシャが暮らす寮や、友人たちとの様子や、夏休みを過ごす農園や、ニューヨークの街などが私たちの目の前に鮮やかに広がります。
ジルーシャがロックウィロー(農園)に着いて、そのことをダディに手紙で知らせるシーンで、ジルーシャとジャーヴィスがそれぞれ上手下手の窓を開けると白いカーテンがふわりと揺れてそこから光が射し込み、本当に目の前に農場が広がっているように感じて、またウルウル。
演劇の力、役者さんの表現力って本当にすごいと思いました。ここで泣いたのは3回目で初めてだったなぁ。
もう一つ、これは毎回泣いてしまうシーンなのですが、きちんと膝をついて申し込んだ結婚をジルーシャに断られたジャーヴィス。
“ダディ”宛に送られてきたジルーシャの本当の心を綴った手紙を読んだ後、♪君が何気にくれたもの あげることはできなかった チャリティ 誰が誰を助けている と涙をぽろぽろこぼしながら歌う姿がとても切なくてまた涙。
暗くなった中、デスクの前に座り、ハンカチでそっと涙をふいて、決意してジルーシャに初めての手紙を書くジャーヴィス。
観ていて心が痛かったです。
井上芳雄さんは、お金持ちの家に生まれて無意識のうちに傲慢さを身にまとい自信満々のところから、ジルーシャの手紙をおもしろいと興味を持ち、病気を心配して薔薇の花を送ったり、嫉妬したり、ジャーヴィス・ペンドルトンとしてジルーシャの前に現れたり、人間味あふれるジャーヴィスを時にはちゃめっ気たっぷりに、時に大人の男としてふり幅広く演じていてとても魅力的。
声の表情が豊かで緩急自在の歌唱も聴きごたえあります。
坂本真綾さんは初演から8年も経過しているとは思えない初々しい18歳から、大学で学び、周りの人々と交流し成長していく、好奇心たっぷりで勝気なジルーシャを喜怒哀楽豊かに表現。相変わらず台詞も歌もとても聞き取りやすい。
ジャーヴィスがずっと考えていたけれど上手く表現できなかったことをストレートに、そしてウィットに富んだ言葉で綴るジルーシャはしなやかな感性を持つ賢い女性。ジャーヴィスが惹かれるのも無理ないよね~。
ジルーシャの成長物語であるとともにジャーヴィスの成長物語でもある「ダディ・ロング・レッグズ」
この2人なくしてあり得ないなぁと改めて思いました。
多幸感にあふれ、観終わった後間違いなく心が温かくなる作品。
このような状況の中、大阪で観ることができて本当によかったです。
このような状況・・・ということを考えるととても適した作品とも言えるでしょうか。
「離れていて会えないけれど心はそばに」というメッセージが感じられる作品。
登場人物は2人で、なおかつほとんどがジルーシャの手紙なので2人が近づいてお芝居する場面が少なく、いわゆる感染予防対策としての演出変更は不要だったのではないかしら。
井上芳雄さんが開幕前のインタビューで、「出演者は2人。舞台上ではずっと距離を取り続けていて、今を生きるための幸せの秘密を届ける物語。初演からずっと一緒の同志・坂本真綾さんとともに劇場でお客様をお待ちしています」と話していらっしゃいました。
坂本真綾さんは「日々のささやかな幸せをできるだけ大きく感じられるように、そして訪れる障害をなるべく笑ってやり過ごせるように。きっと多くの方がまさに今欲している何かが、この物語に詰まっています」と。
そう、この半年以上、様々な我慢を積み重ねて、コロナ下の生活にも順応してきて、少しずつ日常が戻りつつあるように感じている私たち。
それでも、この状況が終わる日が来るのか、出口が見えないような不安がくすぶり続けているのもまた事実。
「日々のささやかな幸せをできるだけ大きく感じられる」心を持ち続けていたいと、しなやかで強いジルーシャを観ていてそんなことを感じた3回目の、”コロナ状況下の”「ダディ・ロング・レッグズ」でした。
カーテンコール
大阪に来られてよかったと声を揃える井上芳雄さんと坂本真綾さん。
井上: 僕たちも劇場とホテルの往復で何の楽しみもない・・・いや、舞台に出ていることが楽しみなんですけどねっ!今まで大阪に何を楽しみに来てたんだか・・・。
坂本: 私はそんなことないです。
井上:え?そう来たか。 後で話し合いましょう。
と息ぴったり(?)なお二人にも癒されました。
3年後も6年後もまたこの2人で観たい のごくらく度


