2020年05月07日

「12人の優しい日本人」を聴く・・・いや、観る


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この企画の情報を知ったのは4月29日。
近藤芳正さんのこのツイートでした。


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『拡散希望』とありましたので、すぐにリツイートしましたが、自分自身を含めて演劇好きの人たちがずんっ!と前のめりになるのが見えるようでした。


「12人の優しい日本人を読む会」
~よう久しぶり! オンラインで繋がろうぜ~

作: 三谷幸喜
演出: 冨坂友 (アガリスクエンターテイメント)
管理人: 妻鹿ありか (Prayers Studio)
発起人: 近藤芳正
出演: 甲本雅裕(1号)  相島一之(2号)  小林隆 (3号)  阿南健治 (4号)  
吉田羊(5号)  近藤芳正(6号)  梶原善(7号)  妻鹿ありか (8号)  
西村まさ彦 (9号)  宮地雅子(10号)  野仲イサオ(11号)  渡部朋彦(12号)  
小原雅人 (守衛)/三谷幸喜

2020年5月6日(水)  14:00-15:28 (前半)/18:00-18:59 (後半)


公式サイトはこちら


三谷幸喜さんが東京サンシャインボーイズ時代に書き下ろして1990年に初演された「12人の優しい日本人」をリモートで読み合わせ、それをYouTube Liveで生配信するという企画です。
しかも、1992年東京サンシャインボーイズ上演版のオリジナルキャストを中心に招集して、というもの。



数ある三谷さんの名作の中でもこの作品選んだ近藤さんの慧眼 本当に凄いな。
こんなにこの企画に合った演劇ほかに思い当たらない。  tweeted at 3:50pm on May 6, 2020

↑ これ、前半観終わった時点での私のツイートです。
これに尽きる。


もともと1つの部屋の中で12人が卓を囲んで協議し完結するというシチュエーションドラマで、みんな座っている設定だから大きな動きもないのでリーディングに向いている上に、今のこの状況だからこそなzoomというツールを使って、画面を12分割して12人がきれいに画面に収まるところまで計算されたようで、ほんと、このためのホンなの?と思えるくらい。

しかも!

全員がリーディングなんていう水準を遥かに凌駕した息の合ったすばらしい芝居を見せてくださるのです。
まるで陪審員室が目の前に浮かび上がるよう。
開演前からライブならではの緊張感やドキドキもあって、久しぶりに「ナマのお芝居を観ている」感覚でした。


冒頭、近藤芳正さんが一人登場してお話される中で、最初はzoomに全員が入るのに1時間かかった、というのもなかなかツボでした。
直前のリハーサルでどなたかの家に宅配便のピンポーンが鳴ったり、焼き芋屋さんの声が聞こえたりということがあった、ともおっしゃっていましたが、本番中にもどなたかの部屋で救急車のサイレン音が遠く聞こえた場面がありました。

そんなことから、「グダグダになっても何があってもとにかく最後までやるのが今回のコンセプト」とおっしゃる近藤さんに、三谷幸喜さんが、「僕らの劇団の代表作だから、それを変な形でやられるとほんと、頭くるね。だからちゃんとやって!ちゃんとやってくださいよ!」と繰り返されていましたが、「よくこんなめんどくさいことやろうと思ったよね。まぁ、でもねぇ、おもしろいものって大体めんどくさいからね」ともおっしゃる三谷さん。口は悪いけれど温かい。
三谷さんが「初演メンバー、限りありましたが集めました・・・ひとり伊藤俊人さん死んじゃったんで今日来れませんけども」とおっしゃった時には伊藤さんのお顔が浮かんでグッときました。

演出の冨坂友さんの終演後のツイートによると、前半1.5万人、後半夜1.3万人が同時接続で視聴されたのだそうです。この作品のオリジナル版を観たことある人もない人も、本当にたくさんの方たちが“ライブで” “ 同時に” 楽しんだなんて、何てすばらしい演劇体験なのでしょう。

冨坂友さんといえば、今回役者さんたちの熱演に埋もれがちですが、演出の力も大きかったと思います。
三谷さんに「芝居のセンスはあるし笑いのセンスもあるし、メカにも強いという最強の男」と紹介された冨坂さん。

