2020年01月25日

風吹き抜ける青空の下 「風博士」


kazehakase.jpg近代日本文学へのリスペクトを込めて名作戯曲や文学作品、作家をモチーフに新作戯曲を生み出そうというコンセプトから始まったシス・カンパニーの日本文学シアター。

6作目は坂口安吾の「風博士」。
といっても小説をそのまま舞台化するというのではなく、そこから着想を得て、北村想さん独特のユーモアを湛えて紡ぐ新しい物語です。


シス・カンパニー公演
日本文学シアター Vol. 6 【坂口安吾】
「風博士」
作: 北村想 
演出: 寺十吾
音楽: 坂本弘道 
美術: 松井るみ  照明: 服部基  衣装: 前田文子
出演: 中井貴一  段田安則  吉田羊  趣里  林遣都  
松澤一之  内藤裕志  大久保祥太郎  渡辺えり

2020年1月11日(土) 6:30pm 森ノ宮ピロティホール B列センター
(上演時間: 1時間50分)



物語の舞台は第二次世界大戦終戦間近の大陸のどこか(多分満州あたり)。
この地でピー屋(軍専用の女郎屋)の主人を生業とする「風博士」ことフーさん(中井貴一)。
彼はかつて軍で風船爆弾を研究する科学者でした。
梅花(渡辺えり)や元新橋芸者で“フーさんの追っかけ”鶯(吉田羊)が働くこの店のフーさんのフーさんのもとに、広瀬大尉(段田安則)が、爆撃で両親と兄を亡くたショックからおかしくなってしまったサチ子(趣里)を連れて来て、預かってほしいと頼みます。
ある日、フーさんの店で酔いつぶれた堂島曹長(松澤一之)を迎えに来た初年兵のスガシマ(林遣都)はサチ子と次第に心を通わせるようになります・・・。


「この作家はやたらと役者に歌を歌わせるんだ」とフーさんが言う通り、歌がふんだんに織り込まれて、さながら音楽劇の様相。そこに笑いもたくさん散りばめられています。
舞台上手下手両方に縦にスクリーンが設置され、「一、青空」といった章のタイトルや歌詞も字幕で流される演出。

舞台となっているピー屋はいわゆる慰安所で堕ちた女たちが行き着く地獄のような場所で、戦況はとても暗い。
「戦うこと以外、他の人生は選べなかった」とスガシマが歌うように、戦争の理不尽さも人々の苦しみも滲む重い物語ですが、悲壮感を全面に出す訳でも、取り立てて美化する訳でもなく、恨みがましいことを言ったり全否定するというのでもない・・・でも戦争が生み出す悲劇やその道が間違っていることはきちんと伝わる、過酷な戦時下ながら青空のもと「風」が吹き抜けるような舞台。

広瀬大尉と梅花が爆撃を避けた蔵の中、互いのふるさとの良さを語って、「あんな小さな町に爆弾なんか落ちっこないよね」と言うその町が広島と長崎というあたり、何気ない会話の中に「その時」がすぐそこに来ていることが胸に迫って、「北村想さん、あざといな」と思いながらまんまと術中にハマったり。


穏やかでひょうひょうとした中に心の翳りが感じられるフーさんの中井貴一さん。
お芝居なのか素なのかわからないような自然な中に時折火の玉投げて来るような演技が本当に凄い。
日本国軍人としての立ち方と人間らしさの両方を絶妙な塩梅で見せる広瀬大尉の段田安則さん。
フーさんと広瀬大尉の会話のシーンは、確かに物語の中の人物なのだけど自然な会話のようにも聞こえて、「あー、何て贅沢なお芝居なの」と何度も思いました。

吉田羊さん演じる鶯は、役自体がすでにカッコいいのですが、それをあれほどハンサムに演じられるのは羊さんならでは。
鶯さんの艶やかな着物が着こなし含めてとてもステキでした(衣装: 前田文子)が、キリリとした軍服姿もカッコよかったな。

渡辺えりさん梅花姐さんの明るさと存在感、ティピカルな“憎々しい”日本軍人 堂島曹長の松澤一之さん。
趣里さんの観ていて切なくなるようなサチ子。
繊細な初年兵スガシマの林遣都さん。

役者さんは皆すばらしかったです。


スガシマが一人で敵と遭遇する場面で、明るく振舞っているけど「この子、ここで撃たれて死ぬんだなぁ・・・」と思っていたらその通りになっちゃって、サチ子さんの気持ちを考えると切なすぎる幕切れだったのですが、ラストシーンには笑顔で加わっていて、少し救われた優しい気もちになれました。




座席が前過ぎて字幕出てるの気づかず時々見落としたのが無念 のごくらく地獄度 (total 2063 vs 2065 )


posted by スキップ at 23:29| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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