
星組95期 このところ人気も実力も急上昇の瀬央ゆりあさん 2度目のバウホール主演にして演出の指田珠子先生 バウホールデビュー作。
「夜叉ケ池」伝説と「浦島太郎」をミックスした物語。
泉鏡花の「夜叉ケ池」好きとしては、とても楽しみにしていました。
音楽奇譚 「龍の宮物語」 (たつのみやものがたり)
作・演出: 指田珠子
作曲・編曲: 青木朝子
振付: 御織ゆみ乃 花柳寿楽
出演: 瀬央ゆりあ 有沙瞳 美稀千種 天寿光希 大輝真琴 天華えま
天路そら 朱紫令真 天飛華音 水乃ゆり 澄華あまね ほか
2019年12月5日(木) 2:30pm 宝塚バウホール 1列上手
(上演時間: 2時間30分/休憩 25分)
物語: 明治中期 実業家島村家の山荘。書生の伊予部清彦(瀬央ゆりあ)は、親友の山彦(天華えま)や仲間達との百物語で夜叉ケ池伝説を知り、度胸試しに一人池へ向かって山賊に襲われている娘に遭遇します。清彦が娘を助けると、娘はお礼に清彦を池の奥底にある龍神の城・龍の宮へと案内します。娘は龍神の姫・玉姫(有沙瞳)でした。龍の宮でもてなされ、豪華な生活に浸りながら、姫の妖しい美しさに惹かれていく清彦。やがて数日が過ぎ、友人達や島村家の令嬢 百合子(水乃ゆり)のことが恋しくなった清彦は地上へ帰りたくなり・・・。
バウホール作品は小品ながら佳作が多く見られますが、この作品もとてもよかったです。
まず脚本と演出がすばらしい。
謳い文句通り、「夜叉ケ池」伝説と「浦島太郎」がミックスされていますが、ただファンタジーに終始せず、切なさや哀しさが満ちています。
心理描写が繊細で、伏線など精緻に構築された脚本。
清彦たちこちらの世界の人はもちろん、龍の宮の人外のものたちの描き方も魅力的でふわりと揺らめく布で水の中を表現するなど舞台美術も美しい。
指田珠子先生、第2の上田久美子先生とヅカファンの間で評判になっていますが、これからもどんな作品を描かれるのか楽しみ。
瀬央ゆりあさん、有沙瞳さんの主演コンビをはじめ、脇を固める人たちもすべて高値安定。
音楽もいいし、さらに一瞬にして別世界に誘うフィナーレもついて、お愉しみ満載。
山賊に襲われていたのは実は仕込みで、清彦を龍の宮に連れて来るためのもの。
玉姫はもともと人間だったのに雨乞いのための生贄にされ、自分を差し出した家族や助けてくれなかった恋人を恨んで子孫へ復讐の機会を狙っていたのでした。
誠実な清彦の人柄、やさしさに接し、次第に惹かれていって、復讐心との板挟みに苦悩する玉姫。
「悪党ならばよかったのになぁ・・・」というつぶやきが切ない。
一旦は殺そうとして殺し切れず、「もしまた私に会いたいと思うならその箱を開けてはならない」という箱を渡して清彦を地上に帰す玉姫。
清彦が帰った世界は、30年の歳月が流れていて・・・という設定。
30年後の世界に戸惑いながらもいろいろあって、やはり玉姫が忘れられずまた夜叉ケ池に戻る清彦。
「なぜ戻ってきた!」と剣を構える玉姫に、子どもの頃、あげると約束した桜蓼(サクラタデ)の花を差し出す清彦。
何てやさしく切ないシーン。
かつて龍となった自分の姿を見て逃げ出した恋人を恨み、龍の姿を現して「これが私の姿だ」と言う玉姫を抱きしめる清彦。
「あなたはずっと悲しかったのですね」と(涙)。
この「30年後」にはアナザストーリーがあって、それは山彦。
山彦は最初の島村家の山荘の場面で、「夜叉ヶ池」という言葉にナーバスな表情を見せたり、清彦が一人で池に行ったと知って「なぜ止めなかったんだ!!」と言ったりして何か知っている様子でした。
30年後の清彦の前に現れた山彦。
昔のまま時が止まっているような清彦を見ても他の人たちのように驚きません。
そして清彦に、その昔、夜叉ヶ池で起こった村の青年と娘の話を語ります。池に沈められた娘に会いに行き、龍の姿となった娘に恐れおののいて逃げ帰った青年の子孫こそ山彦で、山彦もかつて龍の宮に連れて行かれ、何とか帰って来たた経験がある人物でした。
そして、山彦は実は清彦の祖父だったことも判明。
つまり、冒頭の場面は山彦にとって30年後の世界という訳です・・・ふほぉ~、指田先生!と唸りました。
しかも山彦は震災で亡くなっていて、清彦を止めるために現れたということもわかり、「俺が止めても、行ってしまうんだな」というつぶやきがまた切ない。(切なさモリモリか!)
天華えまさん、よかったです。
瀬央ゆりあさんは、涼やかなビジュアルと硬派な持ち味が清彦にぴったり。
スタンドカラーのシャツにかすりの着物と袴、黒髪という明治時代の書生スタイルがとてもよくお似合い。イケメンなのにどこまでも誠実でやさしくてちょっぴりヘタレというところも愛すべきキャラクターでした。
玉姫の二面性を振り幅大きく演じ分けた有沙瞳さん。
妖艶な美しさと冷たさ、清彦に心惹かれる切なさ苦しさ、そして龍の正体を現した時の凄み。
演技はもちろん、歌唱もすばらしかったです。
清彦が最初に思いを寄せる百合子と30年後のその娘 雪子は水乃ゆりさん。
品よく凛とした立ち居振る舞いがいかにも明治時代の深窓のご令嬢といった雰囲気。
清彦に思いを残しながも身分が釣り合う人とちゃんと結婚するという芯の強さも見せます。
美人さんで台詞もいいので後は歌かなぁ。
娘役では、龍の宮の少年 笹丸を演じた澄華あまねさんも目立っていました。
瀧の宮勢では何といっても龍神の天寿光希さんのスケール感と存在感。
天寿さんってこんなに野太い声を出す人だったっけ?と驚きましたし、決して上背がある方ではない天寿さんが大きく見えました。
龍神様の弟 火遠理の天飛華音さんが台詞は少ないながらクールな雰囲気と目ヂカラで印象的。
天飛くん、フィナーレの群舞でも4番手ポジションで、グングン来ていますね。
スタイリッシュでカッコいい男役群舞、リフトも美しい夢のようなデュエットダンス、とフィナーレまでたっぷり楽しませていただきました。
大人気でパンフレット完売したんですって のごくらく度