近藤さん→三谷さんと繋いた前説(?)から黒いバックのタイトル画面になって、やがてキャストが一人ずつバババッと画面に入ってくるオープニング。
一人ずつ部屋を退出するのに合わせてzoom画面から消えていくラスト。
そして、その後の「カーテンコール」ね!
一旦みんな画面から消えた後、再び1号から順に、守衛も三谷さんも演出の冨坂さんも登場して一礼、そして画面に向かって手を振って・・・そこに流れる「自由への賛歌」のピアノ演奏(後で調べたところ、佐山雅弘さんの音源だったとか)、本当に最後まで「演劇」だったなと胸熱でした。

リモート配信(会社での会議なども含めて)にありがちな音のタイムラグがなかったのも印象的だったのですが、これも終演後、冨坂さんがTwitterで質問に答えていらして、「間や遅延がないのは、固定回線を引いてる人がZOOMからYouTubeに配信してるのと、役者のアンサンブルの素敵さと、あとは稽古です…」とのこと。
ペンやノートなどを「見せて」といったやり取りもとてもタイミング合っていて、お稽古を重ねられたのだなぁと思いました。


この作品を最後に観たのは2006年(こちら)。
パルコ・プロデュース作品で江口洋介さんはじめ豪華キャストの舞台でした。
あの時もおもしろいと思いましたが、年月を経ても少しも色褪せない面白さ。
細かいギャグや時事ネタは1990年当時のままと思われますが、メインの筋立てがしっかりしていてそこに惹き込まれるので、そんな些末なことなんて気にならなくなります。

12人それぞれキャラが立って見せ場もある緻密に書き込まれた群像劇。
「十二人の怒れる男」というモチーフがあったとはいえ、これを日本に裁判員制度の欠片もなかった30年前、29歳の時に書いた三谷幸喜さん本当に凄い。
何度も繰り返される「話し合いましょう」という言葉は胸に響くし、「いい人だって人は殺すし、悪い人にもいい面はある」という12号の台詞は普遍だなと改めて思いました。

「人間には2種類ある。事を進めていく者と後に従う者だ。私は前者で君らは後者だ。黙って聞いていればいいんだ。どうせ今までだってそうして生きてきたんだろう。」と9号に言われた4号が「よく知ってるな、俺のこと!」と返した時は声をあげて笑ってしまったのですが。その愚鈍とも思えた4号がみんなからのプレッシャーにも負けず、「フィーリング」を信じて無罪の主張を曲げることをしないで、そこから11号を中心にバタバタと反証していく後半は本当に聴き応えありました。

言い出しっぺの近藤芳正さんはもちろん、終始議論を引っ張った2号の相島一之さんはじめ役者の皆さん、本当にすばらしかったです。
5号の吉田羊さんは今回が初加入ですが全く違和感ないどころか、論理派同士で vs な位置関係になる9号 西村まさ彦さんとのバランスが絶妙でした。
そしてピザ配達員で三谷幸喜さん登場。
「うちはね、うまい、早い、デカいが取り得なんです」って茶目っ気たっぷり。皆さん少しムフフとなっていらっしゃいましたね。


前半後半ライブ視聴して、また夜に通しでアーカイブ観てしまいました。
ライブの時にはできなかった「あ、今の台詞もう一度」も何回かやって、また違った楽しみ方もできて、ほんと、ありがとうしかない。

4月29日にこの企画を知ってから、カレンダーの5月6日の欄に「14:00・18:00 12人」と書き込んだり、30分前位からドキドキワクワクしながらPC立ち上げてスタンバイしたり、そんな段取りも含めて何だかとても久しぶりに「ナマで演劇を観る」感覚を味わいました。
三谷さん、近藤さんはじめ役者さんたち、演出の冨坂友さん、この企画に関わってくださったすべての方たちに心からの感謝を申しあげたいです。
そして、この幸せな時間を共有できた皆さま、私たち、演劇好きで本当によかったよね。



劇場でこの感覚が味わえる日が来ること、今は信じられる のごくらく度 (total 2095 vs 2103 )



posted by スキップ at 23:06| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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