昼の部は3階から。
松竹座の3階1列目って嫌いなのですが、後援会でチケットお願いすると列指定できないのがツライところ。
壽初春大歌舞伎 昼の部
2020年1月22日(水) 11:00am 大阪松竹座 3階1列上手
一、お秀清七 九十九折
上の巻 木谷屋の中の間の場/四條磧の場
下の巻 芸者雛勇宅の場
作: 大森痴雪
監修: 山田庄一
出演: 松本幸四郎 片岡愛之助 中村壱太郎
嵐橘三郎 市川猿弥 中村松江 坂東彌十郎 ほか
(上演時間: 1時間25分)
45年ぶりに上演される復活狂言。もちろん初見です。
舞台は幕末の京都。
諸家御用達の木谷屋では、勤皇派に金を融通した罪を手代の清七(幸四郎)が一人で被り身を隠していました。清七の忠義に主人の仙右衛門(彌十郎)は娘のお秀(壱太郎)を嫁がせると約束していましたが、5年後、清七が京に戻ると所司代 吉井作左衛門(橘三郎)の甥新造(松江)が婿養子になっていました。仙右衛門から手切れ金として三百両を渡された清七は失意の中、お秀と瓜二つの芸者 雛勇(壱太郎二役)と出会います・・・。
「え~っ、清七、かわいそうやん!」
というのが最初の感想。
贔屓の役者が演じているというのを差し引いても、あまりな仕打ち。
でも仙右衛門さんとしては、お店を守るためにそうするより仕方なかったのでしょう。
ただ真面目に、懸命に生きながら、報われずに破滅する清七。
「一つだけ」という願いも聞き入れられず、かといって口答えしたり暴れたりもせず、生木を裂かれるような思いでお秀の前から去る清七。
幸四郎さん独特の清潔感が清七の哀れさを一層際立てます。
勤皇派にお金を融通することが罪になるというのが、いかにも世相揺れ動く幕末の京都という感じ。
ちなみに、あらすじも全く知らずに観たのですが、彌十郎さんの台詞に「橋本左内」という名前が出て来て「幕末の話なのか」と察したワタクシ、昨年の新選組本爆読みの効果テキメン。(←)
お秀と雛勇をくっきり演じ分けた壱太郎さん。
雛勇のような汚れ役は珍しいと思いますが、騙すつもりがいつの間にか本気で惚れてしまう女心の機微を細やかに見せてくれました。
雛勇の間夫 八坂の力蔵は愛之助さん。
いや~、もうクズっぷりがすばらしくハマっていましたね(ほめています)。
二人のやり取りからうすうす騙されていることに気づく清七。
飲めない酒を飲み、雛勇に金を投げつけて、最後に、
「お秀さん、どうしてあの時、止めてくれなかったんや」
やっぱりずーっとお秀さんのこと忘れられなかったんだ ナミダ
力蔵が誤って雛勇を刺し、その力蔵を清七が刺して、折り重なるように倒れる二人のそばで金を拾って逃げ去る清七。
「え~っ、清七、かわいそう過ぎるやん!」(再び)
な幕切れでした。
木谷屋を出た時、多分死ぬつもりだった清七を追いかけて一緒に酒を飲み、励ます手代 久七(猿弥)の温かさが一服の清涼剤のようでしたが、久七が清七に酒を飲ませて四條磧に行かなければ雛勇と出会うこともなかったのに、と思うと・・・。

作: 河竹黙阿弥
構成・振付: 二世 藤間勘祖
出演: 片岡愛之助 中村虎之介
市川猿弥 松本幸四郎 ほか
(上演時間: 1時間)
娘道成寺をベースに、大津絵に描かれた5役を一人の役者が踊り分ける賑やかな舞踊。
藤娘に始まって、鷹匠、座頭、船頭、鬼と早替りで踊ります。
道成寺ものはほとんど全部観たことがあると思っていましたが、これは初見でした。
楽しかったです!
大きな鐘が据えられた舞台。
大津の三井寺で行われる鐘供養へやって来たのは外方(松十郎)と所化ならぬ唐子たち(吉太朗ほか)。
そこへスッポンから登場したのは白拍子花子ならぬ藤娘。
ここから次々姿を変えて踊る愛之助さん。
袖にはけたと思ったらすぐ花道から違う姿で登場と、早替りも鮮やか。
衣装も引き抜きがありぶっ返りありで目にも楽しく、常磐津と長唄の掛け合いが、また賑やかで正月らしい。
座頭に絡む虎之介くんの犬もかわいかったです。
これが最初の演目でもよかったのではないかしら。
猿弥さんのちょっとおとぼけの弁慶が引き連れた槍奴さんたちの「とうづくし」。
「ありがとう」「東京オリンピック」と続く中、「皆さんお昼ごはんは食べられましたか。おすすめははり重の洋風べんとう~」とあって、ちょうどそれ、幕間に食べたばかりだったのでウケて「あっつはっは」と声出して笑ってしまいました。


これね。
そうして最後にラスボス感満載で登場する幸四郎さん矢の根五郎。
この押し戻しがカッコよすぎて、3枚出てた舞台写真全部買ってしまいましたとさ。

出演: 中村扇雀 中村鴈治郎
中村寿治郎 嵐橘三郎 ほか
(上演時間: 1時間)
三勝半七という実際に起こった心中事件をもとにしたお話。
大坂上塩町の酒屋「茜屋」の息子半七(鴈治郎)はお園(扇雀)という妻がありながら、女舞芝居の芸人美濃屋三勝(扇雀)と恋仲になってお通という子供までもうけて勘当され、三勝をめぐるいざこざから殺人まで犯してしまいます。お園はそれでも半七を慕い、一度は連れ戻された実家から父 宗岸(鴈治郎)に伴われて茜屋へ戻ってきます。そこへ、酒屋のお客に付き添って出かけた丁稚が捨て子を連れて戻ってきます・・・。
当初出演予定だった坂田藤十郎さん休演のため、三勝は扇雀さん代役となり、お園との二役、もともと二役だった鴈治郎さんと合わせて、ご兄弟で四役を勤められました。
特別ポスター(右上の画像)の三勝は藤十郎さんのままですね。
これは2016年に文楽で観た演目(こちら)。
その時にも思いましたが、勝手すぎる半七に対してお園さん、人が好すぎる。
半七のあの手紙・・・「三勝とは子までなしたから別れる訳にはいかない。心中するから子どもと年老いた両親をよろしく頼む。自分の供養も・・」と書きながら、「しかし、夫婦は二世と言うので、未来は必ず夫婦にて候」って、どんな精神構造なのかと思います。
それを読んで、「未来は必ず夫婦、と。ええ、こりゃまことか。半七さん、うれしゅうござんす~」と喜ぶお園さんもいかがなものかとは思いますが。
酒屋内の舞台が回ると店先の格子から中の様子をうかがう半七と三勝。
扇雀さん、マッハの早替りであります。
藤十郎さんだったらどんな三勝だったかなぁと思いながら観ましたが、扇雀さん、娘を遺して死のうとする切なさや苦悩が出ていてよかったです。
しかーし、お正月興行だというのに昼の部 幕開きと切りが暗すぎでは? の地獄度


