2020年02月29日
こんなはずじゃなかった 「FORTUNE」
果てしない欲望を満たすために悪魔と契約した「ファウスト」伝説を基にした物語。
舞台を現代のロンドンに移し、気鋭の映画監督フォーチュンの転落を描きます。
イギリスの劇作家サイモン・スティーヴンスの新作にしてこれが世界初演です。
PARCO PRODUCE 2020 「FORTUNE」
作: サイモン・スティーヴンス
翻訳: 広田敦郎
演出: ショーン・ホームズ
美術: ポール・ウィルス
ステージング: 小野寺修二 音楽: かみむら周平 照明: 佐藤啓
出演: 森田剛 吉岡里帆 田畑智子 市川しんぺー
平田敦子 菅原永二 根岸季衣 鶴見辰吾 ほか
2020年2月20日(木) 6:30pm 森ノ宮ピロティホール L列上手
(上演時間: 2時間50分/休憩 20分)
物語: 映画監督として成功をおさめた41歳のフォーチュン(森田剛)は、幼い頃自分を捨てた父親が自殺するという、心に喪失感を抱えて生きていました。才能ある若きプロデューサーのマギー(吉岡里帆)に好意を抱きますが、夫と幸せな結婚生活を送る彼女から拒絶されます。焦燥に駆られ、謎の女ルーシー(田畑智子)の誘いに乗ってある「契約」を交わすフォーチュン。するとフォーチュンの願いは次々とかなえられていきます・・・。
ゲーテの「ファウスト」は「若きウェルテルの悩み」とともに高校時代に読んだ(読まされた)ことがありますが、難解すぎて理解できず。内容もあまり覚えていません。
ただ、「ファウスト」という主人公の名前が「幸福な」を意味するラテン語名ファウストゥスに由来するということは印象に残っていて、「だから『FORTUNE』なのね!」と観る前は思っていました。
そして、劇中、フォーチュンのお父さん(鶴見辰吾)から「ルシファー」という言葉が出てきて初めて「あ、ルーシーはルシファーなのか。堕天使じゃん」と思い至った次第です(気づくのが遅い)。
そういえばここの台詞、「神様とルシファーが喧嘩して、それが人間の『意識』なんだ」みたいな内容だったと思うのですが、「うん?どういうこと?」と考えているうちに流れてしまって、咀嚼できなくて残念。戯曲(「悲劇喜劇」に掲載されているらしい)読んでみようかしら。
木の板で覆われた三方の壁面と床。正面奥に大きな引き戸。
他に舞台装置らしいものがなく無機質でだだっ広く感じられる空間に、ぽつんと置かれた冷蔵庫。その中にはダイエットコークがぎっしり詰まっていて、床にもダイエットコークの空缶が無数に散らばっています。
サイモン・スティーヴンスさんの戯曲とは知っていましたが、演出も美術もいかにも外国の人って感じだなぁという印象です。
フォーチュンがルーシーと出会う場所がロンドンの高層ビル ザ・シャードだったり、ルーシーがスマートフォンを使ってフォーチュンを契約に導いたり、と現代テイストが散りばめられて、チャップリンとかハリーポッターとかパディ・コンシダインとか、サイモン・スティーヴンスさん、映画好きなのねとニンマリとなったり、ネットでお手軽に悪魔とコンタクト取れる、とかまるで現代社会への警告のようでもあり、細部までこだわった戯曲と演出。
自分の望みが次々叶って、マギーを手に入れて得意満面になってみたものの、彼女の言葉がその心からではなく、「俺が言わせてるんだよな」と気づくフォーチュンの切なさ。
すべてに絶望しても「12年間限定」の契約で死ぬことすら許されないフォーチュンの悲哀。
悪魔から逃れようと刑務所に入るため二人の警官を射殺するフォーチュンの狂気。
独房の中でひとり世界を語るフォーチュンの孤独。
追い詰められ、目をえぐられてもなお拭うことができない恐怖へのフォーチュンの足掻き。
「こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった!」と繰り返すフォーチュンの涙。
欲望を満たすために、悪魔と契約を交わしてしまった愚かさを後悔し嘆くフォーチュンを、それまで天井から細くとめどなく降っていた時間の砂が、一気に呑み込むラストには言葉をなくす思いでした。
「今いまし、昔いまし、やがてきたるべきもの」
は、ヨハネの黙示録にある「全知全能たる神」のことだと記憶していますが、これをルーシーが繰り返して言う意味を考えたものの答えは見つからず。
全知全能を手に入れようとして、天上からこぼれ落ちたフォーチュンのメタファーなのかな。
フォーチュンの森田剛くんすばらしい。
こんな剛くんが観たかったのよぉ~。
傲慢の中に繊細さと孤独感を滲ませ、脆さも危うさも狂気も内包するフォーチュン。
いく分甘いかなと思っていた口跡は影をひそめて、独房の独白も情感たっぷりに聴かせてくれました。
「こんなはずじゃなかった」の私の心への突き刺さりっぷり、ハンパなかったです。
「咲く花を見ていればよかった」 by 岡田以蔵 (「IZO」2008年)
「刀のひとつもない」 by 源範頼 (「鉈切り丸」 2013年)
の二つが、これまで森田剛くんが放った台詞で私が大好きな TOP 2 なのですが、ここに「こんなはずじゃなかった」が仲間入りです。
その剛くんフォーチュンの「こんなはずじゃなかった」に対して、
「ワタシ、(こうなるってこと)言ったよねぇ?」と言い放つ田畑智子さんルーシーがまたすばらしい。
妖しくて冷酷で、でもコケティッシュで。
少し前に「キレイ」を観て、「前回のカスミは田畑智子さんだったよなぁ」とイメージしていたところだったのでその振り幅の広さにも改めて女優さんて凄い!と思いました。いつもスックとフォーチュンを見据えて、凛とした立ち姿の美しさも目を惹きました。
吉岡里帆さんは井上芳雄くん主演の「ナイスガイ in ニューヨーク」(2016年)でヒロインをされていて、それが初舞台とおっしゃっていましたが、その時の方がイキイキしていたような(←)。
もちろん役柄の違いというのはあるのですが、よくも悪くも映像と変わらない印象でした。
マイクありとしても声はよく通っていて台詞もよく伝わっていたと思います。
鶴見辰吾さん、根岸季衣さんの両ベテランはさすかの安定ぶり。
どこか浮世離れした旦那サマ(もう死んでるけど)と地に足つけてしっかり生きてる奥サマ。
対照的なご夫婦だったな。
それにつけても、鶴見辰吾さんがあんなにラップお上手とはオドロキでした。
オールスタンディングとなったカーテンコール。
場内アナウンスが流れても鳴り止まぬ拍手に、おどけるように弾けて登場した森田剛くん、かわいすぎる。
重い結末に沈んだ客席も一気に華やいだようでした。
「おめでとう!」の声が飛んで、笑顔で応える剛くんに、この日がお誕生日だと知りました。
3回のカーテンコールの間、劇の余韻を慮ってか声をかけなかった剛くんファンの皆さま ステキだな。
↑ あの剛くんの謎の踊り? 「ぴょんぴょん飛び跳ねて」「もしくは全速力で走って」という平田敦子さんのお願いだったと翌日のツイートで知りました(こちら)。
ほんとかわいすぎる。
確認したいこともあるのでWOWOWあたりでオンエアされるとうれしいな のごくらく度 (total 2076 vs 2078 )
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