2020年05月17日
マシュー・ボーンの「白鳥の湖」 @MEET ME AT THE OPERA
今の時期は、日本の演劇や古典芸能ばかりでなく、海外のミュージカルやオペラなど舞台作品もフリーで映像を視聴できる機会に恵まれてありがたいことです。そんな中、私が俄然食いついたのがこちら。
Matthew Bourne’s Swan Lake, 2012
Music by Pyotr Ilyich Tchaikovsky
Directed and Choreographed by Matthew Bourne
New scenario by Matthew Bourne
Directed for Screen by Ross MacGibbon
Cast:
Richard Winsor: The Swan / The Stranger
Dominic North: The Prince
Nina Goldman: The Queen
Steve Kirkham: The Press Secretary
Madelaine Brennan: The Girlfriend
Joseph Vaughan: The Young Prince
New Adventures Dance Company
Recorded live in 2012 at Sadler’s Wells Theatre, London
(上演時間: 2時間)
白鳥を男性が踊る・・・マシュー・ボーンの「白鳥の湖」といえば、何度も来日公演が開催されていて、そのたびに「観たい」と思いながら公演期間が短いこともあってなかなかスケジュールが合わず(2003年にはフェスティバルホールで公演があったことを後で知りました💦)。シネマ版も上映されましたが、「まずはナマの舞台観てからよ」とガマンしていました。でもそんなこと言っていたら本当に観られなくなると今回のことで改めて感じましたので、思い切って観ることにしたのでした。
楽曲はチャイコフスキーですが、ストーリーはバレエで知っているのとは別物。
母親である女王からの愛に飢えて育ち、母に認めてもらえないガールフレンドとの写真をパパラッチに撮られてた王子は絶望して公園の池で入水自殺を図ろうとしますが、そこで出会った白鳥たちの群れの中で、ひときわ猛々しく美しいザ・スワンに一目惚れして生きる意欲を取り戻します。
ある夜のパーティーにザ・スワンそっくりのザ・ストレンジャーが現れ、会場の女性たちを次々虜にしていき、ついに女王までも・・・。王子は動揺してパニックになり、銃を取り出しますが、結局取り押さえられ、病人扱いされて軟禁状態となります。そこに再び白鳥たちが現れ、王子を攻撃しはじめます。ザ・スワンは必死で彼を守ろうとしますが・・・。
ザ・スワンに恋する王子。
マザコンで公務にうんざりしているとか、母である女王との確執とか、現代的なアレンジがおもしろい。
オリジナルの「白鳥の湖」では白鳥(オデット)と黒鳥(オディール)は一人二役で同じバレリーナが踊りますがが、その設定もうまく翻案されていて、ちゃんと黒鳥(ザ・ストレンジャー)が一人二役で登場、しかもスリリングでセクシー。
それほど数多く観てきた訳ではありませんが、今まで観たどんなバレエ作品よりもストーリーがすっと入ってきました。むしろ下手な台詞があるよりわかりやすいくらい。
マシュー・ボーンさんは「踊りだけではなく物語を見せたい」という意図を持っていらっしゃるというのも至極納得です。
まだ幼いころの王子の寝室に始まって、宮殿やオペラハウス、いかがわしいクラブ、公園、舞踏会・・・と展開する舞台は、シンプルながらゴージャス感もある舞台装置。衣装はスワン以外はどちらかといえば演劇寄りな印象です。
秘書や召使いたちの動きなどコメディタッチの部分もありつつ、影の使い方などドキリとする演出が随所に。
王子と出会う前、月明かりの下、背を向け羽を閉じて滑るように舞台を下手から上手へと進むスワンの静謐なまでの美しさ。
公園の白鳥たちの群舞の力強さ。
王子の寝室の白い壁に映し出されるスワンの影の大きさ。
王子を取り囲む白鳥の群れの恐ろしさ。
ここ、上からの映像でした。舞台では絶対観られないアングルです。
必死で王子を守ろうとするスワンの切なさ・・・天を仰ぎ、絶望の声をあげるスワンに涙。
チャイコフスキーの「白鳥の湖」組曲の中でも最も有名な旋律「情景」が要所要所で異なるアレンジでドラマチックに流れるのも胸をギュッと鷲づかみされました。いや~、盛り上がるよね。
バレエやコンテンポラリーダンスに疎いのでキャストについてはよくわかりません。
この作品はアダム・クーパーの出世作としても有名ですが、今回の映像は2012年にロンドのSadler’s Wells Theatreで収録されたもので、スワンとストレンジャーはRichard Winsor
いや~、この方はもちろん、周りの白鳥たちも、「重力?何ですかそれ?」という感じの踊りです。
とても筋肉質で腕も力強くたくましいのですが、それが羽に見えるから凄い。
鍛え上げられた背中の美しさも必見です。
一転してストレンジャーでは危険なオトコの香りプンプン。
王子や女王、秘書といった主要な役はもちろん、一羽一羽の白鳥やその他の人たちに至るまで、とんでもなく高いスキルの持ち主であることが素人目にもわかります。
それにつけても、クラシックバレエの超王道作品をプロットは継承しつつ全く新しいアプローチで、を試みて成功させたマシュー・ボーンのすばらしさ。
はぁ、よいものを見せていただきました。
次回日本公演があったら絶対観に行かなければ。
シネマ版も観に行こうっと のごくらく地獄度 (total 2097 vs 2107 )
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