2020年03月04日

届かぬはずの月 「カリギュラ」


calligula.jpgフォーチュンに思いを馳せながら、同じように孤独な、こちらの暴君の感想を書きかけだったことを思い出しました。

「カリギュラ」は蜷川幸雄さん演出、小栗旬くん主演版が強烈に印象に残っていて(調べたら2007年だった。13年前って・・・驚くばかり)、当時 小栗旬くん人気絶頂のころでチケット取るのがとても大変だった記憶がありますが、今回の菅田くんもそれに勝るとも劣らない人気ぶりで、「よくチケット取れたねぇ」とたくさんの人に言われました。若いファンのお嬢さんたちの観劇マナーが話題にもなりましたが、私が観た日は全く問題なくて、2時間40分 緊張感途切れることなく舞台に集中することができました。


「カリギュラ」
作: アルベール・カミュ
翻訳: 岩切正一郎
演出: 栗山民也
美術: 二村周作
照明: 勝柴次朗  音楽: 金子飛鳥  衣裳:前田文子
出演: 菅田将暉  高杉真宙  谷田歩  橋本淳  秋山菜津子  原康義 ほか

2019年12月5日(木) 6:30pm 神戸国際会館こくさいホール 1階2列(最前列)上手
(上演時間: 2時間40分/休憩 20分)



ローマ帝国三代皇帝カリギュラの物語。
最愛の妹ドリジュラが急死して失踪していたカリギュラ(菅田将暉)は3日後に帰還すると暴君と化し、臣下から財産没収する、拷問で命を奪う、臣下の妻を略奪し公営売春宿に送る、といった暴虐の限りをつくします。奇抜な扮装をしたり奇妙な行動をとって人々から怖れられますが、3年後、ついに冷徹なケレア(橋本淳)率いる臣下たちに暗殺されるまでを描きます。

劇作家であり哲学者でもあるカミュの紡ぎ出す台詞はとても哲学的で難解。
前回も今回も、正直のところすべて理解できたとはとても思えません。
けれども、カリギュラの狂気の沙汰には人々の偽善を突く真理が込められていたり、臣下や国民はカリギュラから大切なものを奪われたことで、それが大切だということに気づく・・・平穏な時にはその幸せに気づかない・・・まるで今の私たちじゃない。
為政者の暴虐を周り誰も止めることができない状況も、どこかの国の今と似通っていて、背中にナイフを突きつけられたようなヒヤリとした感触を覚えます。


カリギュラの傍には
無償の愛で寄り添う寵妾セゾニア(秋山菜津子)
奴隷の身分から救われた忠臣エリコン(谷田歩)
カリギュラに父を殺されてもなお、詩という芸術を通して彼を慕うシピオン(高杉真宙)
といった人々がいるのに、決して心を開こうとしないカリギュラの孤独が際立ちます。
最期にカリギュラを討つことになるケレアにしても、カリギュラが己の真理を実行しようと苦悩していることは理解していて、でも理解と共感とは別のもので。

「不可能なもの(=月)が欲しい」と決めて暴挙に突き進んだカリギュラ。
追い詰められ、臣下たちの剣に体を貫かれながらも、探し続けた己の真理を求めて、届かぬはずの月に手を伸ばす姿が哀しい。


菅田将暉くんのカリギュラは中性的で幼児性を強調した造形。
潔癖なまでに純粋で、繊細で、触れれば自分自身が傷つくガラスのよう。
あの難解な長い台詞もよどみなくよく届き、緩急も自在。
女装もチュチュも軽々と似合っちゃう美形とほっそりした体躯にあの腹筋の割れ方、若いお嬢さんたちでなくてもヤラレてしまいますね(←)。
舞台の菅田将暉くんを観るのは「ロミオ&ジュリエット」(2012年)、「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」(2017年)に続いて3度目ですが、一人で大舞台背負える立派な役者さんになったなぁと感慨深いです(どんな上から目線)。

悪役イメージ強め(笑)の谷田歩さんの“忠臣”エリコンよかったです。
気高く美しい秋山菜津子さんのセゾニアもさすがの存在感でしたが、演出なのかご本人の演技プランなのか、母性が強すぎて時々カリギュラのお母さんみたいに感じられたのが残念だったなー。

カリギュラを憎み、苦しみながら受け容れるシピオンとカリギュラに理解を示しながらも最後に彼を討つことになるケレアはある意味対象となる人物。
高杉真宙くんと橋本淳くん。シピオンの繊細さと清廉さ、ケレアの強さと冷徹さ、その対象性がもっと際立つとよかったかなぁと思います。お二人とも美形だし、時々「あれ、どっち?」と思うことがありました(私の観る目の問題である)。
 

刀とも柱ともとれるものが林立する抽象的な舞台装置。
客席側はまっすぐではなく、曲線を描いて突き出した部分があったり、床の一部はアクリル板?で下から照明で照らしたり、カリギュラの鏡だったり。
暗闇の中、ホリゾントの扉が開き、その開いた部分だけ鮮烈な赤が見えて、そこにカリギュラのシルエットが浮かび上がるオープニングは絵画的でゾクッとするほど美しかったです。



calligula1.jpg.jpeg calligula2.jpeg

グッズ販売長蛇の列。
このタペストリー撮るのも長い列ができていました(幕間に撮ったら並ばずにすんなり)。




菅田将暉くんカリギュラ 客席目の前に降りてきたけど下手ばかりで上手には来なかったの残念だったな(そこ?) の地獄度 (total 2077 vs 2080 )



posted by スキップ at 17:12| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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