
6月27日から毎週土曜日に生配信されてきた「図夢歌舞伎」は本日千穐楽。
「忠臣蔵」全十一段を演じ終えてのアフタートークではこの「図夢歌舞伎」への思いを聞かれた幸四郎さんが感極まって涙する姿に胸いっぱい・・・あの時、ライブで観ていた人は誰もが(もちろん私も)「幸四郎さんっ!!」と心の中で叫んだのではないかしら。
舞台中継や歌舞伎の映像化とは一線を画す、オンライン配信専用の作品として、新しい形での歌舞伎公演。
私たちには計り知れない強い思いも覚悟もあったことを、あの涙で再び感じ入りました。
「仮名手本忠臣蔵」の世界を今回のオンライン配信のために新たに構成して「通し狂言」として全十一段を5回に分けて上演するというもの。
幸四郎さんは「半生(はんなま)とおっしゃっていましたが、舞台同様のリアルタイムでの芝居にこだわりつつ、Zoomのシステムを使って別空間で演じる役者さんや事前収録の幸四郎さん自身とリアルタイムの幸四郎さんが画面上で共演するという趣向。想像以上に本格的な歌舞伎公演でした。
配信開始時間も歌舞伎の昼の部開演時間の11時にこだわったという幸四郎さんの意気に応えて、全5回 11時からリアルタイムで、ソファに寝そべったりせず←、PCの前で椅子に座って、部屋の照明も消して、劇場感覚で毎回楽しく拝見しました。
一回目から順に振り返りたいと思います。
図夢歌舞伎 『忠臣蔵』 第一回 「大序から三段目」
構成・演出: 松本幸四郎
脚本: 戸部和久
鳴物: 田中傳左衛門社中 田中傳左衛門 田中長十郎 田中傳四郎 田中傳十郎
技術協力: 劇団ノーミーツ
制作: どこでも歌舞伎有志一同
出演: 高師直/塩冶判官/加古川本蔵:松本幸四郎
顔世御前:中村壱太郎
口上人形:市川猿弥
後見:松本幸蔵 中村翫之 松本幸次郎
2020年6月27日(土) 11:00am Streaming+
(配信時間: 本編 30分+トークイベント 30分)
配信開始時間前、PC前にスタンバイしていると、定式幕が映し出され、前演奏が始まって、それだけで「ああ、歌舞伎だ~」と何だかウルウル。
やがてその定式幕がゆっきくりと開き、猿弥さんの口上人形(声だけかと思っていたら人形遣いも猿弥さんでした)が、「三密を避け濃密に。夢を図る歌舞伎、“図夢歌舞伎”」と言うのを聞いてさらにウルウル。
第一回は「大序から三段目」で、鎌倉鶴岡八幡宮の社頭での兜改めから始まって、塩冶判官が足利館松の間で高師直に刃傷に及ぶまでが描かれます。
幸四郎さんは高師直、塩冶判官、加古川本蔵の三役を演じていらっしゃいましたが、ライブでは高師直で、あとの二役は事前収録だった模様。
顔世御前の壱太郎くんもライブでしたが、そこは「三密を避け」ですので、別のスタジオからのリモート出演。画面をつなぎ合わせるというスタイルでした。これが、別空間ながら演技の息を合わせ、動きを合わせて、顔世御前が投げた文が師直のところに飛んでくる場面なんて、「ほほぅ」と感心しました。
次の場面は、加古川本蔵が鶴岡八幡宮での出来事を心配して主人 若狭之助を思う場面。
この後の場面のキーパーソンともなる本蔵。思慮深く老獪な雰囲気で、幸四郎さん、師直との演じ分けも鮮やか。
■ 図夢ならでは
足利館松の間の場面は、これでもか、というくらいの師直のアップだったのですが、カメラが判官目線。
本当に師直がこっち(観ている私たち)に向かって暴言吐いているよう。
あぁ、判官にはこんなふうに見えていたんだ、こんなふうに師直に睨まれて、悪口雑言嫌味タラタラ言われてたんだ。そりゃ斬りつけたくもなるよね、とリアルに実感。
判官の畳に揃えた震える指先やギュッと噛み締めた口元のアップで怒りが沸点に達しているのがヒシヒシと感じられました。

■ トークイベント
拵えを落としたばかりでまだ羽二重の跡も残っている幸四郎さんと、壱太郎くん、猿弥さんご出演のアフタートーク。
足利館松の間の判官目線の場面は劇団ノーミーツさんの技術協力していただいたとのこと。
ノーミーツさん、全く存じ上げませんでしたが、フルリモート劇団なのですって。
高師直と顔世御前の場面はものすごく稽古した、と壱太郎くん。
幸四郎さんも「場当たりにあんなに時間かけたのは初めて」と。
背景もバーチャル映像使えば簡単でしょうに、あえて人の手を加えた書割りにこだわって、絵の大きさも歌舞伎座と同じにしたとおっしゃっていました。
そういえば、猿弥さん口上人形、大序で「足利直義」を「義貞」と言っていて、「うん?今義貞って言った?新田義貞はもう死んでるんだよね?」と思っていたのですが、アフタートークで「名前間違えちゃった💦」としきりに反省されていました。
猿弥さんは配信料について、「4700円!高いなぁ〜!!」と言いたい放題(笑)。
音声が小さくて聞き取れない、たまに画像がフリーズするなどトラブルもありましたが、半生ならでは、映像ならではの楽しさを堪能。
金糸が綺麗な師直の衣装をこんなに近くで見られたり、判官目線の師直、判官の口元や指先のアップ、衣擦れの音などナド、幸四郎さんはじめスタッフの皆さまがたくさん考えて工夫された跡もたくさん感じられ、あぁ、歌舞伎だぁ再び。
チケットを買って、初日を心待ちにしてその日を迎え、定式幕の前で開演を待つ・・・
劇場に行くって、歌舞伎を観るってこうだったと思い出させてくれた図夢歌舞伎。
本当にありがとうございますという気持ち。
幸四郎さんの師直と本蔵、壱太郎くんの顔世御前は今回が初役。
いつか本興行で観るのも俄然楽しみになりました。
アーカイブでは音声トラブルもクリア のごくらく地獄度



