2020年05月05日
三月大歌舞伎 「沼津」 @松竹チャンネル
昨年9月の「秀山祭」。体調不良で休演された吉右衛門さんの代役を幸四郎さんが開演1時間半前に決まって初役で勤め、3日間見事にやり遂げたことで話題になりました。
白鸚さんがインタビューでそのことに触れられ(こちら)
・本人には言わないけれど、度胸、覚悟、本当によくやった、と感心したこと
・今回の演目と配役を決める際、ご自身から松竹側に「沼津」はどうですか?とおっしゃったこと
・普段「一世一代」という言葉を使わない白鸚さんが「今回だけは使おうかと」考えられたこと
・それは幸四郎さんの心意気に対する親としてのささやかなご褒美という思いがあること
この記事を読んで、元々観るつもりでしたが、「これは絶対観なければ」と固く心に誓ったものでした。
実際、初日から9日間が中止になった時にはあきらめ切れず、終盤に再度チケット取り直したくらい(結局全公演中止となってしまいましたが)。
だから、こうして映像でも観られることはうれしい反面、やっぱりナマの舞台で観たかったという思いも一層強いです。
三月大歌舞伎 夜の部 「伊賀越道中双六 沼津」
出演: 松本幸四郎 片岡孝太郎 中村吉之丞
坂東彌十郎 松本白鸚 ほか
2020年3月20日 歌舞伎座にて収録
(上演時間: 1時間49分)
東海道を旅する呉服屋十兵衛(幸四郎)は、沼津のはずれで出会った雲助の平作(白鸚)から頼み込まれ荷物を持たせますが、年老いた平作の足取りはおぼつかず怪我を負ってしまい、十兵衛が印籠の妙薬で手当てをします。先を急ぐ十兵衛でしたが、平作の娘お米(孝太郎)に一目惚れして平作の家に立ち寄ることに。その夜、お米が印籠を盗もうとしたことから、十兵衛は平作こそが自分の実の父親だと気づきますが・・・。
さて、その十兵衛と平作。
前半は、若々しい十兵衛と足元もおぼつかない平作のやりとりがとても楽しく微笑ましい。
幸四郎さんの十兵衛はやわらかくて色気もある二枚目ぶり。
白鸚さんは平作初役ですが、想像した以上に平作でした。
ヨレヨレなのですが(笑)、その中に気骨がにじみ出て、年恰好からも幸四郎さん十兵衛との親子感が自然。
この二人が客席通路を歩いてアドリブを入れたり、客席をいじったりするのがこの演目の前半の見どころとなっていますが、誰もいない客席を歩く姿はやはり切ないです。
幸四郎さん十兵衛は道を逸れて「綺麗な人見るとすぐそっち行く」と平作にツッコまれたり、カメラにどんどん近づいて「お地蔵さん」にご挨拶されたりしていましたが、本当ならここで笑いや拍手が起こったんだろうなぁと思ったり。品のよいユーモアのセンスがあってアドリブも達者な幸四郎さんなので、きっと楽しい場面になったことでしょう。
前半がそんなふうにほのぼののどかなので、後半の悲劇がより一層際立ちます。
多分ずっと実の親に会いたいと願っていたであろう十兵衛。
その親にやっと会えたのも束の間、自分とは仇筋という因縁に名乗ることもできず旅立ち、自分を追って来て目の前で死んでいく平作にせめてものはなむけ「股五郎が落付く先は九州相良、九州相良」の声が悲痛に響きます。
市井の親子のドラマですが、会いたいと願い、会ったことで悲劇が起こるという皮肉に胸が詰まります。
父と息子の情愛と深い絆も感じられ、とても心に沁みるラストでした。
これまで何度も観た「沼津」ですが、こんなに台詞を一言一句漏らさず聴いたのは初めてではないかと思うくらい。←
それは映像の効用かもしれませんが、それでもやはり舞台で観たかったという思いが残ります。
近い将来 必ず座組で上演されると信じています のごくらく地獄度 (total 2094 vs 2103 )
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